労務管理

パタニティハラスメント

弁護士 石田 優一


はじめに

皆さんは,「パタニティハラスメント」という言葉をご存じでしょうか。決して,「『マ』タニティハラスメント」の誤字ではありません。

パタニティハラスメントとは,男性労働者が育児のための休暇制度等を希望するのに対して,使用者側が,制度を取らせないようにしたり,嫌がらせをしたりする行為のことです。

「イクメン」(育児をする男性)という言葉が2010年に流行語大賞でベストテン入りしてから,はや8年の歳月が経ちましたが,イクメンブームとは裏腹に,男性の育児休業取得率はいまだ低水準にとどまっているのが実情です。ただ,育児休業取得率は年々着実に増加傾向にあり,平成29年度の統計では,5.14%となり,10年前と比較して3倍以上に増加しています(厚生労働省「平成29年度雇用均等基本調査(速報)」より)。

内閣の「日本再興戦略2016」(平成28年6月閣議決定)では,男性の育児休業取得率を2020年までに13%とする目標が掲げられていますが,会社で育児休業の取得が奨励されていない,あるいは雰囲気から取得しづらいなどの事情から,多くの男性労働者が育児休暇を取得することに躊躇しているのが実情です。

そういった中,平成29年の育児介護休業法改正で,事業主に対して,育児休業等の利用に関する言動(ハラスメント)によって就業環境が害されることのないように,雇用管理上必要な措置を講じなければならないことが義務づけられました。つまり,パタニティハラスメント対策は,今や,事業主の法的義務となっています。

今回のコラムでは,パタニティハラスメントが実際に問題となった裁判例も見ながら,パタニティハラスメントを防ぐために今後企業が取り組んでいかなければならない課題について考えていきましょう。

パタニティハラスメントが問題になった裁判例

パタニティハラスメントが問題となった裁判例として知られているのが,「医療法人稲門会(いわくら病院)事件判決」(大阪高判平成26年7月18日)です。

この事件では,男性看護師が3か月の育児休業を取得したところ,翌年度の職能給の昇給を受けられなくなり,さらに,翌々年度の昇給試験の受験資格も与えてもらえなかったことが,育児介護休業法10条の禁止する「育児休業を理由とする不利益取扱い」に該当するのではないかが問題となりました。

この判決では,これらの事業主側の措置について,育児休業を取得する者に無視できない経済的不利益を与えるもので,育児休業の取得を抑制する働きをするものであるとして,「育児休業を理由とする不利益取扱い」にあたると判断されました。

パタニティハラスメントを許さない社会へ

先ほどお話ししたように,男性の育児休業取得率はいまだ低水準にありますが,年々着実に増加しています。特に,平成29年度(5.14%)は,前年度(3.16%)と比べて約1.6倍にまで増加しています。

平成29年の育児介護休業法改正では,事業主に対して,育児休業制度の利用等に対するハラスメント対策が義務づけられたほか,妊娠・出産した妻のいる男性労働者に対して,育児休業等の制度について知らせなければならない努力義務が課せられました。

平成29年には,「くるみん認定」の基準も改正されました。「くるみん認定」とは,次世代育成支援対策推進法に基づいて,子育てサポートに関する行動計画の目標を達成した企業に対して,厚生労働大臣が認定を行う制度です。認定を受けた企業は,「くるみん」という名称のマークをパンフレットや求人等に使用することができ,子育てサポートに取り組んでいる企業であることをアピールできます。以前は,男性労働者の育児休暇取得者が1人以上いれば認定基準を満たしていましたが,平成29年の認定基準改正により,7%以上の取得者がいなければ認定基準を満たさないことになりました。

平成29年に男性の育児休業取得率が大きく増加した背景には,このような制度改正によってイクメンを奨励する企業が増えたことが影響しているのではないかと予想されます。

このように,イクメンを奨励する流れは加速しており,今後,パタニティハラスメントという言葉が1つの社会問題としてクローズアップされていくのではないかと思われます。

それにより,近い将来,パタニティハラスメントを受けたことを理由とする労使紛争が急増していくかもしれません。

パタニティハラスメントで訴えられないためには

パタニティハラスメントで訴えられないためには,何よりも,経営者層から率先して,男性労働者にも育児休業等の取得を奨励していく取り組みが大切です。経営者層の呼びかけによって,企業全体の中でイクメンを奨励する意識が高まり,対策へとつながります。

イクメンの奨励に取り組みたいという企業におすすめしたいのが,「平成30年度両立支援等助成金」の活用です。

出生時両立支援コース」では,男性が育児休業等を取得しやすい職場づくりに取り組み,実際にその取組によって男性に育児休業等を取得させた事業主に対して,助成金が支給されます。取組の例としては,管理職から育児休業の取得を勧奨したり,男性労働者の育児休業に関する研修を実施することなどがあります。

他にも,「育児休業等支援コース」では,育休復帰支援プランを作成して,育児休業後の職場復帰を支援する取組をした企業などに対し,助成金が支給されます。

ハラスメント対策というと,生産性がなく,企業利益にはつながらないというイメージがあるかもしれません。しかし,このような助成金制度を活用することで,企業利益にもつなげていくことができます。また,ハラスメントが絶えない職場においては,労働者全体の士気が下がり,生産性も低下してしまいます。ハラスメントを防止する取組は,企業全体の雰囲気をよくして,生産性を向上させることにもつながります。

また,イクメンを奨励するうえでは,育児休業に関する制度を周知徹底する取組も大切です。育児休業は「1歳まで」ということはよく知られていますが,実は,育児休業の取得期間についてのルールはもっと複雑です。

例えば,両親が育児休業を取得することで,子どもが1歳2ヶ月になるまで育児休業を取得することができる「パパママ育休プラス」という制度があります。

さらに,育児休業制度とは別に,会社独自の育児休暇制度を制定することも有効です。独自の休暇制度に取り組むことで,会社全体の意識が高まります。もっとも,このような制度の策定においては,就業規則の整備などが必要になりますので,弁護士や社会保険労務士などの専門家の意見を取り入れることをおすすめします。

おわりに

「育児=女性」という考え方は,もはや通用しません。企業がそのようなステレオタイプにとらわれ続けていれば,いつか,大きな労使紛争につながってしまうかもしれません。

今後,パタニティハラスメントという言葉が定着し,男性労働者が育児休業を躊躇なく取得できる世の中になっていくことに期待したいと思います。

 
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このコラムを書いた人

弁護士 石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
情報処理安全確保支援士、応用情報技術者の資格を持つ若手弁護士。IT、IoT、営業秘密など、いつでもすぐに、最新の問題に対応するリーガルサービスを提供できるよう、5年先、10年先を読みながら、日々研鑽を積んでいる。
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