遺言書に納得がいかない方へ・遺言無効の争い方を解説
弁護士 石田 優一
弁護士 是永 淳志
Ⅰ .遺言書に納得がいかない方へ
「私の全財産を[相続人の1人]に相続させる」など、他の相続人が納得できない遺言書が残されているケースは、珍しくありません。このような「不公平」な遺言書に納得ができない場合、大きく2つの争い方があります。
1.遺留分の侵害を主張する
1つは、遺留分を侵害されたことを理由に、遺産を相続(あるいは遺贈)した人に対して、遺留分侵害額請求をする方法です。詳しくは、コラム「遺留分を侵害されてしまったら?弁護士からのアドバイス」をお読みください。
もっとも、遺留分侵害額請求は、あくまでも遺留分の限度で金銭的請求を認めるものですので、相続人間の「完全な公平」を実現することはできません。また、相続人が亡くなった方のきょうだい(あるいはその子)である場合、遺留分自体が認められません。
2.遺言書の無効を主張する
もう1つは、遺言書の無効を主張する方法です。遺言書が無効であれば、ゼロの状態から、相続人間で遺産分割の話合いをすることができます。
今回は、遺言書の無効がどのようなケースで認められるのか、そして、遺言書の無効は法的にどうやって主張すればよいのか、ご紹介いたします。
Ⅱ.遺言書が無効になるケース
1か月前に、私の兄が亡くなりました。相続人は、私と妹の2人です。兄は、5年前から認知症を発症し、3年前から、介護施設に入所していました。最近1年ほどは、あまりコミュニケーションがとれない状態でした。数日前、妹から電話があり、「お兄さんの遺言書を預かっています。そこには、全財産を私に渡すと書かれています。」と伝えられました。たしかに、妹は、介護施設で兄とよく面会して、サポートをしていたと思います。ただ、「全財産を妹に」という遺言書は、納得できません。 |
有効な遺言書を作成するためには、遺言の内容を把握する能力(遺言能力)が必要です。ご本人の判断能力が低下して、「だれにどのような財産を渡すか」をきちんと理解・判断できない状態で遺言書を作成しても、無効となります。
ご本人の認知症が進行している場合、遺言書が無効と判断されるケースがあります。
1.遺言能力がある/なしはどのように判断される?
遺言能力がある/なしの線引きは、遺言の内容によって異なります。
例えば、「財産をすべてAに相続させる」といった簡単な内容の遺言書は、「X社の株式、・・・の土地、○○権をAに、Y社の株式、・・・の土地をBに相続させる」といった複雑な内容の遺言書のほうが、遺言能力が否定されやすくなります。
2.公正証書で遺言が作成されている場合は?
公正証書遺言の場合、無効と判断されるケースはかなり限定されます。なぜなら、公正証書遺言の場合、公証人が本人と意思疎通を図りながら、ある程度遺言能力の有無を確認したうえで作成されることが通常だからです。
ただし、公正証書遺言であっても、本人がほとんど何の意思も示さない状態(例えば、ただ頷いているだけなど)で作成されたような場合、(まれではありますが)有効性が否定されることもあります。
Ⅲ.遺言書の無効を裁判で争う方法
遺言書の無効を裁判所で争う方法が、遺言無効確認訴訟です。判決で遺言の無効が認められれば、遺言書は「紙切れ」の状態となり、相続人同士でゼロから遺産分割の話合いを進めることができます。
1.提訴できる人(原告)は?
遺言無効確認訴訟は、遺言書を残した人(亡くなった人)の相続人や、その承継人が、原告となることができます。
相続人が複数いらっしゃっても、そのうち1人だけで、遺言無効確認訴訟を提起することができます。複数の相続人が、原告になることもできます。
2.遺留分侵害額請求もしておくべき
遺言無効確認訴訟は、ハードルが高いため、認められないケースのことも考えておかなければなりません。
遺言無効確認訴訟で争う場合であっても、遺留分侵害額請求もしておくことをおすすめします。なぜなら、遺留分侵害額請求には、期間制限(遺留分侵害を知った時から1年以内)があるためです。
遺言無効確認訴訟に負けてしまい、遺留分だけでも主張しようと思ったが、「時すでに遅し・・・」とならないように、遺留分侵害額請求も忘れないようにしてください。
3.遺言無効確認訴訟で争うために有力な証拠
遺言無効確認訴訟において有効な証拠を、本人が認知症であることを無効理由として主張するケースを例に、ご紹介します。
(1) 日記
日記は、日々あったことを刻々と記録しているため、その人の生活の変化を知るうえで、有力な証拠です。
(2) SNS
最近は、ご高齢でもSNSを利用する方が増えてきているので、日記とともに、SNSも有力な証拠になりえます。
(3) 手紙のやりとり
つじつまの合わないことや、事実に反することが書かれている、誤字が著しいなど、手紙の内容から、ご本人の認知症の状況を推認することができますので、有力な証拠になりえます。
(4) ビデオ
例えば、遺言書が作成された当時(あるいは近接した時期)のご本人の様子がビデオに残されている場合、ご本人の状況を知るための有力な証拠になります。
(5) 医療機関のカルテ
ご高齢の方は、何らかの病気で医療機関を受診しているケースが多いため、遺言書を作成した当時の状況(あるいはその手がかり)がカルテに記載されていることがあります。カルテは、専門家である医師が作成した客観的な文書ですので、有力な証拠になります。
(6) 介護施設の業務日誌・介護記録
介護施設においてスタッフの方が残した業務日誌・介護記録にも、遺言書を作成した当時の状況(あるいはその手がかり)が記載されていることがあります。このような文書も、有力な証拠になります。
Ⅳ.自分の作成した遺言書が「無効です!」といわれないために
このコラムで取り上げた内容は、ご自身が遺言書を作成する場合も重要です。
例えば、ご高齢の方が遺言書を作成する際には、ご自身の生活状況(お元気な姿)をビデオに残すなどして、後々に遺言書の有効性が問題にならないようにすることが大切です。
また、より万全を期するのであれば、公正証書遺言の活用をおすすめします。
Ⅴ.遺言書のことは弁護士にご相談ください
遺言書の有効性について疑問を感じるときは、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。法律の専門家の立場から、法律的に争えるケースか、どのように争っていけばよいかを、的確にアドバイスいたします。
また、ご自身の作成する遺言書が無効にならないか不安な方も、ぜひ、弁護士にご相談ください。このような問題が後々起きないための策を、ご提案いたします。