情報セキュリティマネジメント

医療ビッグデータの利活用と個人情報保護(第1回)

弁護士 石田 優一

コラムのご紹介

今回のコラムのテーマは,医療ビッグデータです。最近,次世代医療基盤法が施行され,医療ビッグデータの利活用に向けて大きな第一歩が踏み出されました。現在,政府は,医療機関や大学等の様々な機関と連携して日本中の医療情報を集積し,医療サービスを向上させようとしています。ただ一方で,懸念されるのは,医療情報を集積するうえでの個人情報保護の問題です。このコラムでは,2回シリーズで,医療ビッグデータの利活用について技術的な概要を説明したうえで,改正個人情報保護法や次世代医療基盤法と医療ビッグデータとの関係や法的課題について取り上げます。


AIが医療を変える

 

ドラえもんの「お医者さんカバン」というひみつ道具をご存じでしょうか。体調の悪い人にカバン型の機器に付属した聴診器を当てると,自動的に診断を行い,病状にあった薬が出てくる優れものです。一見,夢物語のような道具ですが,それが近い将来,現実世界でも実用化されるかもしれません。

 

現在,厚生労働省では,オリンピックイヤーである2020年度までを目標に,「次世代型保健医療システム」の構築に向けた検討が進められています。具体的には,地域や全国の医療機関・研究機関・行政機関等をネットワークでつないで1人1人の保健医療データを統合し,個人の健康管理に活用したり,膨大な医療データを集約した「医療ビッグデータ」を構築して,診断や医学研究に役立てていこうという検討がなされています。

 

AI(人工知能)による医療ビッグデータの解析によって,AIが自動的に病気の特徴を分析し,「AI診療」につなげていくこともできます。近い将来,IoTの技術を応用することで,「AI診療」の端末が一家に一台備えられて,体調不良の時に自宅で気軽に「AI診療」を受けられる日が来るかもしれません。

 

また,国民1人1人の保健医療データを瞬時に検索できるデータベースを構築することで,患者それぞれの健康状態・病歴・身体的特徴などを考慮した精度の高い「AI診療」を実現することも可能になります。

 

「お医者さんカバン」も,もはや夢物語ではなくなっています。

 

医療ビッグデータの構築によって期待されているのが,「医療データマイニング」の普及です。医療データマイニングは,膨大なデータを分析することで,これまで「だれもが気づかなかった」新しい疾病の要因や治療方法などを発見する手法です。近年のAIの進歩やコンピュータの能力向上により,医療データマイニングの実用性が高まっています。

 

第2章では,医療データマイニングについて紹介しながら,なぜ医療ビッグデータが今後必要となっていくかについて,詳しく説明していきたいと思います。

 

医療ビッグデータと医療データマイニング

 

医療データマイニング

 

データマイニングとは,収集した大量のデータを解析して,これまで明らかでなかった発生要因や傾向などを発見する手法のことです。マイニングとは,鉱山から鉱物を掘り出すという意味で,たくさんのデータから新しいことを発見するところが「マイニング」に似ているというのが,その名前の由来です。

 

データマイニングは,統計解析とは手法が異なります。統計解析は,あらかじめ「この薬を飲めば病気が治るはずだ」という仮説からスタートして,実際に一定数の被験者に投薬した結果(サンプル調査結果)を検証していく手法です。一方,データマイニングは,あらかじめ仮説を設定することなく,収集した大量のデータを分析することで,時にはだれもが思いもよらなかった発生要因や傾向を発見することができるところに特長があります。

 

このようなデータマイニングの手法を医療分野に利活用していこうというのが,「医療データマイニング」です。例えば,医療機関からカルテや検査結果などの大量の情報を集約してデータベースを作りだし,データマイニングによって分析することで,「検査結果でこのような特徴のある人はA病を発症するおそれがある」「B病の人はC病を併発するリスクが高い」「D病のためにこれまで使用されてきた薬がE病にも効果を発揮している」など,これまでだれも気づかなかった新たな法則や傾向を発見することができます。これまで医師の経験や勘によって培ってきた治療方法を,今後は医療データマイニングの手法によって発見することができます。このような発見は,診療や研究など,様々な分野で応用していくことができます。

