弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2026.07.10
労働者のトラブル

工場で機械に挟まれてケガをしたら|労災制度と慰謝料請求を解説

弁護士 石田 優一

<このコラムでお伝えしたいこと>

工場などで機械に挟まれ・巻き込まれてケガをされた方やご家族に向けて、労災保険で受けられる補償と、それだけでは足りない場合に会社へ損害賠償を請求できる場面を整理します。労災保険と会社への賠償は別のしくみだという点が、特にお伝えしたいことです。

1 はしがき

工場などで、機械に体を挟まれたり巻き込まれたりする事故は、いまも後を絶ちません。厚生労働省の「令和7年の労働災害発生状況(確定値)」によれば、労働災害全体では亡くなった方が過去最少となったものの、「はさまれ・巻き込まれ」による死亡者数は117人と前年より増えており、とくに製造業で多い事故の型です。

こうした事故は、兵庫県内でも身近に起きています。報道された例を、会社名を伏せていくつかご紹介します。

たとえば、三木市のリサイクル工場では、男性従業員が粉砕機に下半身を挟まれ、約2時間後に救出されたものの重傷を負ったと報じられています。また、県内の金属加工工場でプレス機に胸や腹を挟まれて意識不明となった事故や、伊丹市のガソリンスタンドで従業員の男性が洗車機と倉庫の壁の間に挟まれて亡くなった事故なども報じられており、機械に挟まれる・巻き込まれる事故が県内でも繰り返し起きていることがうかがえます(いずれも神戸新聞などの報道によります)。

これらは決して人ごとではありません。そして、被災された方やご家族にとって大切なのは、事故に遭ってしまったときに、受けられる補償をきちんと受けられるかどうかです。多くの方は、会社の案内どおりに労災保険の給付を受けて手続きを終えてしまいますが、状況によっては、労災保険とは別に、会社へ損害賠償を請求できる場合があります。このコラムでは、被災された方やご家族に向けて、労災保険で受けられる補償と、会社への損害賠償を検討すべき場面、そして被災された直後にしておきたいことを、順にご説明します。

2 機械の巻き込み・はさまれ事故はどのように起きるのか

(1) どのような場面で事故が起きやすいですか?

機械による挟まれ・巻き込まれ事故は、通常の運転中だけでなく、掃除・点検・修理・調整といった、ふだんとは違う作業(非定常作業)のときに多く起きています。たとえば、機械を止めずに内部の付着物を取り除こうとして、回転部分に手や衣服が巻き込まれる、というかたちです。

また、安全カバーやインターロック(扉を開けると自動で止まるしくみ)が外されていたり、作動しない状態のまま使われていたりすることも、事故の背景になりがちです。作業を急ぐあまり、こうした安全機能が後回しにされてしまうのです。

実際のご相談でも、安全装置の故障に点検不足が重なって事故に至ったという場面や、業務の工程が削られた結果として安全対策がおろそかになっていた、という場面をうかがうことは少なくありません。ですから、「本人が手を入れたのが原因」と見える事故でも、その背後に会社側の事情が隠れていることは珍しくないのです。

(2) 会社にはどのような安全上の義務がありますか?

機械を扱う作業について、会社(事業者)にはさまざまな安全上の義務が課されています。中心になるのが、労働安全衛生法に基づく労働安全衛生規則(安衛則)です。

たとえば、労働安全衛生規則第101条は、機械の原動機・回転軸・歯車・プーリー・ベルトなど、労働者に危険を及ぼすおそれのある部分には、覆い・囲い・スリーブなどを設けなければならないと定めています。また、同規則第107条は、機械(刃部を除く)の掃除・給油・検査・修理・調整の作業で危険があるときは、機械の運転を止めなければならず、さらに、ほかの人が誤って動かさないよう起動装置に施錠する等の措置を講じなければならないとしています。刃の部分の作業については、同規則第108条が別に運転停止を求めています。

これらは、事故を防ぐための会社の義務であると同時に、後で会社の責任を検討するときの重要な手がかりにもなります。なお、こうした義務に違反した場合、会社や関係者が労働安全衛生法違反として刑事責任を問われることもあります。

3 労災保険から受けられる補償

(1) 労災保険とは何ですか?

労災保険(労働者災害補償保険)は、仕事が原因のケガや病気(業務災害)などについて、国から給付を受けられるしくみです。会社に落ち度があったかどうかを問わず、業務が原因だと認められれば給付を受けられる点が特徴です。パートやアルバイトの方も対象になります。

給付を受けるには、原則として労働基準監督署(労基署)へ請求します。会社は、労働者からの請求手続に協力する義務を負っています。

(2) どのような給付がありますか?

