弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2026.07.29
会社・法人破産

先代から引き継いだ会社の経営に限界を感じたら?破産のススメ(1/2)

目次

弁護士 石田 優一

<このコラムでお伝えしたいこと>

先代から引き継いだ会社の経営が行き詰まったときの、会社(法人)の破産手続をご説明します。会社の破産と社長個人の破産は、別の手続です。会社に財産が残っている段階でご相談いただくほど、従業員や取引先への影響を小さく抑えられます。

1 はしがき

「先代から引き継いだ会社を、自分の代でつぶすわけにはいかない。」

そうしたお気持ちを抱えて、ぎりぎりまで一人で踏みとどまっていらっしゃる2代目の社長様は、少なくありません。

兵庫県内でも、物価の上昇や人手の確保に苦しむ中小企業の話題が続いています。とくに、値上げを価格に転嫁しにくい小売業や卸売業では、厳しい思いを抱える企業様が多数あります。

会社の破産は、経営者としての失敗の証しではありません。会社をどのように終わらせるかを決めることも、経営の判断の一つです。

このコラムでは、会社(法人)の破産手続について、2代目の社長が実際に気になる点を中心にご説明します。社長ご自身の破産は、次回の「経営者個人の破産編」でお伝えします。

2 会社の破産と、社長個人の破産は別の手続です

(1) 会社の破産とは、どのような手続ですか?

会社の破産とは、裁判所が選んだ破産管財人が会社の財産をお金に換え、債権者に公平に配ったうえで、会社を消滅させる手続です。

破産手続開始の決定があると、会社の財産を管理し処分する権利は、破産管財人に移ります(破産法78条1項)。ですから、決定の後は、社長が会社の財産を動かすことはできません。

(2) 会社が破産すると、社長個人も必ず破産することになるのですか?

いいえ。会社と社長個人は、法律上は別の人格です。ですから、会社の破産手続の中で、社長個人の借金が整理されることはありません。

もっとも、社長が会社の融資について連帯保証していれば、その保証債務は残ります。

ですから、実務では、会社の破産と社長個人の破産を並行して進めることが多いです。社長ご自身の手続については、次回のコラムで詳しくご説明します。

(3) 会社の破産と個人の破産は、何がどう違うのですか?

会社の破産と、社長個人の破産の主な違いは、次の表のとおりです。

項目 会社(法人)の破産 社長個人の破産
手続の目的 財産を換価して債権者に配り、会社を消滅させる 財産を清算し、残った債務の支払義務を免除してもらう
免責のしくみ 免責の制度はない(会社そのものがなくなる) 免責許可の決定を受ける(破産法252条1項)
手元に残る財産 残らない(すべて破産財団になる) 99万円以下の金銭などが残る(破産法34条3項1号)
連帯保証した借入 会社の手続では消えない ご本人の手続の中で扱う
申立てをする人 取締役(破産法19条1項2号) ご本人

まずは、会社の債務のうち、どれをご自身が連帯保証しているかを確認しておくことが望ましいです。金融機関との契約書や、保証に関する書面を集めておいてください。

3 会社の破産は、実際にどのように進むのですか

(1) どこに申し立てるのですか?

破産の申立ては、一般的には、会社の主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所に行います。

例えば、神戸市の中央区・東灘区・灘区・兵庫区・長田区・須磨区・垂水区・北区や、三木市・三田市の場合、神戸地方裁判所本庁です。明石市と神戸市西区の場合、神戸地方裁判所明石支部が申立先です。

(2) 申立てから終わるまで、どのくらいかかりますか?

期間は、会社の財産の内容によって大きく変わります。ですから、一律に何か月とは申し上げられません。

破産手続開始の決定が出ると、破産管財人が財産の調査と換価を進めます。売掛金の回収、在庫や機械の売却、不動産の処分などが終わるまで、債権者集会が何度か開かれることもあります。

(3) 会社にお金がなくても申し立てられますか?

破産の申立てをするときは、裁判所が定める額の費用を予納しなければなりません。金額は、会社の規模、債権者の数、財産の内容などによって変わります。

会社の現金が少ない場合、売掛金を回収し、在庫を売却して、辛うじて申立ての費用を工面することはあります。ただ、こうした進め方は、費用が足りるかどうか分からないまま準備を始めることになりますので、望ましい形とはいえません。できれば、会社にまだ資金の余裕がある段階で、ご相談いただきたいです。

なお、債権者である金融機関の口座は、通常は凍結されます。そのため、申立ての費用は、あらかじめ引き出して、弁護士の預かり口座にお預けいただくことが通常です。

(4) 明渡しが済んでいない事務所や工場があるとどうなりますか?

