雇用する外国人が逮捕された場合に企業に求められる対応

ケース

当社は、海外ブランドを輸入して、神戸市内の店舗で販売する事業を営んでいます。私は、その会社で人事部長を担当しています。

当社では、海外ブランドメーカーとの交渉を担当する人材として、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を有する外国人を複数名雇用しています。

ある日、外国人Xさんの妻から、「今朝、夫が逮捕されてしまい、しばらく会社に行くことができません。夫がどうして逮捕されたのかは、全く分かりません。」と連絡がありました。

Xさんは、有名ブランドメーカーとの契約交渉を行っており、しばらく仕事に復帰することができなければ、交渉が白紙に戻ってしまうかもしれません。

また、社長は、Xさんが逮捕されたことについてご立腹で、「そんなやつは会社にいらないから、すぐに解雇しなさい。」と話しています。

私はいったい、どうすればよいのでしょうか。

みお神戸の弁護士の対応方法

従業員が逮捕されたというのは、企業にとって一大事です。特に、このケースのように、逮捕された従業員が重要な仕事を任されていた場合、対応に苦慮することでしょう。特に、このケースにおいては、逮捕された従業員が外国人である点が気になるところです。

もちろん、逮捕された従業員が外国人であった場合に、企業が特別な法的責任を負うわけではありません。あくまでも、企業に適用されるルールは、日本人の従業員の場合と同じです。

ただ、外国人の場合、在留資格の問題や、日本語能力の問題によって、企業が特別に留意しなければならないポイントがあります。

きちんと弁護活動がされているか確認しましたか

Xさんに弁護人は必要か

Xさんが逮捕されて2日程度(勾留に移行するまでの間)は、Xさんへの一般面会は認められません。また、その後(勾留に移行した後)も、接見禁止が付いていれば、やはり、一般面会は認められません。

もっとも、弁護士であれば、「弁護人」、または、「弁護人となろうとする者」として、逮捕されてからすぐに、Xさんと面会(接見)をすることができます。

Xさんの場合、定職についており、一定の資産があることが見込まれるため、(ケースによりますが)国選弁護人を選任することが難しいように思われます。そうすると、私選で弁護人を選任しなければ、起訴されるかどうかが決まるまでの間ずっと、弁護人からの援助を受けられないことになります。

 

※ただし、当番弁護士制度を利用すれば、1回は弁護士からの援助を受けることができます。もっとも、入管法等の複雑な問題が絡む外国人刑事事件においては、1回の接見のみでは弁護士から十分な助言を受けられないこともしばしばあります。

 

もしかすると、Xさんは、「家族に負担をかけるのが申し訳ない」と思い、弁護人を選任しないかもしれません。ただ、これは、とてもリスクの高いことです。

 

日本の刑事手続は外国人には難しい

第1に、日本の刑事手続についてきちんと理解していなければ、事件が予想外の方向に進んでしまうおそれがあるからです。

外国人にとって理解しにくいのが、「供述調書」の意味です。日本では、取調官が被疑者から聴き取った内容をもとに供述調書を作成し、被疑者に内容に確認させたうえで、署名指印させる方法が一般的です。ただ、外国人にとって、「取調官の作文が、自分の供述として扱われる」というのは、理解しにくいものです。なぜなら、取調べの方法や供述調書の扱いは国によって異なるからです。「あの署名指印にそこまでの意味があったとは思わなかった」と後で後悔しても、取り返しがつかないことが多いのです。

外国人事件の場合、日本人の事件の場合よりも、供述調書に誤った事実が記載されてしまうおそれが高いです。一般に、外国人事件の取調べにおいては、通訳人が供述調書の内容を通訳しながら被疑者に読み聞かせて、内容に間違いがないことを確認できれば、供述調書を翻訳して閲読させる対応をせずに、そのまま署名指印させる運用がとられています。しかも、取調官が被疑者から聴き取った内容は、被疑者から直接聞いたことではなく、通訳人の通訳を介した内容です。そうすると、もし、通訳人が誤訳をして最後までそのことに気づかなかった場合、誤訳によって虚偽の供述調書が完成してしまい、しかも、被疑者がそのことに気づかずに署名指印してしまうおそれがあります。

