弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2024.12.24
終活のサポート

自宅を空き家にしないための生前対策を弁護士が解説

弁護士 石田 優一

弁護士 是永 淳志

1 空き家が大きな社会問題に

令和5年度住宅・土地統計調査によれば、空き家の数は約900万戸、空き家率は約13.8%に達しています。空き家の戸数は増加の一途をたどり、大きな社会問題となっています。

(1) 空き家が増加している原因は?

空き家が増加している原因として、様々なことが考えられます。

第1に、地方やニュータウンからの人口の流出です。子ども世代の独立と親世代の高齢化で、これらの地域での空き家が増加しています。

第2に、新築住宅の過剰供給です。かつて新築住宅がブームになった時代のツケで、空き屋問題が深刻化しています。

第3に、相続人間で遺産分割がまとまらない状態が続き、結果的に、相続財産である住宅が空き家となってしまうことです。この問題については、後ほど取り上げます。

(2) 空き家の放置によって起きる問題

空き家は、不法投棄や放火、害虫・害獣など、近隣住民に迷惑をかけることがしばしばあります。また、老朽化した部分の倒壊・落下などで、通行人や近隣住民にケガを負わせることもあります。

このような問題を放置すれば、被害者から損害賠償請求を受けたり、行政代執行により強制的に取り壊しをされてその費用を請求されたりすることがあります。

社会的にも、空き家が多い地域は治安が悪化したり、固定資産税が上がったりと、様々な不利益が生じます。

(3) 自宅を空き家にしないために必要な対策を

自宅を空き家にしてしまうことは、社会に様々な不利益を与える要因となります。そのような社会問題の当事者とならないためには、必要な対策を講じておくことが重要です。

2 生前対策1-適切なタイミングで売却する

自宅を空き家にしないためにもっとも有効な生前対策が、「自宅が不要になった時点で、早期に売却すること」です。お子さまの独立や、長期入院、高齢者向けの介護施設への転居を機に、自宅を売却することで、空き家化を防ぐとともに、老後資金を残すことができます。

ただ、現実に、自宅を売却する適切なタイミングを見極めるのは、難しいことです。病気で長期入院を余儀なくされた際も、退院時のために自宅を残しておきたいと考えて、なかなか売却に踏み切れないことがよくあります。また、高齢になって自宅を売却しようとしても、すでに認知症が進行して契約ができないケースは珍しくありません。

適切なタイミングで自宅を売却することが最善策であることはたしかですが、現実には、将来を見越したタイミングの判断が難しく、その結果、時機を逸してしまうことが珍しくありません。

3 生前対策2-任意後見制度を利用する

認知症のために意思能力を失った段階では、自分で自宅を売却することができません。この場合、後見制度を利用して、後見人にその手続を委ねる必要があります。

(1) 成年後見制度のデメリット

すでに認知症が進行した段階であれば、この後説明する任意後見制度を利用することができず、成年後見制度を利用するほかありません。成年後見制度の場合、自宅の売却のために家庭裁判所の許可が必要です。家庭裁判所は、自宅の売却に対して慎重な傾向にあります。そのため、自宅の売却がスムーズに進まないことが珍しくありません。

(2) 任意後見制度の利用がおすすめな理由

一方、任意後見制度であれば、家庭裁判所の許可なく、(後見監督人の監督のもと)後見人の判断で自宅の売却を進めることができます。

任意後見契約は、判断能力が十分な段階で、(信頼を置くことができる後見人と)任意後見契約を締結する方法です。認知症が進行した時点で契約の効力が発生して、後見人のもとで、適切なタイミングに、自宅の売却を進めることができます。

成年後見制度とは異なり、任意後見契約の場合は、後見人を自由に選ぶことができますので、(認知症が進行する前の)自分の思いに従った適切なタイミングで自宅の売却が進みやすいメリットがあります。

4 生前対策3-遺言制度を利用する

不動産を所有者が亡くなった後、相続人による遺産分割協議がスムーズに進まず、結果的に、長期間放置されて「空き家状態」になってしまうことがあります。このような問題を防ぐためには、遺言書を作成して、「だれにその不動産を託すか」を明確にしておくことが有効です。

もし、自分が亡くなった後、その不動産をどうしてほしいか希望があれば、相続人に直接伝えておくか、あるいは、遺言書に「付言事項」としてその思いを書いておく方法が有効です。

5 生前対策4-民事信託(家族信託)を利用する

任意後見制度や遺言制度のほか、最近着目されている生前対策が、民事信託(家族信託)です。

自宅不動産やその管理に必要な現金を「信託財産」として、受託者(自由に選ぶことができます)に信託し、管理や適切なタイミングでの処分を委ねることができます。

例えば、介護施設などに転居した段階で自宅を第三者に賃貸して、賃貸収入を施設利用費に充て、適切なタイミングが来た時点で売却するようなことも、民事信託(家族信託)であれば実現することができます。

民事信託(家族信託)の仕組みをうまく活用すれば、自分が亡くなった後も、配偶者が亡くなるまで、引き続き受託者に自宅の管理を委ねるようなこともできます。

民事信託(家族信託)は、(1)税務申告をしなければならない、(2)信託口座の開設に手間がかかるなどハードルはありますが、うまく活用することで、他の制度よりも優れた生前対策を実現することができます。

6 弁護士の立場からサポートできること

弁護士の立場からは、任意後見制度・遺言制度・民事信託(家族信託)の活用において、様々なサポートをご提供することができます。

(1) 任意後見制度

任意後見制度においては、弁護士を後見人として選ぶことができます。弁護士であれば、適切に財産の管理などを専門知識と経験をもって行うことができますので、安心して任意後見制度を利用することができます。

(2) 遺言制度

遺言書については、弁護士に文案作成を依頼することができます。弁護士に文案作成を依頼すれば、要件に不備があって無効になってしまったり、あいまいな内容を遺言事項に含めてしまって親族間のトラブルを招いたりすることを防げます。

(3) 民事信託(家族信託)

民事信託(家族信託)を活用するために、まずは、どのようなスキーム(仕組み)がよいかを考えて、その内容を民事信託契約書にする必要があります。そのためには、信託法に関する専門的な知識が不可欠です。

また、弁護士が信託監督人に就任して、受託者を監督することで、受託者による不正行為を防ぐことができます。

7 生前対策のことは弁護士にご相談ください

空き家問題をはじめ、生前対策でお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。弁護士の立場から、おひとりおひとりのご事情に沿った、最善の生前対策をご提案いたします。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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