情報漏えいで解雇・退職勧奨されたら?対応策を弁護士が解説
- <このコラムでお伝えしたいこと>
- 1 はしがき
- 2 「過失による情報漏えい」とは
- (1) 「過失による情報漏えい」とは何ですか?
- (2) わざとではないのに、犯罪になってしまいますか?
- 3 過失の情報漏えいで、解雇は認められるのか
- (1) ミスをしたら、解雇されても仕方ないのですか?
- (2) 解雇が認められるかどうかは、何で決まりますか?
- (3) 会社の管理体制の不備は、影響しますか?
- 4 退職を迫られたときの注意点
- (1) 「自分から辞めた方がいい」と言われたら、応じるべきですか?
- (2) 退職届は、出してしまってよいですか?
- (3) 会社の事情聴取では、何に気をつければよいですか?
- 5 解雇や退職勧奨に納得できないときにできること
- (1) 解雇は無効だと、争うことはできますか?
- (2) 情報漏えいで生じた損害は、全額を弁償しなければなりませんか?
- (3) 争っている間に、別の会社で働いてもよいですか?
- 6 情報漏えいで辞めさせられそうなときは、弁護士にご相談ください
- <Q&Aまとめ>
- Q1.うっかりの情報漏えいでも、すぐに解雇されてしまいますか?
- Q2.わざとではない情報漏えいは、犯罪になりますか?
- Q3.会社から退職を勧められたら、応じなければいけませんか?
- Q4.退職届は出してもよいですか?
- Q5.情報漏えいの損害は、全額を弁償しなければなりませんか?
- Q6.解雇を争っている間に、別の会社で働いてもよいですか?
弁護士 石田 優一
<このコラムでお伝えしたいこと>
メールの誤送信や書類・USBの紛失など、うっかり(過失)による情報漏えいを理由に解雇や退職勧奨をされても、それだけで辞めさせられるとは限りません。ミスの程度や会社の管理体制によっては、争う余地があります。安易に「辞めます」と言わず退職届も出さずに、まず弁護士へご相談ください。1 はしがき
「メールを送る相手を、うっかり間違えてしまった」「顧客情報の入ったUSBメモリを、電車の中でなくしてしまった」。そうした瞬間に、頭が真っ白になったご経験はないでしょうか。
情報を漏らしてしまったこと自体に、強い責任を感じていらっしゃる方は少なくありません。
そのうえ会社から「情報を漏らすとは何ごとだ」「自分から辞めた方がいい」と迫られると、「やはり自分が悪いのだから、辞めるしかない」と思い込んでしまいがちです。
しかし、わざとではない過失(うっかり)による情報漏えいの場合、それだけで解雇や退職を受け入れなければならない、とは限りません。
このコラムでは、過失による情報漏えいを理由に解雇や退職勧奨(会社が労働者に退職を促すこと)を受けた方に向けて、その辞めさせ方に問題がないか、そして、どのように対応すればよいかをご説明します。
2 「過失による情報漏えい」とは
(1) 「過失による情報漏えい」とは何ですか?
過失による情報漏えいとは、わざとではなく、不注意(うっかり)によって、会社の情報を外部に流出させたり、失ったりしてしまうことをいいます。
たとえば、次のような場面が考えられます。メールやファクスの送信先を間違えてしまった、顧客情報の入ったノートパソコンやUSBメモリを紛失した、書類を誤って廃棄した、クラウドサービスの公開範囲やアクセス権限の設定を誤った、といったケースです。
これらは、情報を売ったり、競合他社に持ち出したりする目的で行う「故意」の情報漏えいとは、性質が大きく異なります。
当事務所にお寄せいただくご相談でも、システムの管理を担当していらっしゃる方が、設定のミスによって情報を流出させてしまった、というお悩みは少なくありません。
とりわけ、システムエンジニアやIT担当の方は、一つの操作ミスが大きな結果につながりやすく、過剰なまでにご自身を責めてしまう傾向があります。
(2) わざとではないのに、犯罪になってしまいますか?