弁護人の援助を受けられれば、取調べでの通訳に問題がある場合には改善を求めたり、可視化(ビデオ撮影)を求めたりすることで、このような問題を解消することができます。「通訳の問題が解消されない限り、供述調書にはサインしてはいけない」など、プロの目から見た適切なアドバイスも受けることができます。Xさんにとって、捜査段階における弁護人の援助は不可欠です。

 

刑事責任より怖いかもしれない強制送還

第2に、外国人事件の場合、いわゆる強制送還、正確には退去強制処分を受けるおそれがあるからです。刑事事件を起こしたら必ず強制送還になると誤解されている方も多いかと思いますが、決してそのようなことはありません。刑事事件でも、強制送還になるかどうかは、罪の内容によって変わります。

また、たとえ強制送還になる理由があったとしても、在留特別許可によって日本にとどまることができる場合もあります。Xさんには、日本に家族がいることから、場合によっては、在留特別許可を受けることができるかもしれません。

弁護人の援助があれば、「今回は強制送還になるおそれはありませんよ」「強制送還になる理由はあるのですが、もしそうなりそうな場合でも、在留特別許可を受けられるかもしれません」など、きちんとアドバイスを受けることができ、心の救いになるはずです。

さらに、たとえ逮捕・勾留されたとしても、起訴されなければ強制送還にはならないような罪もあります。そのようなケースでは、弁護人による積極的な示談交渉などで不起訴を目指すことが有効です。

 

企業に求められる対応とは?

企業としては、Xさんの家族に、外国人刑事弁護に詳しい弁護人を付けたほうがよいことや、家族からも弁護人を選任することができることなどをアドバイスすることが望ましい対応です。

Xさんの家族が、外国人刑事弁護に詳しい弁護人を探すのに苦労している場合には、企業から紹介するのも望ましい対応です。なぜなら、Xさんに対する弁護活動が成功することは、Xさんに海外ブランドとの交渉という重要な仕事を任せている企業側にとっても、メリットがあるからです。

企業から弁護士を紹介すれば、(被疑者の意向に反せず、かつ、弁護活動に支障のない範囲で)弁護活動の状況について弁護士からの情報を得ることも期待できます。弁護活動の状況は、事件が今後どのように進んでいくかを知るうえで重要な情報ですので、企業にとって有益なものです。

 

※ただし、弁護人として弁護士を紹介した場合には、その弁護士に退職等の交渉を依頼することは利益相反の観点から困難になりますので、その点についてあらかじめ理解が必要です。そのような可能性を考えて、少なくとも、顧問弁護士や、労務問題について日常的に相談している弁護士を紹介するような対応は避けるべきでしょう。

懲戒処分や休職扱いは慎重に

逮捕されたらすぐに解雇できるわけではありません

「逮捕された人=犯罪者」と認識されている方も多いかもしれませんが、そうとは限りません。そもそも「逮捕」とは、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法199条1項)がある場合に、証拠隠滅や逃亡を防ぐために身体を拘束する手続であり、簡単にいえば、「本当にその人が犯人であるかどうかを判断するため」の手続です。

実際、逮捕された人が、「嫌疑不十分」あるいは「嫌疑なし」として起訴されないケースはあります。

そのような理解なく、逮捕されたからという理由ですぐに解雇の判断をすれば、法的紛争に発展するおそれがあります。

 

起訴されたら解雇してよいのか

それでは、起訴されてしまったら、すぐに解雇してよいのでしょうか。このような場合も、すぐに解雇してしまうのは、大きなリスクが伴います。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となります(労働契約法16条)。起訴されたとしても、無罪判決となるケースや、起訴内容(公訴事実)の一部が認定されないことはありえます。それにもかかわらず、「起訴=客観的に合理的な理由」というのは、早計です。

