弁護士が解説!ペットのための生前対策

弁護士 石田 優一
弁護士 是永 淳志
1 ペットのための生前対策
終活でご相談いただく課題の1つが、「ペット」のことです。
大切なペットのために資産を残したいと考えても、ペットに財産を相続することはできません。また、法律上、ペットは「動産」として扱われるため、ご自身が亡くなった後、ペットをだれがどのようにお世話していくかは、(生前対策を何もしなければ)相続人の判断に委ねられます。
このコラムでは、ご自身が亡くなる前に、「ペットのために考えておきたい生前対策」のことをご紹介します。
2 生前対策1-負担付(生前)贈与をする
ペットの新しい飼い主になることを承諾した方と、負担付(生前)贈与契約を結ぶ方法です。
具体的には、ペットのお世話をすることを条件に、ペットと一定の金銭(想定される飼育費用を想定した額)を生前贈与する方法です。
生前贈与をした後も、ご自身がペットのお世話をすることができる間は、ご自身のもとでお世話を続けることが考えられます。
ただ、負担付(生前)贈与の場合、贈与した金銭をペットのためにどのように活用するか、契約で柔軟に定めることが難しい課題もあります。
受贈者にお渡しする財産の額が大きい場合、高額な贈与税が発生することも、デメリットです。
3 生前対策2-負担付死因贈与をする
ペットの新しい飼い主になることを承諾した方と、負担付死因贈与契約を結ぶ方法です。
具体的には、ペットのお世話をすることを条件に、ペットと一定の金銭(想定される飼育費用を想定した額)をご自身が亡くなった時点で贈与することを、あらかじめ約束する方法です。
死因贈与の場合、(贈与税ではなく)相続税が問題になりますが、贈与税と比べて基礎控除額が格段に大きいため、生前贈与よりも税負担を大きく軽減することができます。
ただ、負担付死因贈与の場合、贈与した金銭をペットのためにどのように活用するか、契約で柔軟に定めることが難しい課題もあります。
また、死因贈与の場合、ご自身が亡くなる前は効力が発生しませんので、ご自身が認知症でペットのお世話を続けられない場合の扱いなど、生前のことを柔軟に定めることもできません。
4 生前対策3-民事信託を活用する
負担付贈与(死因贈与)のデメリットを踏まえて、民事信託の活用をご検討いただくことをおすすめします。
(1) 民事信託とは?
「信託」とは、特定の目的を決めて、財産の管理や処分などを特定の人(受託者)に託すものです。
財産の管理や処分などを託す人を「委託者」、託される人を「受託者」といいます。また、信託によって利益を受ける人のことを、「受益者」といいます。
(2) 民事信託を活用したペットの生前対策
上の図は、民事信託の制度を活用して、ペットの生前対策を実現する方法(一例)を示したものです。
※ペットを信託財産の一部にすると、「目的信託」と解釈されて、信託法上、信託会社など以外を受託者に指定することができないおそれがあります。そこで、本コラムでは、信託契約と死因贈与契約を併用して、ペットを信託財産に含めない方法をご紹介しています。
ア 信託契約の締結
まず、生前対策をしたい人が、ご家族など信頼を置ける方と、「信託契約」を結びます。つまり、生前対策をする方が「委託者」、ご家族など信頼を置ける方が「受託者」となります。
信託契約に基づいて、ペットが亡くなるまでに想定される飼育費用を、信託財産として、受託者に信託します。
信託契約においては、ペットのお世話のために必要な費用を、信託契約で定めた「受益者」のために支出することを定めておきます。
イ 死因贈与契約の締結
信託契約とは別に、ご自身が亡くなった時点で、ペットを「新たな飼い主」に贈与する契約(死因贈与契約)を締結します。
ウ 信託口の開設
信託財産は、信託銀行などで新しい口座(信託口)を開設して、そこで管理します。これにより、信託財産が受託者によって私的に使われることを防げます。
エ 委託者が亡くなるまで
委託者が亡くなるまでの間は、委託者自身を「受益者」(第一次受益者)と信託契約で指定しておきます。ペットのお世話のために必要な費用を、定期的に受託者から受け取ります。
信託契約において、委託者においてペットの療養が難しくなったとき(病気やケガなど)にペットホテルの宿泊料を信託財産から支出したり、ペットが病気になったときに獣医師の受診費用を信託財産から支出したりすることを定めておけば、万が一のリスクに備えることもできます。
オ 委託者が亡くなった後
委託者が亡くなった後は、「新たな飼い主」を「受益者」(第二次受益者)と信託契約で指定しておきます。「新たな飼い主」は、ペットのお世話のために必要な費用を、定期的に受託者から受け取ります。
(3) 受託者による不正な行為を防ぐために
ご家族などを受託者にした場合、信託財産が私的に使われてしまうリスクが残ってしまいます。このような問題が起きないために、弁護士を信託監督人に選任することをおすすめします。
信託監督人は、受託者に不正な行為があったときにその行為の効力を失わせる(取消権)など、受託者を監督する権限を持ちます。受託者に対して、信託監督人に対する資産状況や収支の報告を義務づけることで、信託監督人による監督を実効的なものにすることができます。
5 弁護士のサポート
(1) ペットの生前対策に関する全般的なアドバイス
私たち弁護士が、民事信託の活用やその他の方法から、ご相談者様にとって最善の選択肢をご提案します。現在抱えていらっしゃる不安を丁寧にうかがって、適切なアドバイスを差し上げます。
(2) 信託契約書・死因贈与契約書などの作成サポート
ペットの生前対策には様々なバリエーションがあり、信託契約書の作成には高度な専門知識が求められます。私たち弁護士が、信託契約書・死因贈与契約など、必要な書面の作成をフルサポートいたします。
(3) 信託監督人としてのサポート
信託契約を結んだ後は、信託監督人として継続的なサポートをご提供することもできます。弁護士のサポートによって、安心して受託者に大切な財産を信託することができます。
ペットの生前対策についてお悩みの際、まずはお気軽にご相談ください。終活・相続問題の専門家である私たちが、手厚くサポートいたします。