弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2024.11.13
借金の問題

3か月の期限を過ぎた後の相続放棄について詳しく解説

1 亡くなったご親族の件で、ある日、多額の請求書が・・・

ご親族が亡くなった後、しばらくしてから、相続人宛に請求書が届くケースがあります。相続人が残した資産がほとんどなく、請求額が大きいのであれば、相続放棄を検討する必要があります。

ただ、相続放棄の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」(民法915条1項)とされていますので、請求書が届いた時期がそれよりも後であれば、原則として、相続放棄を選択することができません。

ただし、このような場合であっても、例外的に、期限経過後の相続放棄が認められるケースがあります。

今回のコラムでは、「相続放棄をしたい!ただ、3か月を過ぎてしまっているから、もう無理か・・・」とお悩みの方に、期限経過後の相続放棄が認められるケースをご紹介します。

2 最高裁判例(最二判昭和59年4月27日民集38-6-698)

まずは、期限経過後の相続放棄が認めた最高裁判例をご紹介します。

(1) 事案の概要

Aさんは、Bさんの連帯保証人になっていましたが、亡くなりました。

債権者のXが、Aを提訴して勝訴しましたが、Aさんが亡くなったため、相続人(子)であるYさんら3名に判決が送達されました。Yさんらが判決を受け取ったのは、Aさんが亡くなってから約1年後でした。

これを受けて、Yさんらは、家庭裁判所に相続放棄申述の手続をして、控訴審(高等裁判所)で相続放棄による支払義務の消滅を主張しました。控訴審は、相続放棄の主張を認めて、債権者Xを敗訴させました。

このような経緯により、債権者Xが、Yさんら3名の支払義務を否定した控訴審の判断を不服として、最高裁判所に上告をしました。

(2) 最高裁判所の判断

最高裁判所は、控訴審の考え方を支持して、債権者Xを敗訴させました。その理由は、次のようなものでした。

「相続人が、・・・3か月以内に・・・相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、・・・熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である」

最高裁判所の判断は、要するに次のとおりです。

・亡くなった方に相続財産が全くないと信じて相続放棄をしなかった事情があり、

(かつ)

・相続財産の有無を相続人が調査することを期待することが著しく困難な事情があって、

(かつ)

・相続人が、亡くなった方に相続財産が全くないと信じたことに相当な理由がある

(ならば)

例外的に、相続財産の存在を認識してから(あるいは認識できるようになってから)3か月は、相続放棄をすることができる。

本件事案においては、相続人と亡くなった方が長年疎遠で、資産・負債・裁判のことについて知りうる機会がなかったことを理由に、亡くなってから1年経過後の相続放棄を認めています。

(3) 最高裁判例を踏まえれば

この最高裁判例を踏まえれば、亡くなった方と疎遠で、全く何の資産も負債もないと誤認しており、そのような誤認も仕方なかったといえれば、例外的に、(3か月経過後)負債の存在が明らかになった後の相続放棄が認められます。

3 資産の存在を知っていた場合はどうか?

では、資産の存在を知っていた場合は、どうでしょうか。例えば、亡くなった方の遺産として預貯金があることを知っていて、相続放棄をしなかったケースが考えられます。

このようなケースでも、亡くなった方の遺産が少額であると認識しており、かつ、多額の負債が存在することを知り得なかった場合には、3か月経過後の相続放棄が有効と認められるケースがあります。

4 3か月を過ぎていても、まずは相続放棄の検討を

このように、たとえご親族が亡くなってから3か月を過ぎていても、ほとんど何の遺産もないことを理由に遺産関係の調査をせず、その後しばらくして多額の負債の存在が発覚したケースであれば、相続放棄が認められる余地があります。

このようなケースであれば、すぐに弁護士に相談して、相続放棄の可否を検討することをおすすめします。

5 相続放棄ができない場合は

相続放棄ができないケースで、請求額を支払うことが困難であれば、債務整理を検討する必要があります。債務整理の方法は、大きく3つです。

(1) 任意整理

債権者と話し合って、分割払での支払に応じるように交渉する方法です。もっとも、債権者がそもそも分割払に応じるかどうか、どのような条件で応じるかは、ケースバイケースです。

(2) 破産

免責許可を受けることで、債務をゼロにすることができます。もっとも、原則として資産を手放さなければならなくなりますので、資産をお持ちのケースでは採りづらい選択肢です。

(3) 個人再生

債務の額を圧縮して、無理なく返済する方法です。資産を手放さずに済みますが、(1)債権者の反対を受けると失敗するおそれがある、(2)そもそも思うように債務を圧縮できないことがあるなど、欠点もあります。

(4) 最善の方針は弁護士からアドバイスします

債務整理で解決するとしても、任意整理・破産・個人再生のいずれを選択すべきかは、ケースバイケースです。弁護士にご相談いただけば、詳細にご事情をうかがって、最善の選択肢をアドバイスいたします。

6 亡くなったご親族の件で請求書を受け取ったときは、弁護士にご相談ください

もし、相続人の立場で、亡くなったご親族の件で請求書を受け取ったときは、すぐに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。相続放棄を検討すべきか、あるいは、債務整理を検討すべきか、遺産相続・借金問題に詳しい弁護士の立場から、アドバイスを差し上げます。お困りのときは、お気軽に当事務所までお問い合わせください。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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