賃借している事務所・工場・店舗の明渡しが済んでいないと、予納金が高くなる取扱いがされています。残っている物の処理を破産管財人が引き継ぐことになるためです。

多少の費用をかけてでも、残置物をなくして早く明渡しを済ませるほうが、全体の負担は軽くなることが多いです。ですから、明渡しの段取りは早い段階で決めておくことが望ましいです。

4 従業員と取引先のために、まずできること

会社の破産で社長がもっとも心を痛めるのは、従業員と取引先のことです。ここでは、法律上守られている部分と、社長にお願いしたいことを整理します。

(1) 従業員の給料や退職金はどうなりますか?

まず、法律上守られている部分があります。破産手続開始前3か月間の給料の請求権は、財団債権とされています。財団債権とは、破産債権よりも先に支払われる債権です。

退職手当についても、退職前3か月間の給料の総額に相当する額が財団債権とされています。

それでも支払いきれない部分については、未払賃金立替払制度があります。厚生労働省の「未払賃金の立替払制度に関するQ&A」によれば、立替払の額は未払賃金総額の8割です。あわせて、退職日の年齢に応じた上限が設けられています。

ただ、この制度は、すぐにお金が届くものではありません。破産管財人の証明が必要なため、かなりの期間を要します。実際のご相談でも、「まだもらえないのですか」というお声をいただくことは少なくありません。

ですから、従業員の方には、はじめのご説明の段階で、時間がかかることをお伝えしておくことが望ましいです。

なお、立替払の対象は労働者です。ですから、社長ご自身の役員報酬は、原則として対象になりません。

(2) 従業員には、いつ、どのように伝えればよいですか?

多くの社長は、「まず従業員に話したい」とおっしゃいます。そのお気持ちは自然なものです。

ただ、うわさが先に広がると、一部の債権者が会社に押しかけるなど、混乱が生じることがあります。ですから、申立ての準備が整うまでは、従業員にもお伝えにならないようお願いしています。

従業員の方からのご質問で多いのは、雇用保険に関するご質問です。離職票はいつもらえるのか、雇用保険はいつから使えるのか、健康保険はどうなるのか、といったご質問が集まります。

従業員への説明の場では、社長から真摯に謝罪のお言葉を述べていただくようお願いしています。何よりも、お気持ちを丁寧にお伝えすることが大切です。

(3) 取引先には、先に事情を伝えたほうがよいですか?

先代の代から続く取引先には、一言お伝えしたいと考える社長が大変多いです。

ただ、取引先への事前のお知らせも、うわさが広がるきっかけになります。ですから、こちらもお控えいただくようお願いしています。

(4) 「この取引先だけは払いたい」というお気持ちは、どう考えればよいですか?

長く支えてくれた取引先にだけは払いたい、というご相談はよくあります。ただ、この点は慎重にお考えいただく必要があります。

支払不能になった後に特定の債権者だけに支払うと、その支払いは破産管財人によって否認されることがあります。否認されると、受け取った側がお金を返さなければなりません。

つまり、大切な取引先を守るつもりの支払いが、かえってその取引先にご迷惑をおかけする結果になりかねません。ですから、支払いの順番は、動かれる前にご相談いただくことをおすすめします。

(5) リース物件や在庫はどうすればよいですか?

リースの機械や車両など、返さなければならない物は、ご相談の早い段階でうかがいます。そのうえで、早めに返還できるよう準備を進めます。

事業や設備を他社に引き継ぐ形を検討することもあります。ご相談の中には、従業員の雇用を知り合いの会社に事実上引き継げたケースもありました。

もっとも、事業を譲る場合には、価格の決め方に注意が必要です。安すぎる金額で譲ったと指摘されないよう、公認会計士の意見などを参考にして金額を決める必要があります。

5 早めにご相談いただくと、整えられることがあります

ここまで、手続の流れと、従業員・取引先への向き合い方をご説明しました。ここからは、ご相談の時期によって何が変わるかをお伝えします。

(1) 早くご相談いただくと、何が変わるのですか?

会社に財産が残っている段階でお引き受けできると、進め方の幅が広がります。

これまでお受けしたご相談でも、早い段階でご依頼いただいた例がありました。そのケースでは、従業員への給与や退職金の支払いまで済ませ、混乱を小さく抑えて準備を進められました。

他方、リスケジュール(返済条件の見直し)を断られた、主要な取引先との契約が終わった、という段階でお越しになるケースも多いです。その段階になると、申立ての費用の工面から苦労することになります。

ですから、「最近経営が厳しいが、破産すべきか、まだ続けるべきか・・・」と迷っていらっしゃる段階でのご相談をおすすめします。

(2) 先代の代の帳簿が分からなくても大丈夫ですか?

2代目の社長が、先代の代の経理の実態を十分に把握できていないことは、よくあります。なぜ借入をしたのか、その理由が分からないというご相談も珍しくありません。

その場合は、分からないことは分からないと正直に破産管財人に説明したうえで、残っている資料から分かる事情をつなぎ合わせて説明するケースが多いです。

(3) 会社と個人のお金が混ざっている場合はどうなりますか?

