弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2026.08.03
交通事故の問題

交通事故で顔に傷が残ったら?保険会社との交渉の進め方

目次

弁護士 石田 優一

<このコラムでお伝えしたいこと>

交通事故で顔や首、腕などに傷跡が残ったときの後遺障害等級と賠償について解説します。等級が認定されても、逸失利益が争われやすいのがこの分野の特徴です。早い段階で弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

1 はしがき

交通事故で怖いのは、命にかかわる被害だけではありません。命は助かったものの、顔や首に傷跡が残ってしまうことがあります。こうした傷跡は「醜状障害」(人目につく傷跡が残った後遺障害)と呼ばれ、賠償の対象になることがあります。

もっとも、相談の現場では「そもそも傷跡は賠償の対象になるのですか」というご質問を最初にいただくことがよくあります。

このコラムでは、交通事故で傷跡が残った方に向けて、後遺障害等級の仕組みと、逸失利益(事故がなければ将来得られたはずの収入)が争いになりやすい理由をご説明します。

2 醜状障害とは何ですか?

(1) 醜状障害とはどのような後遺障害ですか?

醜状障害とは、交通事故によるけがや手術の跡が治りきらず、人目につく傷跡として身体に残った後遺障害のことです。

法律上は「外貌」と「露出面」に分けて考えます。外貌とは、頭部・顔面部・頸部など、腕と脚を除いた日常的に露出する部分です。露出面とは、腕や脚のうち日常的に見える部分をいいます。

大切なのは、傷跡そのものによって身体の動きや感覚が悪くなるわけではない、という点です。骨折の後遺症やむち打ちとは、この点が大きく異なります。そして、この違いが逸失利益の争いにつながります。

(2) どのような場合に後遺障害の等級が認定されますか?

自動車損害賠償保障法施行令の別表第二では、傷跡の程度に応じて等級が定められています。認定の考え方は、自賠責の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)に示されています。同基準は、原則として労災保険の障害等級認定の基準に準じて行うと定めています。

醜状障害で問題になる等級は、次の表のとおりです。

等級 傷跡の程度 労働能力喪失率 自賠責の後遺障害慰謝料
7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの 56% 419万円
9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの 35% 249万円
12級14号 外貌に醜状を残すもの 14% 94万円
14級4号・5号 上肢・下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 5% 32万円

労働能力喪失率と慰謝料の額は、いずれもこの支払基準によります。慰謝料の額は、令和2年(2020年)4月1日以降に発生した事故に適用されるものです。

傷跡の大きさは、厚生労働省の障害等級認定基準(昭和50年9月30日付け基発第565号)に細かな定めがあります。頭部の手のひら大、顔面部の鶏卵大といった表現が用いられ、しかも「人目につく程度」であることが求められます。

もっとも、この基準をご本人が当てはめるのは簡単ではありません。実際のご相談でも、大きさの要件と人目につく程度の要件のいずれについても、判断が難しいというお声をうかがいます。そこで弁護士法人みおでは、労災の認定基準を踏まえた見立てをお示ししています。認定される可能性がまずないケース、可能性があるケース、可能性が高いケースの三段階でご説明します。

(3) 傷跡の後遺障害に男女の差はありますか?

現在は、男女で異なる基準が用いられることはありません。

かつては、同じ傷跡でも男性と女性とで5等級もの差が設けられていました。しかし、京都地方裁判所平成22年5月27日判決は、この男女差が憲法第14条第1項に違反すると判断しました。国が控訴しなかったため、判決は確定しています。

これを受けて、厚生労働省に「外ぼう障害に係る障害等級の見直しに関する専門検討会」が設置されました。同検討会は平成22年(2010年)11月の報告書で、男女差を残すべき事情は認められないと結論づけています。この見直しにより、平成22年6月10日以降に発生した事故は、性別にかかわらず同じ基準で判断されます。

3 後遺障害の認定を確実に受けるには何が必要ですか?

(1) 後遺障害診断書で気をつけることは何ですか?

