弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2024.11.12
終活のサポート

「遺贈」と「死因贈与」の違いを弁護士が詳しく解説

1 亡くなったときに財産を渡したい人がいるときに-遺贈?死因贈与?

太郎さんは、事実婚(いわゆる内縁)の妻(花子さん)と暮らしており、子どもはいません。父・母・祖父・祖母はすでに亡くなっています。太郎さんは、自宅不動産を持っています。もし自分が亡くなったときには、花子さんに、自宅不動産を渡したいと考えています。どのような方法が考えられますか。

花子さんは、太郎さんと事実婚(いわゆる内縁)の関係ですので、お互いに相続人になることはできません。

もっとも、太郎さんには子どもや父・母・祖父・祖母(直系尊属)がおらず、遺留分を主張できる人がいません。ですから、次のような方法で、(自分が亡くなったときに)花子さんにすべての財産を渡すことができ、かつ、他の親族から遺留分を主張される心配もありません。

(a) 遺贈

「太郎は、花子に対し、・・・を遺贈する。」という内容の遺言書を残す方法です。太郎さんが亡くなったとき、花子さんは、遺言に基づいて、自宅不動産などの権利を得ることができます。

(b) 死因贈与

「太郎は、花子に対し、太郎の死亡を始期として、・・・を贈与することを約し、花子はこれを受諾した。」という内容の契約書を、太郎さんと花子さんとの間で作成する方法です。太郎さんが亡くなった時点で、「契約」の定めに従って、「贈与」の効力が生じます。

「遺贈」と「死因贈与」はよく似ていますが、少しずつ違いがあります。このコラムでは、「遺贈」と「死因贈与」の違いについて詳しく取り上げます。

2 遺贈は一方的、死因贈与は双方で

「遺贈」は、財産を残したい人が、「ひとり」で遺言書を作成する方法です。

一方で、「死因贈与」は、財産を渡す人と、財産を受ける人が、「ふたり」で話し合って、「契約書」を作成する方法です。

「遺贈」よりも、「死因贈与」のほうが、「ふたりで決めた約束」という気持ちが生じやすく、お互いに、「白紙に戻したい」と言い出しづらい効果があるように思います。

3 法律的にも撤回のルールに違いがある

(1) 原則

例えば、はじめにご紹介したケースで、太郎さんと花子さんが不仲になり、太郎さんが「遺贈(死因贈与)を白紙にしたい(撤回したい)」と考えたとします。このようなことは、法律上認められるのでしょうか。

判例によれば、「遺贈」も「死因贈与」も、原則として自由に撤回することができます。なぜなら、「死因贈与」は「その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」とされているためです(民法554条)。

(2) 「撤回権を放棄します」と書いていたら?

では、(遺贈の場合における)遺言書や、死因贈与契約書の中に、「撤回権を放棄します」と書いていた場合は、どうでしょうか。

まず、(遺贈の場合における)遺言書は、民法1026条で、撤回権を放棄できないことが明確に定められています。そのため、遺言書に「撤回権を放棄します」と書いても、効力はありません。

一方、死因贈与の場合は、学説が分かれており、撤回権の放棄を有効とする見解もあります。詳細については、本橋総合法律事務所編『死因贈与の法律と実務』(2018年・新日本法規)93頁以下にまとめられています。

死因贈与の場合は、撤回権の放棄を有効と考える余地があるため、撤回させたくない事情がある場合には、その理由とともに、撤回権を放棄する旨を定めておくことが効果的です。

※ただし、撤回権の放棄を認める見解も有力ですので、確実な方法ではありません。

(3) 負担付死因贈与の場合は?