 

特に,近年のAI(人工知能)の普及やコンピュータの能力向上によって,これまでは処理できなかった大量のデータ(ビッグデータ)の処理や,複雑な分析ができるようになったことで,医療データマイニングへの注目が高まっています。最近では,ニューラルネットワークを活用した分析手法も研究が進んでいます。

 

医療データマイニングを実用化していくうえでは,多数の医療機関に眠っているデータを集約・整理したデータベース(医療ビッグデータ)を構築していくことが不可欠です。

 

医療データマイニングの難しさ

 

医療データマイニングは,一見,疾病のデータをたくさん集めさえすれば容易に実現できそうな印象ですが,決してそうではありません。

 

例えば,「喫煙する人」と「喫煙しない人」とで生活習慣病に罹患している数を調べたところ,「喫煙する人」のほうが人数が多かったとします。では,この結果から,「喫煙をすると生活習慣病になりやすい」と結論づけてよいでしょうか。そのように直ちに結論づけることはできません。なぜなら,「喫煙する人」に中年男性が多いとすれば,「中年男性は生活習慣病になりやすい」からこのような結果になった可能性もあるからです。このようなことを「交絡」といいます。

 

患者は1人1人,身体的特徴も,生活環境も,年齢も異なります。そのため,患者1人1人の様々な属性までデータ化したうえで,医師の専門的知見や研究結果も踏まえて交絡要因も考慮することが不可欠です。

 

信頼性の高い医療データマイニングを実現するためには

 

AIの普及やコンピュータの能力向上によって,これまでは実現し得なかった複雑なデータ分析が可能になりました。今後,AIは飛躍的に進歩していくことが予想されます。

 

ただ,AIの技術が進歩するだけでは,信頼性の高い医療データマイニングを実現することはできません。質の高い医療ビッグデータを構築していくことが不可欠です。

 

第1に,医療ビッグデータの整備のために,医療機関をはじめ,様々な機関をネットワークで結びつけ,医療データの収集を効率的に行うためのシステムを構築していくことが必要です。

 

第2に,統一的な電子カルテシステムを普及させて,医療データの収集をしやすい環境を構築することが必要です。

 

他にも,これまでの医学研究の成果をデータベース化してデータ分析に活かしていくことや,ゲノム情報(DNA配列情報)の研究結果との連携を図っていくことなど,信頼性の高い医療データマイニングを実現するためには,膨大なデータ収集・解析ができるシステムの構築が必要です。「次世代型保健医療システム」は,まさにこのような仕組みを構築していくための取組みです。

 

医療ビッグデータと個人情報保護の問題

 

医療ビッグデータは,医療データマイニングへの利活用を含め,今後,医療現場,そして社会全体にとってかけがえのない存在になるものと思われます。

 

しかし,医療ビッグデータは,国民1人1人の病気や身体的特徴など,極めてセンシティブな情報を含んでいることから,個人情報保護との関係が大きな問題となります。

 

第2回では,医療ビッグデータと個人情報保護をテーマに,お話ししていきたいと思います。

 

―第2回につづく―
ー当事務所でご提供する法人向けサービスはこちらですー

 

 

このコラムを書いた人

弁護士 石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
情報処理安全確保支援士、応用情報技術者の資格を持つ若手弁護士。IT、IoT、営業秘密など、いつでもすぐに、最新の問題に対応するリーガルサービスを提供できるよう、5年先、10年先を読みながら、日々研鑽を積んでいる。
プロフィールはこちら

同じカテゴリのコラム記事

情報セキュリティマネジメント
日本の企業にGDPRが域外適用されるケース
情報セキュリティマネジメント
医療ビッグデータの利活用と個人情報保護(第2回)
情報セキュリティマネジメント
IoT税制(投資減税)の要件-IoTのセキュリティ対策(第2回)

みおの関連サービス