労災保険には、主に次のような給付があります。厚生労働省や各労働局の案内をもとに整理すると、下表のとおりです。

給付の種類 内容の概要
療養(補償)給付 治療費や入院費など、治療に必要な費用。労災指定病院では原則自己負担なしで治療を受けられます。
休業(補償)給付 療養のため休業し賃金を受けられないとき、休業4日目から支給。1日あたり給付基礎日額(おおむね平均賃金)の6割。これに休業特別支給金2割が加わり、合計で約8割です。
傷病(補償)年金 療養開始から1年6か月たっても治らず、一定の傷病等級(第1~3級)に当たるときに支給される年金。
障害(補償)給付 治った(症状固定)ときに障害が残った場合。第1~7級は年金、第8~14級は一時金。
遺族(補償)給付 亡くなった場合に、生計を維持していた遺族へ支給(年金または一時金)。
葬祭料(葬祭給付) 葬祭を行った方へ支給。
介護(補償)給付 障害(補償)年金・傷病(補償)年金の受給者で、現に介護を受けている場合に支給。

機械の巻き込み事故では、指の切断や手・腕の機能障害といった後遺障害が残りやすく、障害(補償)給付が問題になる場面が多くあります。障害の程度は第1級から第14級までの等級で判断され、この等級が、後述する会社への損害賠償の金額にも大きく影響します。

ここで、ぜひ知っておいていただきたい実務上の注意点があります。後遺障害の等級認定では、通院先の病院やクリニックに、症状を正確に伝えられていないことが少なくありません。たとえば、ケガのことは伝えていても、しびれのことは伝えていない、といったケースです。等級は診断書などの記録をもとに判断されますので、医師にご自身の症状を丁寧に、もれなく伝えることが何より大切です。

(3) いつまでに請求すればよいですか?(時効)

労災保険の給付を受ける権利には、時効があります。労働者災害補償保険法第42条により、療養(補償)給付・休業(補償)給付・葬祭料・介護(補償)給付は2年、障害(補償)給付・遺族(補償)給付は5年で時効にかかります。

「時すでに遅し」とならないよう、早めに請求の準備を進めておくことが望ましいといえます。

4 労災保険だけでは足りない――会社への損害賠償

(1) 労災保険で「すべて」補償されますか?

実は、労災保険は、被った損害のすべてを埋めてくれるわけではありません。労災保険は、必要な範囲の補償を定型的に行うしくみだからです。

たとえば、精神的な苦痛に対する慰謝料は、労災保険にはそもそも項目がありません。また、休業した分についても、労災保険からの補償はおおむね賃金の8割にとどまります。後遺障害が残った場合の逸失利益(後遺障害によって将来の収入が減る分の損害)についても、労災保険の障害(補償)給付だけでは全額をカバーしきれないのが通常です。

そこで、これらの足りない部分については、会社に落ち度がある場合に、会社への損害賠償請求を検討することになります。

(2) 会社に損害賠償を請求できるのはどのような場合ですか?

まず、大切な前提を押さえてください。労災と認定されたことと、会社に損害賠償を請求できることとは、別の問題です。労災が認定されたからといって、当然に会社へ賠償を請求できるわけではありません。この点は、実際のご相談でも、「労災が出たのだから、会社に必ず損害賠償できるはずだ」と誤解しておられる方が少なくない部分です。

会社に損害賠償を請求できるのは、事故について会社に法的な責任が認められる場合です。主な根拠は、次のとおりです。

一つは、安全配慮義務違反です。会社は、労働者が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っており、これは労働契約法第5条にも定められています。この義務を怠って事故が起きた場合、債務不履行として損害賠償責任を負うことがあります(民法第415条)。

もう一つは、不法行為(民法第709条)や使用者責任(民法第715条)です。たとえば、同僚の操作ミスで巻き込まれた場合には、会社が使用者責任を問われることがあります。

ただし、これらの責任が認められるには、会社が事故を予見でき、かつ防ぐことができたといえる事情を、被災された側が示していく必要があります。先ほど触れた労働安全衛生規則違反(安全装置の不備、運転を止めずに作業させていた等)は、その有力な手がかりになります。他方で、被災された方ご自身にも不注意があった場合には、その分だけ賠償額が減らされること(過失相殺)もあります。

(3) 具体的にどのようなお金を請求できますか?