中小企業では、会社と個人のお金の出入りが混ざっていることは珍しくありません。会社の本社や工場の土地建物が、先代や社長ご自身の個人名義になっていることもあります。

こうした事情も、破産管財人に丁寧にご説明することで、円満に処理できるケースが多いです。

ただ、準備を始める直前に不審な資金の動きがあると、その点のご説明に大きな労力をかけていただくことになります。直前に親族や知人へ返済していた場合も同じです。

ですから、破産をお考えになった段階で早めにご相談いただき、「してはならないこと」を正確に押さえておくことが大切です。

(4) 社長ご自身の生活はどうすればよいですか?

役員報酬が止まった後の生活も、大きな心配ごとです。

準備に専念しようとされる方も多いですが、まずは就職先を見つけて生活をつなぐことを優先していただくようお伝えしています。

経営者として培ってこられたノウハウを活かして、就職先を見つけられる方は多くいらっしゃいます。

ご家族にどう伝えるかを迷われる方もいらっしゃいます。ただ、破産は経営者として必要な判断です。ですから、ためらわずにご家族にもお伝えいただくようお願いしています。

6 破産の後にも道はあります

最後に、お伝えしておきたいことがあります。会社の破産は、経営者としての将来を閉ざすものではありません。

(1) 破産をすると、もう会社の役員にはなれないのですか?

破産をしたことだけを理由に、取締役になれなくなるわけではありません。

実際のご相談でも、経営者として積み重ねてこられた経験を評価されて、新たな場で働き始められた方は多くいらっしゃいます。

(2) 弁護士法人みおでは、どのようなサポートができますか?

弁護士法人みおでは、会社の破産について、次のようなサポートを行っています。申立ての時期と費用の見通しの整理、従業員へのご説明の場での対応が挙げられます。また、リース物件や賃借物件の明渡しの段取り、破産管財人への引継ぎと説明の補助も行います。

もっとも、会社の状況によって、とるべき手続は異なります。ですから、破産だけを前提にせず、まずは現在の状況をおうかがいしたうえで、適切な進め方をご提案します。

神戸市内はもちろん、近隣の地域からもご相談をお受けしています。

先代から引き継いだ会社のことで迷っていらっしゃるなら、どうぞお気軽にご相談ください。早い段階でお話をうかがえれば、それだけ選べる道は広がります。

次回は、「経営者個人の破産編」として、社長ご自身の破産と免責についてご説明します。

<Q&Aまとめ>

Q1.会社が破産すると、社長個人も破産することになりますか?

A1.いいえ。会社と社長個人は別の人格ですので、自動的に個人の破産になるわけではありません。ただし、会社の借入を連帯保証していれば、その保証債務は残ります(民法446条1項)。

Q2.会社の破産は、どこに申し立てるのですか?

A2.会社の主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所です(破産法5条1項)。神戸市の中心部や三木市・三田市にある会社は、神戸地方裁判所の本庁が提出先です。明石市と神戸市西区にある会社は明石支部とされています。

Q3.会社にお金がなくても、破産の申立てはできますか?

A3.裁判所が定める額の費用を予納する必要があります。会社に残っている財産から用意するのが基本ですので、財産が残っている段階でのご相談をおすすめします。

Q4.従業員の給料は、どこまで支払われますか?

A4.破産手続開始前3か月間の給料は財団債権として優先されます(破産法149条1項)。足りない部分は、未払賃金立替払制度により未払額の8割が原則支払われます。ただし、退職日の年齢に応じた上限があります。

Q5.未払賃金立替払制度のお金は、すぐに受け取れますか?

A5.すぐには受け取れません。破産管財人の証明が必要ですので、相当の期間がかかります。従業員の方には、あらかじめその点をお伝えすることが望ましいです。

Q6.従業員には、いつ伝えればよいですか?

A6.申立ての準備が整うまではお控えいただくようお願いしています。準備が整った段階で、弁護士からご説明する形をとることが多いです。なお、解雇には30日前の予告か、30日分以上の平均賃金の支払いが必要です。

Q7.お世話になった取引先にだけ支払ってもよいですか?

A7.おすすめできません。支払不能になった後の特定の債権者への支払いは否認され、受け取った側が返還を求められることがあります。

Q8.先代の代の帳簿や借入の理由が分からなくても、破産できますか?

A8.できます。分からない点は分からないまま、残っている資料をもとに破産管財人へ誠実にご説明いただければ足りるケースが多いです。

Q9.会社と個人のお金が混ざっていても大丈夫ですか?

A9.中小企業では珍しくありません。破産管財人に丁寧にご説明することで、円満に処理できるケースが多いです。ただし、直前の不審な資金移動や親族への返済があると、ご説明に大きな労力を要します。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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