弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2024.12.28
終活のサポート

事実婚のパートナーとの生前対策を弁護士が解説

1 はじめに

最近、結婚に対する意識の変化から、「事実婚」を選択するパートナーが増えつつあります。

「事実婚」を選択した場合に大きな課題となるのが、「生前対策」です。事実婚の場合、パートナーが相続人となることができないため、一方が亡くなったときに、他方が経済的に困窮したり、生活に大きな支障を抱えたりすることがあります。

2 事実婚でも認められること

(1) 亡くなったパートナーが借りていた家には引き続き居住できる

ア 相続人がいないケース

Aさん(50歳・男性)とBさん(45歳・女性)は、事実婚の関係にありました。Bさんは、Aさんの賃貸しているマンションで、Aさんと暮らしていました。1か月前、Aさんが急逝しました。AさんとBさんとの間に子どもはいません。また、Aさんは両親ともに亡くなっていて、きょうだいもいません。

この事例で、Aさんの相続人はいません。Bさんは、自宅の賃貸を続けることができるのでしょうか。

借地借家法36条には、このようなケースにおいて、Bさんが賃借人の権利義務を承継することが定められています。つまり、Bさんは、退去せずに引き続き自宅に住み続けることができます。

イ 相続人がいるケース

Aさん(50歳・男性)とBさん(45歳・女性)は、事実婚の関係にありました。Bさんは、Aさんの賃貸しているマンションで、Aさんと暮らしていました。1か月前、Aさんが急逝しました。AさんとBさんとの間に子どもはいません。Aさんは両親ともに亡くなっていますが、きょうだいとして、兄Cさんがいます。BさんとCさんは不仲です。

この事例では、Aさんの相続人としてCさんがいます。この場合、Cさんは、相続人として、Bさんに自宅からの退去を求めることができるのでしょうか。

この場合、判例上、相続人であるCさんは、特別の理由がない限り、Bさんに対して退去を求めることはできないとされます(最判昭39・10・13判例時報393号29頁)。

(2) 生前であれば内縁関係の解消に離婚のルールが類推適用される

Aさん(50歳・男性)とBさん(45歳・女性)は、事実婚の関係にありました。Aさんの不倫を理由に2人の関係は悪化し、事実婚の関係を解消することになりました。Bさんは、Aさんに対し、財産分与や不貞慰謝料を求めることができるのでしょうか。

事実婚の関係であっても、法律婚と同様に、財産分与や不貞慰謝料を請求することができると考えられています。話合いで解決しないときは、家庭裁判所に内縁関係調整調停を申し立てます。

(3) 社会保険制度では法律婚と同じ扱いを受ける

健康保険法や厚生年金保険法といった社会保険制度では、事実婚の場合も、法律婚と同様の扱いを受けることが、明文で定められています。

3 事実婚では認められないこと

以上のとおり、事実婚について法律婚と同様の扱いを受けるケースは多く、多くの場面において、事実婚を選択することの支障は限定的です。

ただ、事実婚の場合、相続制度のもとで「配偶者」として扱われません。そのため、万が一パートナーが亡くなったときに、相続を受けられず、経済的に困窮したり、生活に大きな支障を抱えたりすることがあります。

このような事態を防ぐために、事実婚においては、「遺言書」を作成することに重要な意味があります。

4 事実婚のパートナーに遺言書を残す前に知っておきたいこと

事実婚のパートナーに遺言書を残すに当たって、理解しておくべきポイントをご紹介します。

(1) 事実婚のパートナーには「遺贈する」

事実婚のパートナーは相続人となりません。そのため、事実婚のパートナーに対して「相続させる」という遺言の書き方は誤りであり、「遺贈する」が正しいです。

(2) 事実婚のパートナーには遺留分がない

事実婚のパートナーには遺留分がありませんので、相続人となる親族がいる場合には、その遺留分を侵害しない範囲で財産を遺贈をする必要があります。

(3) 配偶者居住権は設定することができない

事実婚のパートナーには、配偶者居住権を設定することができません。そのため、事実婚のパートナーに自宅を残したいときは、「自宅不動産の遺贈」を選択する必要があります。

(4) 相続税の負担が大きい

「配偶者」の場合、法定相続分又は1億6000万円のいずれか大きい額について、相続税がかからない特例があります。しかし、ここでいう「配偶者」とは、法律婚のパートナーに限られ、事実婚のパートナーは含まれません。

さらに、事実婚のパートナーは法定相続人ではないため、法定相続人よりも相続税の負担が大きくなる「2割加算」ルールが適用されます。

これらの理由から、事実婚のパートナーに財産を遺贈する場合には、あらかじめ相続税額の試算をして、「相続税が支払えない」問題が発生しないように留意する必要があります。例えば、不動産を遺贈する場合には、あわせて、相続税の負担を考慮した額の現預金をあわせて遺贈することを検討してください。

5 遺言書の文案作成は弁護士にご依頼ください

遺言書の文案作成は、弁護士に依頼することができます。弁護士のサポートを受けることで、このコラムでご紹介したような点に留意して、法的紛争を生じさせない遺言書を作成することができます。遺言書のご相談は初回相談無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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