相続土地国庫帰属制度の活用方法を弁護士が解説
- 1 新制度のスタート
- 2 制度利用の現状
- 3 制度利用の流れ
- (1) 申請書の作成・提出
- (2) 法務局による審査(書面審査・土地の実地検査)
- (3) (承認された場合)負担金の納付
- 4 相続土地国庫帰属制度を利用できない場合(却下事由・不承認事由)
- (1) 建物がある土地(却下事由)
- (2) 担保権・使用収益権が設定されている土地(却下事由)
- (3) 他人の利用が予定されている土地(却下事由)
- (4) 土壌汚染されている土地(却下事由)
- (5) 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地(却下事由)
- (6) 一定の勾配・高さの崖(勾配30度以上+高さ5メートル以上)があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地(不承認事由)
- (7) 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
- (8) 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
- (9) 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- (10) その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
- 5 相続土地国庫帰属制度と相続放棄制度の違い
- (1) すべての財産を相続することができない
- (2) 期間制限がある
- 6 相続土地国庫帰属制度を利用するメリットが大きいケース
- (1) 土地以外に相続したい財産がある
- (2) 対象の土地が農地である
- 7 相続土地国庫帰属制度を利用するうえでの課題
- (1) 法務局の審査に期間を要する
- (2) 金銭的コストを要する
- 8 弁護士のサポート
弁護士 石田 優一
弁護士 是永 淳志
1 新制度のスタート
2023年4月から、相続土地国庫帰属制度がスタートしました。相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した方が、その土地を手放して、国庫に帰属させることができる制度です。
例えば、土地を相続したものの、「遠方に住んでいるために利用しづらい」「近隣に迷惑をかけないためには管理し続けなければならないが、その負担が大きい」といった理由で、土地の所有を継続することを躊躇する方の利用が想定されています。
2 制度利用の現状
法務省が公表する2024年11月現在の統計(速報)によれば、申請件数は約3,000件で、約37%が田畑、約35%が宅地、約16%が山林でした。管理や売却において課題の多い田畑や山林だけではなく、宅地の申請割合も多いことからは、相続土地国庫帰属制度が幅広いニーズに応えるものであることがうかがえます。
申請件数が現状多いとはいえませんが、今後「使いやすさ」が向上していけば、ニーズの高まりを期待できます。
3 制度利用の流れ
相続土地国庫帰属制度の利用の流れは、次のとおりです。
(1) 申請書の作成・提出
共同相続の場合には、相続人全員での申請が必要です。
申請書を作成・提出する前に、対象の土地に却下事由・不承認事由がないことを十分に検討する必要があります。
申請費用は、土地一筆につき14,000円です。
(2) 法務局による審査(書面審査・土地の実地検査)
対象の土地について、却下事由・不承認事由がないか、審査されます。主な却下事由・不承認事由については、この後ご紹介します。
(3) (承認された場合)負担金の納付
承認を受けるためには、あらかじめ負担金を納付しなければなりません。負担金とは、国が土地の管理費用の一部(おおむね10年分の標準的な費用)をあらかじめ納付することを求めるものです。
負担金の額は、土地の種別や面積によって異なりますが、少なくとも20万円程度の負担を求められます。
詳細は、法務省のWebページ「相続土地国庫帰属制度の負担金」を参照してください。ページ内に、負担金の額を計算することができるExcelファイル(自動計算シート)が掲載されています。
4 相続土地国庫帰属制度を利用できない場合(却下事由・不承認事由)
次のような場合は、相続土地国庫帰属制度を利用することができません。申請書を提出する前に、このような却下事由・不承認事由がないかを、検討する必要があります。
(1) 建物がある土地(却下事由)
空き家問題を解消するために相続土地国庫帰属制度を利用することはできません。
(2) 担保権・使用収益権が設定されている土地(却下事由)
抵当権や賃借権などが設定されている土地は、国の管理に支障が生じるため、相続土地国庫帰属制度を利用することはできません。
(3) 他人の利用が予定されている土地(却下事由)
他人が通路や用水路として使用している土地など、他人の利用が予定されている土地は、国の管理に支障が生じるため、相続土地国庫帰属制度を利用することはできません。
(4) 土壌汚染されている土地(却下事由)
土壌汚染されている土地は、国の管理上の負担が過大であるため、相続土地国庫帰属制度を利用することはできません。