死因贈与については、原則として、遺贈と同様に、自由に撤回することができます。ただし、判例によれば、贈与を受ける方が一定の負担をすることが契約上定められていて、実際にその負担をした場合には、撤回が制限されます。

例えば、はじめにご紹介したケースであれば、「花子さんが、太郎さんの介護・療養看護を継続的に行うこと」を、負担の内容として死因贈与契約に定めておくことが考えられます。

4 遺贈は仮登記ができない・死因贈与は仮登記ができる

不動産について死因贈与契約をした場合、贈与する人が亡くなる前の段階で、「将来亡くなったときに所有権が移転することを保全するため」に、「始期付所有権移転仮登記」という登記をすることができます。

遺贈の場合は、このような仮登記はできません。

仮登記をすることで、次のような効果を期待することができます。

(1) 不動産を(事実上)自由に売却できなくなる

仮登記が付いていることは、不動産登記から容易に確認することができます。贈与する人が、贈与を受ける人の承諾なく、勝手に不動産を売却しようとしても、買い手を見つけることが事実上困難になります。

(2) (事実上)撤回しづらくなる

たとえ仮登記をしていても、法律上、死因贈与契約を原則として撤回できることに差異はありません。

もっとも、仮登記を抹消するためには、原則として、贈与する人/贈与を受ける人双方の承諾が必要になりますので、仮登記をしておくと、事実上、死因贈与契約の撤回をしづらくなります。

5 「死因贈与」のほうが「遺贈」よりも白紙に戻しづらい

以上のことを踏まえると、「死因贈与」のほうが「遺贈」よりも、贈与する人が「白紙に戻しづらい」(撤回しづらい)ところが、メリットといえます。

(1) 「白紙に戻しづらい」という心理が働きやすい

「死因贈与」のほうが、「ふたりで話し合って決めたこと」という要素が強いため、お互いに「(一度話し合って決めた約束だから)白紙に戻しづらい」という心理が働きやすいメリットがあります。

(2) 法的にも「死因贈与」のほうが撤回の無効を争いやすい

「遺贈」も「死因贈与」も、原則として撤回できることに変わりはありませんが、細部では、違いが見られます。

まず、「撤回権の放棄」条項については、「遺贈」では有効と解する余地がありませんが、「死因贈与」であれば有効と解する余地があります。

また、負担付死因贈与の形式を採ることで、撤回権を法的に大きく制約することができます。

その他、「始期付所有権移転仮登記」によって、事実上、撤回をしづらい状況にすることもできます。

6 税金の扱いにはどのような違いが?

「遺贈」と「死因贈与」の違いを理解するうえでは、税金の問題にも目を向ける必要があります。

相続税法では、「贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与」(「死因贈与」)も「遺贈」に含まれるとされています(同法1条の3第1号)。そのため、相続税の扱いにおいては、「遺贈」と「死因贈与」で違いはありません。

また、譲渡所得税の計算における「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」においても、「贈与者の死亡により効力を生ずる贈与」が「遺贈」に含まれるとされています(措置法39条1項)。譲渡所得税の扱いにおいても、「遺贈」と「死因贈与」で違いはありません。

ただ、「遺贈」や「死因贈与」の対象財産に不動産が含まれる場合には、不動産取得税と登録免許税の扱いにおいて、差異が生じることがあります。

(1) 不動産取得税

不動産の取得に対しては、不動産取得税が課されます。不動産取得税について、次のようなルールがあります。

(a) 相続人に対する遺贈の場合

非課税

(b) 相続人以外の方に対する遺贈の場合

固定資産税評価額の4%(ただし、土地・住宅について軽減あり)

※ただし、包括遺贈の場合は非課税

(c) 死因贈与の場合

固定資産税評価額の4%(ただし、土地・住宅について軽減あり)

相続人が不動産を受ける場合には、「死因贈与」の形式を採ることで不動産取得税が課されてしまう問題がありますので、注意が必要です。

一方、相続人以外の方が不動産を受ける場合には、「遺贈」「死因贈与」いずれの形式を採っても、不動産取得税が課されますので、差異はありません。

(2) 登録免許税

不動産を「遺贈」「死因贈与」のいずれかで取得した後、所有権移転登記をする際に、登録免許税が課されます。登録免許税について、次のような違いがあります。

(a) 相続人に対する遺贈の場合

固定資産税評価額の0.4%

(b) 相続人以外の方に対する遺贈の場合

固定資産税評価額の2%

(c) 死因贈与の場合

固定資産税評価額の2%

相続人が不動産を受ける場合には、「死因贈与」の形式を採ることで登録免許税が高くなってしまうため、注意が必要です。

一方、相続人以外の方が不動産を受ける場合には、「遺贈」「死因贈与」いずれの形式を採っても、登録免許税の額に差異はありません。

(3) まとめ

不動産を渡したい相手が相続人である場合は、「死因贈与」の形式を採ることで、一部の税金が高くなってしまうことに注意が必要です。

その他のケースにおいては、税金面での扱いが共通しているため、「遺贈」「死因贈与」いずれの形式がよいかの決め手にはなりません。

はじめにご紹介したケースは、不動産を受ける人が事実婚のパートナーであり、相続人ではありませんので、税金面だけを見れば、「遺贈」「死因贈与」いずれの形式でも大差ありません。