会社に責任が認められる場合、労災保険で足りない部分について、慰謝料(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料)、逸失利益、休業損害の不足分、将来の介護費用などを請求できる可能性があります。

もっとも、すでに労災保険から受け取った給付のうち、損害と同じ性質のものは、賠償額から差し引かれます(損益相殺)。ただし、休業特別支給金や障害特別支給金などの特別支給金は、損害を埋める性質のものではないとされ、差し引かれません(最高裁平成8年2月23日判決)。

【具体例】仮に、工場で働くAさんが、稼働中の機械に手を巻き込まれ、指に後遺障害が残ったとします。このとき、労災保険からは療養(補償)給付や障害(補償)給付を受けられます。加えて、機械に必要な覆いがなく、会社が安全配慮義務を怠っていたと評価できるような場合には、労災保険では支払われない慰謝料などを、会社に請求できる可能性がある、と考えられます。

5 被災された直後にやっておきたいこと

会社への損害賠償まで視野に入れるなら、事故の直後の対応が後々効いてきます。とりわけ大切なのが、労働基準監督署の調査です。

労災事故については、労基署が事故の原因を調査することがあります。被災された方やご家族としては、事故の状況や原因を労基署に丁寧に説明し、問題点が明らかになる端緒を提供しておくことが大切です。会社任せにせず、ご自身の認識を正確に伝えておく、ということです。

なお、労基署が作成した調査の記録は、後の損害賠償請求で重要な資料になり得ます。労災に詳しい弁護士であれば、保有個人情報の開示請求という手続を使って、その調査内容の一部を証拠として入手できることを知っています。一般の方にはあまり知られていない方法ですので、覚えておいていただくとよいでしょう。

あわせて、事故現場の写真、機械の状態、作業手順や指示の記録などは、できる範囲で残しておくことが望ましいです。また、会社から示談を提案されても、金額の当否を確かめないまま急いでサインしないよう、ご注意ください。いったん示談してしまうと、後から追加の請求が難しくなることがあるためです。

6 弁護士のサポート(おわりに)

機械の巻き込み・はさまれ事故では、会社から労災保険について手厚い案内を受け、その給付を受けただけで手続きを終えてしまう方が多くいらっしゃいます。しかし、実際には会社に安全配慮義務違反があり、労災保険とは別に損害賠償を請求できる場合が、しばしばあります。

また、労災保険の申請の段階でも、労基署に事故の原因を正確に伝えられていないために、調査が不利に進んでしまうことがあります。こうしたことを防ぐには、労災問題に詳しい弁護士に早めにご相談いただくことが有効です。

弁護士法人みおには、社会保険労務士の資格もあわせて持つ弁護士が在籍しており、労災保険の手続と、会社への損害賠償の両面から、被災された方やご家族を丁寧にサポートいたします。ご相談の段階で、今後の見通しや検討すべき点をご説明することもできます。

機械の事故でケガをされた方やご家族で、「この補償だけで十分なのだろうか」と少しでも気になることがあれば、示談などの結論を出してしまう前に、まずはお気軽にご相談ください。

<Q&Aまとめ>

Q1.機械に巻き込まれてケガをしました。労災保険ではどのような補償が受けられますか?

A1.治療費(療養(補償)給付)、休業した分の補償(休業(補償)給付。特別支給金と合わせておおむね賃金の8割)、後遺障害が残った場合の障害(補償)給付などを受けられます。亡くなった場合には遺族(補償)給付や葬祭料があります。

Q2.労災保険だけで十分ですか?慰謝料はもらえますか?

A2.慰謝料は労災保険にはありません。また、休業分は約8割まで、逸失利益も全額はカバーされないのが通常です。足りない部分は、会社に責任がある場合に、損害賠償として請求を検討することになります。

Q3.労災が認定されれば、会社に必ず損害賠償できますか?

A3.そうとは限りません。労災の認定と、会社への損害賠償ができるかどうかは別の問題です。会社に安全配慮義務違反(労働契約法第5条、民法第415条)や使用者責任(民法第715条)などの法的責任が認められる場合に、請求できる可能性があります。

Q4.自分の不注意による事故でも、会社に請求できますか?

A4.一見「本人の不注意」に見える事故でも、安全装置の不備や運転を止めない作業など、会社側の事情が背景にあることは少なくありません。ご自身にも不注意があった場合は、その分賠償が減らされること(過失相殺)はありますが、請求できる可能性はあります。まずは事故の原因を確認することが大切です。

Q5.労災保険の請求はいつまでにすればよいですか?

A5.労働者災害補償保険法第42条により、療養(補償)給付・休業(補償)給付・葬祭料・介護(補償)給付は2年、障害(補償)給付・遺族(補償)給付は5年で時効にかかります。早めの準備が望ましいです。

Q6.事故の後、まず何をしておくべきですか?

A6.事故の原因を労働基準監督署に正確に伝えること、事故現場や機械の状態などの記録を残すこと、医師に症状をもれなく伝えること、そして会社の示談提案に急いで応じないことが大切です。判断に迷うときは、早めに弁護士へご相談ください。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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