遺産分割調停に初めて出席する前に準備しておきたいこと(弁護士解説)
弁護士 石田 優一
家庭裁判所から遺産分割調停への呼出しが・・・
親族が亡くなった後、家庭裁判所から遺産分割調停への呼出しを受けて、「どうすればよいか分からない・・・」とお困りの方へ。弁護士の立場から、遺産分割調停に初めて出席する前に知っておきたいこと/事前に準備しておきたいことをアドバイスいたします。
遺産分割調停とは?
遺産分割調停とは、亡くなった親族の遺産を「どのように分けるか」について、相続人全員が出席して、裁判所で決めるための手続です。
「調停」は、裁判所での手続ではありますが、よくテレビドラマで目にするような「法廷」での手続ではなく、机と椅子の置かれた小さな部屋で進められることが一般的です。調停委員2名(+裁判官)とお話しをしながら、手続が進んでいきます。
裁判所の公式サイトで、「ご存知ですか?家事調停」というビデオが公開されています。こちらのビデオを視聴すれば、遺産分割調停のイメージを知ることができます。
遺産分割調停の進め方は、ケースによって少しずつ異なりますが、大きな流れは共通しています。遺産分割調停がどのような手順で進んでいくかをあらかじめ理解しておけば、安心して、第1回の調停期日に臨むことができます。
遺産分割調停の大きな流れ
遺産分割調停において、調停委員は、次のような流れで話を進めていきます。
1.手続についての説明
まずは、調停委員から、遺産分割調停とはどのような手続か、簡単な説明があります。
2.遺産の内容や評価についての意向確認
通常は、遺産分割調停を申し立てた相続人が、亡くなった方の遺産の内容を「遺産目録」にして、申立時に提出しています。
まずは、調停委員から、「遺産目録」の内容について争いはないか、確認をされます。
そのうえで、それぞれの遺産の評価額について争いはないか、確認をされます。特に、不動産や、非上場株式、事業資産が遺産に含まれる場合、その評価額をめぐって争いになることが多いです。
3.遺産分割についての意向確認
遺産の内容や評価について争いがない場合は、遺産をどのように分割したいか、希望する条件を確認されます。他の相続人が生前贈与を受けたこと等を理由に「特別受益」を主張したい場合や、亡くなった方の介護をしていたこと等を理由に「寄与分」を主張したい場合には、その旨を調停委員に伝えます。
4.相続人間の意向の調整
2.~3.のステップを経て、「相続人間で何が主な争点になっているか」が明らかになった後は、調停委員が各相続人とお話しをして、(全相続人の考えが一致することを目指して)調整を図ります。
5.調停の成立
最終的に、全相続人の考えが一致したら、その内容を裁判所が「調停条項」にまとめて、調停が成立します。
大まかな流れは、以上のとおりです。もっとも、調停が1回の期日で完結することは珍しく、多くのケースでは、何回の期日を重ねて調停成立に至ることがほとんどです。調停期日は、1~2か月に1回ほどのペースで開かれます。
遺産分割調停の前に準備しておきたいこと
第1回の調停期日に出席する前に、あらかじめ準備しておくとよいことを、ご紹介します。
1.「遺産目録」の内容をよく確認する
「遺産目録」は、あくまでも、遺産分割調停を申し立てた相続人が作成したものですので、漏れがあるかもしれません。「遺産目録」に記載された財産を1つ1つ確認して、漏れがないことを確認してください。そのうえで、万が一漏れがあれば、第1回の調停期日で、調停委員にその旨を伝えるようにしてください。
2.評価額をめぐって争いになりそうな財産の有無を検討する
不動産や、非上場株式、事業資産については、その評価額をめぐって争いになることがあります。
不動産については、不動産業者に依頼すれば無料査定をいただけるケースが多いため、第1回の調停期日に出席する前に、無料査定を依頼しておくとよいです。
また、非上場株式、事業資産については、公認会計士等の専門家でなければ正確な評価が難しいことが多いため、他の相続人と争いになる可能性が高い場合には、依頼する公認会計士等の候補を探していただくことをおすすめします。
3.生前贈与を受けた相続人の有無を検討する
他の相続人が生前贈与を受けていた場合には、それが特別受益に該当することを主張して、調停を有利に進められることがあります。詳しくは、「遺産分割で他の相続人の特別受益を主張したい方へのアドバイス」をお読みください。
親族への聴き取りや、亡くなった方の預貯金通帳の確認等を通じて、他の相続人が生前贈与を受けた事情がないか、第1回の調停期日に出席する前に検討しておくと、調停を有利に進められるかもしれません。
4.寄与分を主張するかどうかを検討する
もし、ご自身が亡くなった方の看護・介護をされていた場合や、事業のお手伝いをされていた場合等は、寄与分を主張して、調停を有利に進められることがあります。詳しくは、遺産分割で寄与分を主張したい方に向けた弁護士解説をお読みください。
亡くなった方のためにこれまでどのような貢献をしてきたか、時系列でメモを作成したうえで第1回の調停期日に臨めば、調停委員の理解を得やすくなります。
5.どのように遺産を分けたいかを考える
不動産を取得したいか、事業を承継したいか、あるいは、現金を受け取りたいか等、どのように遺産を分けたいかをあらかじめ考えてから、第1回の調停期日に臨むことをおすすめします。
調停委員は、遺産の評価や、特別受益、寄与分といった法的問題だけではなく、「ご遺族全員が一番納得する方法は何か?」を意識しながら調停を進めます。当初の段階で、ご自身が遺産分割についてどのような最終解決を望んでいるか、調停委員の理解を得ておくことは、希望を叶えるために大切なことです。
ただし、「遺産を全部自分のものにしたい」「相続人の※※には遺産を渡したくない」といった、法的な考え方を無視した主張をすることは、おすすめしません。このような主張は、調停委員の心証を害し、ご自身に有利な形で調停を進めていくうえで、大きな支障となり得ます。
お困りの際は弁護士にご相談ください
どのように遺産分割調停でご自身の考えを伝えればよいか、相続法への理解が十分にないと判断が難しいケースが多いです。遺産分割調停への出席に不安を感じている方は、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
当事務所では、これまで、遺産相続に関する多数のご相談を承って参りました。そのノウハウを活かして、アドバイスを差し上げます。