7 死因贈与契約の書き方

さて、ここからは、死因贈与契約の書き方をご紹介します。

太郎さんは、花子さんとの間で、自宅不動産について死因贈与契約をすることにしました。その条件として、花子さんが、太郎さんが病気になったときに、療養看護をすることを明記することにしました。

死因贈与契約書

(0) 冒頭

贈与者※※太郎(以下「贈与者」という。)と受贈者※※花子(以下「受贈者」という。)とは、次のとおり死因贈与契約を締結した。

(1) 第1条(贈与の合意)

贈与者は、受贈者に対し、贈与者が死亡したことを始期として、別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を贈与することを約し、受贈者はこれを受諾した。

「贈与者が亡くなるまでは贈与しないこと」を、必ず明確にしてください。この点をあいまいにして、「生前贈与」と解釈されてしまえば、相続税ではなく贈与税が課され、多額の税金を支払わなければならなくなるおそれがありますので、注意してください。

(2) 第2条(死因贈与執行者)

贈与者は、以下の者を、死因贈与執行者に指定する。

・・・<以下省略>・・・

遺言(遺贈)と同じように、死因贈与の場合も、執行者(死因贈与執行者)を指定することができます。受贈者本人から、信頼できる士業専門家を指定して、手続を円滑に進められるようにしておくことが望ましいです。

(3) 第3条(死因贈与執行者の権限)

死因贈与執行者は、第1条(贈与の合意)に定める死因贈与の執行のために必要な登記手続等一切の権限を有する。

死因贈与執行者の権限については、対象となる財産を踏まえて詳しく記載しておくことが望ましいです。例えば、預貯金が対象になる場合には解約等の手続、貸金庫が対象になる場合には開扉・内容物収受、貸金庫契約解除の手続等の権限を明示してください。

(4) 第4条(始期付所有権移転仮登記)

贈与者は、第1条(贈与の合意)の定めに基づき、本件不動産について、受贈者が、始期付所有権移転仮登記手続を申請することを承諾した。

贈与者による撤回を事実上しづらくしたい場合には、始期付所有権移転仮登記手続を検討してください。なお、この契約書を公正証書で作成したうえで、始期付所有権移転仮登記手続についての条項を入れておけば、贈与者の承諾書・印鑑登録証明書を取り付けることなく、登記をすることができます。

(5) 第5条(受贈者の負担)

1 受贈者は、第1条(贈与の合意)に定める死因贈与を受けるために、本契約を締結した後、下記の負担を履行する。

贈与者に病気その他の事故があった場合に、継続的な療養看護を行う。

2 贈与者は、受贈者が正当な理由なく第1項の負担を履行しないときは、本契約を解除することができる。

負担付死因贈与の場合、贈与者による撤回が制限されます。受贈者として負担可能な内容を、契約の中で定めておくことで、死因贈与契約を「より強い約束」にすることができます。

(6) 第6条(撤回権の放棄)

贈与者は、第1条(贈与の合意)に定める死因贈与が、贈与者の死後における受贈者の安定的な生活を確保することを目的としたものであることに鑑みて、当該死因贈与を撤回する権利を放棄する。

死因贈与の場合、撤回権の放棄を有効とする見解があることを踏まえた条項です。撤回権の放棄について明記することで、(法的に必ずしも有効とはいえないものの)死因贈与契約を「より強い約束」にすることができます。

8 遺産相続・終活のことをお気軽にご相談ください

当事務所では、遺産相続・終活について、弁護士がご相談を承っております。死因贈与契約のほか、遺言書作成、遺産相続トラブルなど、遺産相続・終活のことでお困りでしたら、お気軽にお問い合わせください。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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