弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2025.01.27
終活のサポート

デジタル遺産の生前対策について弁護士が解説

弁護士 石田 優一

弁護士 是永 淳志

1 デジタル遺産の相続問題

年齢層にかかわらずオンラインサービスをだれもが利用する時代となって、「デジタル遺産」にかかわる様々な相続問題が登場しています。

「デジタル遺産」とは、亡くなった方がデジタル形式で保管していた財産のことをいいます。電子マネーや、暗号資産、FXなどが、「デジタル遺産」に該当します。今後、NFTなど、新しい「デジタル遺産」が次々に登場することが予想されます。

亡くなった方がこのような「デジタル遺産」を残していた場合に、どうやって相続手続を進めていくかが、大きな課題となります。

2 デジタル遺産に該当すると一般に考えられているもの

(1) 電子マネー

「デジタル遺産」の1つが、ICOCA、楽天キャッシュ、PayPayに代表されるような「電子マネー」です。

電子マネーは、現金とほとんど同じように利用することができますので、財産的価値があるものとして相続財産に含まれうると考えられます。

電子マネーの多くは、運営事業者が、本人が亡くなった際における手続について、Webサイトや規約上で明示しています。電子マネーが「デジタル遺産」に含まれるときは、このようなWebサイトの表示や規約の内容を頼りに、払戻し・現金化のための手続を進める必要があります。

ただし、電子マネーをそもそも保有していたかを相続人が調査することはハードルが高いです。電子マネーを保有している方は、生前対策として、保有している電子マネーの一覧を親族に共有しておくことが望ましいです。

(2) 暗号資産(仮想通貨)

「デジタル遺産」として問題になるケースが増えているのが、暗号資産(仮想通貨)です。

暗号資産(仮想通貨)は、財産的価値があるものとして相続財産に含まれうると考えられます。

暗号資産(仮想通貨)が電子マネーと大きく異なるのが、運営事業者が存在しない点です。取引業者は存在しますが、あくまでも暗号資産(仮想通貨)の取引を仲介する事業者であって、暗号資産(仮想通貨)の発行・管理を担う事業者ではありません。

暗号資産(仮想通貨)は、ブロックチェーンという技術を利用したもので、「秘密鍵」を保有する保有者本人でなければ管理することができません。運営事業者に問い合わせて払戻しの手続を行うことができないわけです。

ですから、暗号資産(仮想通貨)を保有している方は、万が一のときに相続人が暗号資産(仮想通貨)を処分することができるように、暗号資産(仮想通貨)へのアクセス方法(ウォレットの利用方法)を親族に共有しておくことが望ましいです。

3 デジタル遺産に該当するかどうかが曖昧なもの

(1) ポイント・マイレージ

最近は、多額のポイントやマイレージを保有する方が増えており、相続時に問題になるケースがしばしばあります。

ポイント・マイレージが相続財産に該当するかどうかは、見解が分かれます。

相続財産に該当するという立場は、ポイント・マイレージも現在では現金に近い利用ができ、現金類似の財産的価値があることを根拠とします。他方、相続財産に該当しないという立場は、ポイント・マイレージはあくまでもサービスの1つであって、財産的価値までは認めがたいことを根拠とします。

この点は確立した見解がないため、相続人が複数存在する場合は、個々に協議して、相続財産に含めて考えるかを決めざるを得ません。

ちなみに、ANAマイレージは、規約の中で、相続による譲渡ができる旨が規定されていますので、「相続財産に該当する」との考え方に親和的です。

また、楽天ポイントは、家族カード間でポイントを移動させることができますので、生前対策として、あらかじめ他の家族にポイントを移動させておくことが考えられます。

(2) ブログ・SNS

基本的には、ブログやSNSのアカウントは、一身専属の権利と考えられます。実際、運営事業者の規約でも、相続による承継の対象とならないことが明示されている例があります。

なお、運営事業者によっては、相続による承継を規約で認めているケースもあります。実際に、ブログやSNSのアカウントの承継が問題になる場面では、運営事業者が公開する規約の確認も必要です。

また、ブログで公開する記事自体は、著作物に該当し、その著作権は相続の対象となります。ブログで公開する記事について、相続人の1人が遺産分割協議のうえで単独での著作権を取得し、自己のアカウント上でアップロードすることで、事実上承継することは考えられます。

(3) 電子書籍やインターネットゲームのアカウント

電子書籍はインターネットゲームのアカウントも、相続による承継を規約上認めていないケースが多いです。このようなアカウントは、一身専属性の高い利用権であると一般に位置づけられていることが理由であると思われます。

4 デジタル遺産の生前対策を怠ることで起きる問題

(1) 相続税の問題

デジタル遺産を相続人が長期間把握できずに放置してしまえば、後々になってその存在が明らかになった後に、相続税の延滞税や追徴課税の対象となるおそれがあります。

(2) 現金化ができなくなるおそれ

電子マネーの場合、相続人が長期間把握できずに放置した結果、払戻し手続が時効などを理由にできなくなるおそれがあります。

(3) デジタル遺産の存在が永遠に発覚しないケースも

そもそも、デジタル遺産がだれにも発見されず、そのまま闇に葬られてしまうケースもあります。デジタル遺産の場合、亡くなった方の使用していたPCやスマートフォンに残された情報が唯一の手がかりであるケースも珍しくありません。ただ、PCやスマートフォンは、セキュリティ設定が通常されていますので、相続人が発見するハードルが高い問題があります。

5 デジタル遺産の生前対策

さて、以上のことを踏まえて、デジタル遺産の生前対策をいくつかご紹介します。

(1) 本人以外が現金化しづらいデジタル遺産などは早めに現金化・消費する

ご本人の管理するウォレットがなければ売買ができない暗号資産(仮想通貨)や、そもそも一身専属性の高いポイントなどは、早めに売却したり、消費したりすることが重要です。生前対策の一環として、このような方法も検討してください。

(2) エンディングノートや遺言書に書いておく

デジタル遺産の管理に必要なID・パスワード情報などを、エンディングノートや遺言書の付言事項欄に記載しておくことも、有効な生前対策です。遺言書については、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して、相続人に発見されないリスクを減らす対策が考えられます。

(3) 死後事務委任を利用する

デジタル遺産の管理について、親族の1人に委任(死後事務委任)をしておく方法も有効です。信頼できる親族との間で死後事務委任契約書を作成し、自身が亡くなった後のデジタル遺産の管理を委ねるとともに、ID・パスワードの善管注意義務も契約書上で明記することで、安心してデジタル遺産の管理を委ねられます。

6 生前対策のことは弁護士にご相談ください

生前対策のことでお悩みの際は、ぜひ弁護士にご相談ください。例えば、デジタル遺産の管理に関してであれば、遺言書や死後事務委任契約書の文案作成などのサポートが可能です。

また、生前対策全般では、遺言執行者候補者への就任や任意後見人としてのサポートなど、さらに幅広いサポートが可能です。

生前対策・終活のことは、「みお 神戸」の弁護士にお任せください!

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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