過失による情報漏えいが、ただちに犯罪になることは、原則としてありません。
会社の営業秘密の持ち出しを罰する不正競争防止法の営業秘密侵害罪は、「不正の利益を得る目的」や「会社に損害を与える目的」といった、わざと(故意)の悪質な意図があることを前提としています。
ですから、うっかりのミスで情報を漏らしてしまった場合は、この犯罪には基本的に当たりません。
もっとも、その後に情報を隠したり、意図的に持ち出したりすれば話は別です。あくまで「純粋なうっかり」であれば、刑事責任を過度に心配する必要はない、とお考えください。
3 過失の情報漏えいで、解雇は認められるのか
(1) ミスをしたら、解雇されても仕方ないのですか?
ミスをしたからといって、ただちに解雇が認められるわけではありません。
労働契約法第16条は、解雇について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利の濫用として無効になる、と定めています。
また、就業規則の懲戒規定に基づく懲戒解雇の場合は、労働契約法第15条により、その処分が重すぎないか(相当かどうか)も、あわせて問われます。
この「解雇には合理的な理由と社会通念上の相当性が必要だ」という考え方は、日本食塩製造事件(最高裁昭和50年〈1975年〉4月25日判決)や高知放送事件(最高裁昭和52年〈1977年〉1月31日判決)などの積み重ねによって確立してきたものです。
つまり、「ミスをしてしまったこと」と、「そのミスが解雇に値するかどうか」は、法律上は別の問題です。ご自身の責任を感じることは大切ですが、それがそのまま解雇や懲戒の理由に直結するとは限りません。
(2) 解雇が認められるかどうかは、何で決まりますか?
一般に、情報漏えいを理由とする解雇が認められるかどうかは、いくつかの事情を総合して判断されます。
具体的には、漏らした情報の重要性、ミスの程度(軽い不注意か、重大な落ち度か)、実際に流出や損害が生じたか、これまでに注意や指導を受けていたか、会社が段階的な処分を経ているか、などです。
裁判例の中には、就業規則の懲戒事由に当たる行為があった場合でも、その動機が悪質でなく、会社に実害も生じていないなどの事情を総合して、「懲戒解雇は酷に失する」として無効と判断したもの(東京地方裁判所平成24年〈2012年〉8月28日判決)もあります。
過失による情報漏えいの場合に、処分の重さがどちらに傾きやすいかを整理すると、次の表のとおりです。
| 労働者に有利に働きやすい事情 | 労働者に厳しくなりやすい事情 |
|---|---|
| 単発の、偶発的な軽いミス(初めての誤送信など) | 同じミスを繰り返し、注意や指導も受けていた |
| 会社のチェックの仕組みや管理体制が不十分だった | 指導されていた対策を、明確に怠っていた |
| 長時間労働など、過重な環境がミスの背景にあった | 会社に回復困難な損害や信用低下が現実に生じた |
| 漏らした情報の重要性が高くない、流出・実害が小さい | 本人に、情報を悪用しようとする意図がうかがわれる |
| 注意・指導や軽い処分を経ずに、いきなり解雇された | 重大な結果(大量の機密流出など)が生じた |
もっとも、これらはあくまで判断の目安です。最終的には、個々の事情を総合して判断されるため、「必ずこうなる」とは言い切れません。
(3) 会社の管理体制の不備は、影響しますか?