最も大切なのは、傷跡が正確に記録されることです。

醜状障害の認定は、傷跡の部位・大きさ・形状という客観的な事実で決まります。ところが、これまでお受けしたご相談の中には、主治医が傷跡を見落とした例や、大きさを正確に測っていただけなかった例もありました。その結果、不利な判断につながることがあります。

ですから、認定が微妙なケースでは、どの傷跡をどのように測っていただきたいかを整理してお伝えします。そのうえで、依頼者から主治医にお願いしていただきます。要件をご本人が理解して受診なさることが、正確な記載につながります。

(2) 面接調査ではどのようなことに注意すればよいですか?

醜状障害では、書面の審査だけでなく、実際に傷跡を確認する面接調査が行われることがあります。

この場でご自身の傷跡について正確にお伝えできないと、傷跡が見落とされてしまうことがあります。ご相談をお受けする際にも、この点は必ずお伝えするようにしています。どこに、どのような傷跡があるのかを、落ち着いて丁寧にご説明ください。

(3) 弁護士にはいつ相談すればよいですか?

後遺障害診断書ができあがる前にご相談いただくことをおすすめします。

なぜなら、一度作成された後遺障害診断書は、基本的に書き直していただけないからです。診断書ができてからでは、打てる手が限られてしまいます。

【具体例】明石市にお住まいのAさんが、事故で頬に傷跡を負い、症状固定の直前にご相談にいらっしゃったとします。この段階なら、主治医に診ていただきたい点を整理してお伝えする余地が残ります。診断書ができあがった後では、同じ対応は難しくなると考えられます。

4 なぜ逸失利益が争いになるのですか?

(1) 自賠責で等級が認定されたのに、逸失利益がないと言われるのはなぜですか?

自賠責保険と、加害者側に対する損害賠償請求とで、計算の仕組みが違うからです。

自賠責の支払基準では、等級ごとに定められた労働能力喪失率を機械的に当てはめて計算します。12級なら14%、9級なら35%です。等級が認定されれば、この計算に従って支払われます。

しかし、これは自賠責という基本補償の中での計算方法にすぎません。加害者側への損害賠償請求では、実際に労働能力が失われたといえるかが個別に判断されます。傷跡は身体の機能を損なうものではないため、この段階で「仕事に影響はない」と反論されやすいのです。

(2) 裁判所はどのような考え方で判断していますか?

最高裁判所は、収入の減少がない場合には、原則として財産上の損害を認めない立場をとっています。最高裁昭和42年11月10日判決は、労働能力の喪失や減退があっても損害が発生しなかった場合には、それを理由とする賠償請求はできない、としました。

さらに、最高裁昭和56年12月22日判決は、より踏み込んだ判断を示しました。後遺症の程度が比較的軽く、職業の性質からみて現在も将来も収入の減少が認められない場合の判断です。このような場合には、特段の事情がない限り、財産上の損害を認める余地はない、としています。

ただし、同じ判決は「特段の事情」の例も挙げています。収入を維持するために特別の努力をしている場合と、昇給、昇任、転職などに際して不利益な取扱いを受けるおそれがある場合です。醜状障害で逸失利益を主張することは、実質的にはこの特段の事情を示す作業だといえます。

(3) 見た目の傷は労働能力の喪失にあたらないのですか?

先ほどの厚生労働省の専門検討会の報告書は、外貌の障害それ自体は稼得能力の直接の喪失をもたらすものではない、としています。他方で、就業の制限、職種の制限、失業といった不利益をもたらし、結果として稼得能力を低下させることは明らかである、とも明記しています。

こちらは、あくまでも労災の基準ではありますが、傷跡が働く力に影響するという判断を国が公にしている点は、被害者側の主張を支える材料になります。

5 逸失利益を認めてもらうために何ができますか?

(1) 何を立証すればよいのですか?

