遺産分割前に遺産から相続税を支払う際の留意点
弁護士 石田 優一
1.遺産分割協議がなかなか進まないときの相続税問題
(1)相続税について
遺産分割協議(遺産分割の話合い)が進まないときに困るのが、相続税の問題です。
相続税の細かい計算方法は割愛しますが、遺産の額が基礎控除額を超えていれば、相続税を納付しなければなりません。
<基本的な考え方> 【基礎控除額】 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 |
遺産の中に不動産が含まれる場合など、遺産総額が大きいケースでは、支払うべき相続税が多額になることがあります。
相続税は、被相続人が亡くなったことを知った日から10か月以内に納付しなければなりません。その期限を過ぎれば、延滞税が発生しますので、相続税を期限までに支払うことは大変重要です。
(2)相続税が高額すぎて支払えないとき
ところが、支払うべき相続税の額が大きい場合、相続人が手元の資金から相続税を支払えないことがあります。
その場合に用いられる方法が、相続人間で合意して、遺産に含まれる預貯金を払い戻して、払戻金で相続税を支払う方法です。このような方法を選択するケースは珍しくないですが、留意すべきポイントがあります。
2.遺産分割前に遺産から相続税を支払う際の留意点
(1)相続税還付の問題
例えば、次のようなケースを考えてみましょう。
母親が亡くなり、相続人は、私・兄・妹の3人です。母親の遺産は、不動産(5,000万円)と、預金2,000万円です。遺産分割協議がなかなか進まず、相続税の納付期限が近づきましたので、預金を払い戻して、相続税の納付に充てることにしました。その1年後、遺産分割協議がまとまり、兄が不動産(5,000万円)を取得し、私と妹が預金の残額を2分の1ずつ分けることにしました。 |
遺産分割協議が成立する前に相続税を納付する場合、各相続人が納付する額は、相続税の総額に、法定相続分をかけた額です。このケースであれば、各相続人が支払う相続税は、約73万円です。
※なお、小規模宅地特例は考慮していません。
各相続人が負担すべき相続税の額は、遺産分割によって確定します。遺産分割によって受ける遺産分割の全体に対する割合を、相続税額(総額)にかけた額が、各相続人の相続税額です。
このケースでは、私と妹が負担すべき相続税は約30万円、兄が負担すべき相続税は約159万円です。
遺産分割協議が成立した場合に、法定相続分よりも多く遺産を受け取った相続人は、修正申告をして、追加の相続税を支払わなければなりません。このケースであれば、兄は、約86万円の相続税を、追加で支払わなければなりません。
一方で、遺産分割協議が成立した場合に、法定相続分よりも少ない遺産しか受け取らなかった相続人は、更正の請求をすれば、支払った相続税の一部が還付されます。このケースであれば、私と妹は、それぞれ約43万円の相続税還付を受けることができます。
さて、問題はここからです。
兄の立場から見れば、「追加で負担しなければならない相続税(約86万円)に充てるために、私と妹に、相続税還付を受けた約43万円ずつを渡してほしい」と感じます。
他方、私や妹の立場から見れば、「兄は自分たちよりも多く遺産をを受け取っている以上、さらに、相続税還付を受けたお金を渡すように求められるのはおかしい」と感じます。
このように、相続税還付を受けたお金をどのように扱うべきか、相続人間で利害の対立が生じるおそれがあります。
相続人間で利害の対立が生じることがないように、遺産分割協議が成立する前に相続税を納付する場合には、「もし相続税還付が生じた場合にはどうするか?」を決めておくことが望ましいです。
(2)相続税の納付に充てなかった払戻金残額の問題
相続税の納付に充てるために預貯金の払戻しをした場合、相続税の納付に充てた残額を、だれがどのように管理するかが問題になります。
1人の相続人に対してむやみに管理を委ねると、遺産分割協議が成立する前に、管理していた相続人が私的に費消してしまうリスクがあります。
例えば、相続税の納付に充てた払戻金の残額が多い場合は、ひとまず法定相続分どおりに分割して、特定の相続人による費消リスクをなくしておくことが望ましいです。
3.遺産分割協議が進まないときは弁護士にご相談ください
「遺産分割協議がなかなか進まないときの相続税問題」が発生するほとんどのケースが、遺産分割の話合いが停滞しているケースです。このような状況に陥っている場合は、弁護士に相談して、遺産分割調停の申立てを検討することが適切です。
遺産分割の問題でお困りの際は、ぜひ、「みお神戸」の弁護士にご相談ください。遺産相続に関する経験豊富な知識で、皆さまのお悩みを解決いたします。