特に、外国人の場合は、在留資格の問題も絡みます。Xさんは、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で日本に在留していますから、解雇により、在留資格を取り消されてしまう、あるいは、在留資格の更新が許可されないリスクを伴います。解雇による不利益は、日本人の場合も大きいことから、解雇事由の判断も慎重でなければなりません。

 

それではどうすればよいのか

もし、就業規則で「起訴休職」に関する規定を設けているのであれば、少なくとも有罪判決が確定するまでは休職扱いにすることが考えられます。

もっとも、たとえ「起訴休職」の取扱いをするとしても、その判断は慎重にしなければなりません。Xさんが置かれている地位や、Xさんが犯したことが疑われている罪の内容などを踏まえて、復職によって業務にどのような支障が出るのか、Xさんが起訴されたことで会社の社会的信用がどの程度失墜したといえるのかといった事情を、十分に検討すべきです。

会社としては、Xさんが保釈された場合には、できる限り復職させる方向で検討すべきです。

会社としては、他の従業員や取引先から「なぜ犯罪者を復職させるのか」と批判されることをおそれるかもしれません。しかし、先ほども述べたとおり、有罪判決が確定するまでは、犯罪者であることは確定していないわけですから、復職させることは決して誤った判断とはいえません。むしろ、できる限り復職の方向で考えられるような企業であるほうが、「法律をきちんと理解している会社」として信頼が置かれるのではないかと思います。

 

有罪判決が確定した場合には

有罪判決が確定した場合には、懲戒処分を検討することになるでしょう。もっとも、懲戒処分についても慎重な検討が必要です。

まず、懲戒処分をするに当たっては、就業規則に懲戒事由を明示しておかなければなりません。また、懲戒処分は、「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法15条)には、無効になります。

特に、Xさんが犯したとされる罪が業務とは無関係な場合には、「Xさんが罪を犯したことで懲戒処分が正当化されるほどに会社の社会的信用が低下したといえるのか」「検討している懲戒処分が重すぎないか」といったことを、慎重に検討しなければなりません。

さらに、Xさんを解雇する場合には、特に慎重な判断が求められます。なぜなら、先ほども述べたとおり、Xさんが解雇されれば、Xさんの在留資格が取り消されたり、在留資格の更新を許可されなくなったりするからです。

なお、Xさんが強制送還により帰国を余儀なくされた場合には、雇用継続ができないことを理由に解雇することは、一般に認められるでしょう。できれば、このような場合に雇用関係が終了することを就業規則にあらかじめ明示しておいたほうが、紛争予防の観点から望ましいです。

弁護士より一言

外国人が逮捕された場合の取扱いには、人事労務担当者の「法律の理解」「慎重で的確な対応力」が求められます。

もっとも、刑事手続は一般の方にはなじみがないでしょうし、まして、在留資格や強制送還といった外国人特有の問題も絡むとなれば、多くの人事労務担当者は「お手上げ」になってしまうのではないかと思います。

そこで、頼りにしていただきたいのが、刑事手続や外国人に関する問題に理解のある「弁護士」です。日頃から刑事弁護や外国人問題を取り扱っている弁護士であれば、知識と実務経験から、的確なアドバイスをすることができます。

また、弁護士に相談することで、今後対応が求められる課題も見えてきます。たとえば、起訴休職や懲戒処分に関するルールや、外国人の取扱いに関する規程が就業規則に整備されていない場合には、弁護士にその整備を依頼することができます。このような対応の必要性は、弁護士に相談しなければ、なかなか分からないものです。

当事務所は、このケースのようなご相談について、兵庫県内だけではなく、大阪・京都その他の関西圏からのご相談にも対応しております。

雇用する外国人が逮捕されてお困りの際には、悩まず、ぜひ当事務所にご相談ください。当事務所の弁護士が、外国人刑事事件や労務管理に対する知識と実務経験を活かして、お悩みを迅速に解決いたします。

 

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弁護士:石田優一

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