仕事にどのような影響が出ているかを、客観的に示すことが出発点です。

弁護士法人みおでは、まずご本人の陳述書を作成します。これまでのお仕事の内容と、傷跡がその仕事にどう影響しているのかを、人と接する場面の具体的なエピソードを交えて書き起こします。

ここで気をつけたいのは、ご本人がどう感じたかではなく、仕事にどう影響したかを中心に書くという点です。つらいお気持ちは当然のことですが、逸失利益は財産的な損害ですので、客観性が求められます。

陳述書以外の資料も重要です。配置転換があったのであれば、その記録を積極的に証拠として提出します。担当する業務の内容が労働条件通知書などで説明できる場合は、それも検討します。

なお、職業によって影響の大きさは異なります。ただ、どのようなお仕事でも、顔に傷跡が残ったショックが大きいことは共通しています。職業上の影響が特に大きいときは、その点を積極的に相手方へ説明します。

(2) 学生やお子さまの場合はどうなりますか?

まだ働いていらっしゃらない方でも、将来の逸失利益を主張する余地があります。

将来の就職や職業選択の幅が狭められることや、就職活動で具体的な不利益が生じるおそれがあることが、検討の対象になります。

当事務所でご相談を承った事例でも、お子さまの傷跡について、お母様が将来を強く心配していらっしゃるものがありました。こうした場合には、まずは醜状障害としての認定を確実に受けられるよう全力を尽くしましょう、とお伝えしています。

(3) 逸失利益が認められないと、何も受け取れないのですか?

そのようなことはありません。後遺障害慰謝料の中で考慮される余地があります。

傷跡が残ることによる精神的な苦痛は大きく、人と接する場面にも影響します。逸失利益が否定される場合であっても、こうした事情が慰謝料の増額事由として考慮される傾向があります。

ただし、どの程度考慮されるかは事案によって異なります。ご相談者からは、等級が認定されても金額に納得できないというお声をいただくことが少なくありません。醜状障害には制度上の限界があるため、なぜそのような結果になるのかを丁寧にご説明することを心がけています。

6 弁護士のサポート

交通事故の醜状障害は、後遺障害の中でも特に見通しの立てにくい分野です。

保険会社から提示された金額に納得できないというご相談は、決して珍しくありません。代理人が就いていない段階での提示額は低いと感じる場面も少なくありません。もっとも、結果は事案によって異なります。必ず増額できるとお約束することはできません。

弁護士法人みおでは、傷跡が認定基準に当てはまるかどうかの見立てからお手伝いします。主治医にお伝えいただきたい点の整理や、面接調査に向けた準備のご説明もいたします。認定後は、陳述書の作成と資料の収集を進めます。相手方保険会社との交渉や、訴訟対応も承ります。

弁護士法人みおには、神戸市内のほか、明石・芦屋・西宮・三木・淡路島方面からもご相談にお越しいただいています。顔や首の傷跡のことでお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

<Q&Aまとめ>

Q1.醜状障害とは何ですか?

A1.けがや手術の跡が治りきらず、人目につく傷跡として残った後遺障害です。頭部・顔面部・頸部の「外貌」と、腕や脚の「露出面」とに分けて判断されます。

Q2.顔の傷跡は後遺障害何級になりますか?

A2.自動車損害賠償保障法施行令の別表第二により、著しい醜状は7級12号、相当程度の醜状は9級16号、醜状を残すものは12級14号です。腕や脚の露出面は14級4号・5号です。

Q3.傷跡の後遺障害に男女差はありますか?

A3.ありません。京都地方裁判所平成22年5月27日判決を受けた見直しにより、平成22年6月10日以降の事故は性別にかかわらず同じ基準です。

Q4.顔の傷でも逸失利益は請求できますか?

A4.請求できますが、争いになりやすい分野です。傷跡は身体の機能を損なうものではないため、仕事への具体的な影響を示す必要があります。

Q5.逸失利益が認められない場合、慰謝料は増えますか?

A5.増額事由として考慮される傾向があります。ただし、どの程度考慮されるかは事案によって異なります。

Q6.弁護士にはいつ相談すればよいですか?

A6.後遺障害診断書ができあがる前をおすすめします。一度作成された診断書は、基本的に書き直していただけないためです。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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