会社の情報管理の体制に不備があった場合、それは労働者に有利な事情として働くことがあります。
情報漏えいは、本来、一人の担当者の注意力だけに頼るのではなく、複数人でのチェックや、アクセス権限の設定、記録(ログ)の保存といった仕組みで防ぐべきものです。
経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が公表している「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」(第4.0版・2026年〈令和8年〉3月公表)でも、経営者が果たすべき役割として、こうした組織的・技術的な対策を講じることが求められています。
こうした対策を会社が怠っていたのであれば、「ミスが起きたのは個人の責任だけではない」という主張につながり得ます。
とくに人員が限られる中小企業では、情報システムの担当を一人に任せきりにし、ミスに気づける仕組みがない、というケースも見受けられます。ものづくりや医療・福祉など、重要な情報を扱う事業者が多い神戸・兵庫の地域でも、同じ悩みは少なくありません。
また、長時間労働による疲れが、ミスの背景にあることもあります。こうした事情は、「過失の程度」を評価するうえで、労働者に有利に考慮される余地があります。
【具体例】たとえば、一人で社内システムの管理を任されていたAさんが、深夜までの残業が続く中で、クラウドの公開設定を誤り、顧客情報が一時的に閲覧できる状態になってしまった、というケースを考えてみましょう。このような場合、Aさん個人の不注意だけでなく、二重チェックの仕組みがなかったことや、過重な労働環境も、あわせて評価されると考えられます。
4 退職を迫られたときの注意点
(1) 「自分から辞めた方がいい」と言われたら、応じるべきですか?
退職勧奨に応じる義務は、労働者にはありません。
退職勧奨とは、会社が労働者に対して、自主的に退職するよう促すことをいいます。あくまで「お願い」であり、労働者がこれを断ることは自由です。
実際のご相談でも、「会社に与えた損失は大きい」「昨今は情報管理の社会的責任が重い」といった説明を受け、心理的に追い込まれて退職を考えてしまう、という場面が少なくありません。
しかし、追い込まれて辞めてしまう前に、いったん立ち止まっていただきたいのです。
(2) 退職届は、出してしまってよいですか?
退職届は、安易に出さないでください。これは、とくに強くお伝えしたい点です。
なぜなら、いったん「辞めます」という意思表示をしてしまうと、後からそれを争うことが、非常に難しくなるからです。
退職の意思表示を、錯誤(勘違い)や強迫を理由に取り消せる余地が、まったくないわけではありません。ただ、実務上、それが認められるのは極めて限られた場合で、いったん出したものを覆すのは容易ではありません。
これに対して、まだ辞めていない段階であれば、会社と交渉したり、退職勧奨を断り続けたりすることで、雇用を維持できたり、より納得のいく形で解決できたりする可能性が残ります。
(3) 会社の事情聴取では、何に気をつければよいですか?
事情を聴かれる場では、責任を感じるあまり、必要以上に自分に不利なことを話してしまわないよう、注意が必要です。
もちろん、事実を正直に話すことは大切です。ただ、動揺した状態で「すべて自分が悪い」と述べたり、内容をよく確認しないまま書面にサインしたりすると、後の交渉で不利になることがあります。
不安があるときは、事情聴取を受ける前に、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。呼び出しを受けた場では、その場で退職を促されることも少なくないためです。
5 解雇や退職勧奨に納得できないときにできること
(1) 解雇は無効だと、争うことはできますか?
解雇に納得できない場合は、その解雇が無効であると主張して争うことができます。
具体的には、「今も従業員としての地位がある」ことの確認(地位確認)と、解雇後に支払われなかった賃金(バックペイ)の支払いを求めていくのが基本です。
手続としては、労働審判と、通常の裁判(訴訟)があります。争点が複雑で、じっくり主張立証が必要な場合は訴訟を、早期の解決を望まれる場合や、公開の法廷を避けたい場合は労働審判を、というように、事案とご本人の希望に応じて選びます。
情報漏えいの事案は、技術的な内容が絡み、争点が複雑になりやすいため、どの手続がよいかは慎重な見極めが必要です。
なお、ご相談の現場では、必ずしも元の職場への復帰を望まれる方ばかりではありません。「不本意な辞めさせられ方には納得できない」として、金銭による解決を望まれる方も多くいらっしゃいます。
解決金の水準は事案によって大きく異なります。ただ、たとえば解雇が無効となれば、給与に相当する額が請求の対象になり得る、といった「考え方」はご説明できます。
(2) 情報漏えいで生じた損害は、全額を弁償しなければなりませんか?