(5) 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地(却下事由)
申請書には、土地の位置や範囲を明らかにする図面や、(必要に応じて)その場所や境界を特定する写真などを添付しなければなりません。これらの資料から境界が不明瞭な土地や、隣地との境界紛争がある土地について、相続土地国庫帰属制度を利用することはできません。
(6) 一定の勾配・高さの崖(勾配30度以上+高さ5メートル以上)があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地(不承認事由)
土砂崩れなどで近隣被害が生じるおそれがあり、災害を防ぐための工事が必要な場合などが該当します。
(7) 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
かつて果樹園として利用されていて樹木に覆われていた土地や、竹林などが該当します。
(8) 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
産業廃棄物が放置された土地などが該当します。
(9) 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
他の土地に囲まれて公道に通じない土地(袋地)や、池や川などを通らないと公道に出られない土地などが該当します。
(10) その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
土砂崩れの危険がある土地や、害獣が生息する土地などが該当します。類型別に、細かい要件が定められています。
5 相続土地国庫帰属制度と相続放棄制度の違い
相続した土地を管理し続けることが難しい場合には、相続土地国庫帰属制度のほか、相続放棄制度を利用することが考えられます。ただ、相続放棄には、次のようなデメリットや課題があります。
(1) すべての財産を相続することができない
相続放棄は、相続人となること自体を回避するための手続ですので、土地だけではなく、一切の財産を相続することができなくなります。例えば、土地の管理を避けたいが、その他の財産は継承したいと考えた場合、相続放棄制度を利用することはできません。
(2) 期間制限がある
相続放棄は、相続の開始を知ってから3か月以内に手続をしなければなりません。例えば、土地の現況について十分に調査した結果、売却が困難であることが発覚した時点で、すでに相続の開始を知ってから3か月を経過してしまうと、原則として、相続放棄を選択することができません。
6 相続土地国庫帰属制度を利用するメリットが大きいケース
(1) 土地以外に相続したい財産がある
土地以外に相続したい財産がある場合、相続放棄を選択することはできません。このような場合に、土地については相続土地国庫帰属制度を利用して国に帰属させ、他の相続財産から負担金を納付する方法が考えられます。
(2) 対象の土地が農地である
農地を売却するためには、農地法上、農業委員会の許可が必要です。その許可のハードルから、農地の売却を円滑に進められないケースは少なくありません。
相続土地国庫帰属制度を利用するうえで、農業委員会の許可は必要ありません。そのため、対象の土地が農地の場合、相続土地国庫帰属制度を利用するメリットがあります。
7 相続土地国庫帰属制度を利用するうえでの課題
相続土地国庫帰属制度を利用するうえでは、次のような課題があります。「相続土地国庫帰属制度を利用したい」と思った場合でも、まずはメリット・デメリットを十分に検討し、「本当に相続土地国庫帰属制度を利用することが最善策なのか?」を考えることが重要です。ケースによっては、相続土地国庫帰属制度を利用するよりも、不動産業者に相談して買い手を探したり、初めから相続放棄を選択したほうが、メリットの大きいことがあります。
(1) 法務局の審査に期間を要する
相続土地国庫帰属制度から承認を受けるためには法務局の審査を経なければなりませんが、1年程度かかることも珍しくありません。そのため、相続土地国庫帰属制度で不承認の判断がされた場合に、相続放棄を選択することは原則としてできません。
(管理が難しい問題のある土地であるために)不承認の判断がされるおそれがあり、かつ、確実に土地の管理を回避したいケースであれば、初めから相続放棄を選択するほうが適切です。
(2) 金銭的コストを要する
相続土地国庫帰属制度を利用するうえでは、少なくとも20万円程度の負担金を納付しなければなりません。また、申請書の作成を弁護士などの専門家に依頼した場合、その費用の負担も生じます。
たとえ0円に近い金額であっても、不動産業者に相談して買い手が見つかる可能性があるならば、不動産業者への相談を先行させることが望ましいです。
8 弁護士のサポート
「相続土地国庫帰属制度に関心はあるが、実際に利用するメリットがあるかどうか分からない」場合は、弁護士へのご相談をおすすめします。弁護士の立場からは、相続土地国庫帰属制度に関する基本的なアドバイスのほか、申請書の作成代行もサポートすることができます。
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