労働者が会社に負う賠償責任は、必ずしも全額とは限らず、一定の範囲に制限されることがあります。
最高裁判所は、労働者のミスによって会社に損害が生じた場合でも、会社が労働者に求められる賠償の範囲は、信義則上、相当と認められる限度に制限される、という考え方を示しています(茨城石炭商事事件・最高裁昭和51年〈1976年〉7月8日判決)。
その背景には、「会社は、労働者に仕事をさせることで利益を上げている以上、その過程で生じた損害も、一定は会社が引き受けるべきだ」という、損害の公平な分担の考え方があります。
ですから、「情報を漏らしたのだから、損害を全額弁償しなければならない」と過度に恐れる必要はありません。もっとも、制限の程度は事案によって異なります。
(3) 争っている間に、別の会社で働いてもよいですか?
生活のために、別の会社で働き始めていただいて構いません。
解雇を争っている間に得た収入(中間収入)は、後に支払われるバックペイから、一定の範囲で差し引かれることがあります。ただし、最高裁判所は、平均賃金の6割にあたる部分までは控除できない、としています(米極東空軍山田部隊事件・最高裁昭和37年〈1962年〉7月20日判決)。
生活の安定は何より大切ですから、再就職はためらわず、早めに検討していただくのがよいと考えます。中間収入のことを気にしすぎて、生活を犠牲にする必要はありません。
6 情報漏えいで辞めさせられそうなときは、弁護士にご相談ください
過失による情報漏えいを理由に、解雇や退職勧奨を受けたときは、一人で抱え込まず、早い段階で弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
できれば、会社から事情聴取に呼び出された段階でのご相談が望ましいです。その場で退職を促されることが、少なくないためです。
情報漏えいの事案は、技術的な内容と法律問題が入り組んでいます。何が起きたのか、ご本人にどこまで落ち度があったのかを、丁寧に整理して会社に伝えなければ、議論がかみ合わないまま平行線になってしまうこともあります。
弁護士法人みおには、情報セキュリティに関する国家資格(登録情報セキュリティスペシャリスト)を持つ弁護士が在籍しており、技術と法律の両面から、事案の整理をお手伝いすることができます。
とくに、中小企業で情報システムやITを担当していらっしゃる方、重要な情報を扱う管理職の方は、一つのミスが重い責任を問われかねません。心当たりのある方は、早めにご相談ください。
弁護士法人みおは神戸にも相談の窓口があります。
退職届を出す前、そして「辞めます」と口にする前に、まずはお気軽にご相談ください。ご自身の行いが本当に退職や解雇に値するのか、中立的な立場から見通しをお伝えします。
<Q&Aまとめ>
Q1.うっかりの情報漏えいでも、すぐに解雇されてしまいますか?
A1.いいえ、ただちに解雇が認められるとは限りません。解雇には合理的な理由と社会通念上の相当性が必要で(労働契約法第16条)、ミスの程度や会社の管理体制などを総合して判断されます。
Q2.わざとではない情報漏えいは、犯罪になりますか?
A2.原則として犯罪にはなりません。営業秘密侵害罪などは「わざと(故意)」の悪質な意図を前提としているため、純粋な過失には基本的に当たりません。
Q3.会社から退職を勧められたら、応じなければいけませんか?
A3.応じる義務はありません。退職勧奨はあくまで会社からのお願いであり、断るのは自由です。追い込まれても、その場で辞めると答える必要はありません。
Q4.退職届は出してもよいですか?
A4.安易に出さないでください。いったん退職の意思表示をすると、後から争うことが非常に難しくなります。まず弁護士にご相談ください。
Q5.情報漏えいの損害は、全額を弁償しなければなりませんか?
A5.必ずしも全額とは限りません。最高裁は、労働者が負う賠償責任は信義則上、相当な範囲に制限され得るとしています(茨城石炭商事事件)。
Q6.解雇を争っている間に、別の会社で働いてもよいですか?
A6.働いて構いません。得た収入の一部はバックペイから差し引かれることがありますが、平均賃金の6割にあたる部分までは控除されません。生活のため、再就職は早めに検討してよいと考えられます。





