弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2026.08.05
労働者のトラブル

令和8年の労災保険法改正でどう変わる?弁護士が解説

弁護士 石田 優一

<このコラムでお伝えしたいこと>

令和8年に成立した労災保険法などの改正により、令和9年4月から、夫が遺族年金を受けるための年齢の要件がなくなり、遺族が1人のときの年金額も175日分に統一されます。一部の病気については、請求の期限も2年から5年に延びます。

1 はしがき-労災保険が、より受け取りやすくなります

工場での作業中のけが、長時間労働が続いた末の体調の変化。働くうえで、こうした出来事はどなたにも起こり得ます。

労災保険は、そうしたときに治療費や休業中の収入を補い、万一のときにはご遺族の生活を支えるしくみです。

令和8年(2026年)7月17日に「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律」が公布され、多くの部分が令和9年(2027年)4月1日から施行されます。

このコラムでは、働くご本人とご遺族の立場から、特におさえておくべき3つの改正ポイントをご説明します。具体的には、夫の遺族年金の要件、遺族が1人のときの年金額、そして請求の期限(時効)です。

2 令和8年の改正で、労災保険はどう変わりますか

兵庫労働局が公表した「令和7年 労働災害発生状況」によれば、兵庫県内で令和7年(2025年)に休業4日以上の労災にあわれた方は5,262人でした。労災保険は、多くの方が現に利用していらっしゃる身近な制度です。

(1) 改正はいつから施行しますか?

原則として、令和9年4月1日からです。厚生労働省が公布と同じ日に出た通達でも、改正法は令和9年4月1日から施行するとされています。

(2) 具体的にどこが変わりますか?

このコラムで取り上げる3点について、改正の前後を並べると次の表のとおりです。

項目 令和9年3月31日まで 令和9年4月1日から
夫が遺族補償年金を受ける要件 妻の死亡の当時60歳以上であること(55歳以上60歳未満の夫は、当分の間、遺族とされるものの60歳まで支給停止) 年齢の要件はなくなる
遺族が1人のときの年金額 給付基礎日額の153日分(55歳以上または一定の障害の状態にある妻は175日分) 一律で給付基礎日額の175日分
療養・休業・葬祭・介護の給付の期限 権利を行使できるときから2年 政令で定める病気の場合は5年(それ以外は2年のまま)

3 夫も遺族補償年金を受け取れるようになります

(1) 遺族補償年金とは、どのような制度ですか?

遺族補償年金とは、業務が原因で労働者が亡くなったときに、その収入で生活していたご遺族に対して継続的に支給される年金です。

労災保険法(労働者災害補償保険法)は、受け取れる遺族を配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹と定めています。ただし、これまでは妻以外の遺族に年齢などの要件があり、夫は妻の死亡の当時60歳以上であることが必要とされていました。

なお、55歳以上60歳未満の夫も、当分の間の取扱いとして遺族に含められています。もっとも、実際に受け取れるのは60歳になってからです。この取扱いは「若年停止」と呼ばれています。

【具体例】仮に、工場での作業中の事故により亡くなった女性のAさんに、生計を同じくする47歳の夫Bさんがいらっしゃったとします。この場合、Bさんは60歳未満ですので、これまでのルールでは遺族補償年金の対象になりません。ほかに受け取れる遺族がいなければ、一時金を受け取ることになります。

(2) 改正後はどう変わりますか?

改正後は、年齢などの要件を課す対象が「配偶者以外の遺族」に改められます。夫は配偶者ですので、年齢の要件はなくなります。先ほどのBさんも、47歳のまま遺族補償年金を受け取れることになります。

また、55歳以上60歳未満の夫を対象としていた特例からも、夫が外されます。ですから、若年停止による支給の繰下げもなくなり、すぐに受け取れるようになります。

同じ趣旨の見直しは、船員保険法の遺族年金や、石綿による健康被害の救済に関する法律の特別遺族年金についても行われます。

4 遺族が1人のときの年金額はいくらになりますか

(1) 改正後の年金額はいくらになりますか?

改正後は、給付基礎日額の175日分に統一されます。労災保険法の別表が改められ、これまでの153日分という区分がなくなるためです。

給付基礎日額とは、おおまかにいえば、亡くなる直前3か月の賃金をもとに計算した1日あたりの賃金額です。

【具体例】仮に給付基礎日額が1万円だったとします。遺族が1人であれば、これまでは年153万円でしたが、改正後は年175万円となる計算です。毎年の支給額が増えることになります。

(2) これまでとの違いはどこにありますか?

これまでも、55歳以上の妻や一定の障害の状態にある妻は175日分とされていました。改正により、この水準が、年齢や性別にかかわらず広がります。

5 請求の期限が、2年から5年に延びる場合があります

(1) 労災の請求はいつまでにすればよいですか?

労災保険法は、給付の種類ごとに請求の期限(時効)を定めています。療養補償給付・休業補償給付・葬祭料・介護補償給付は、権利を行使できるときから2年です。障害補償給付と遺族補償給付は5年とされています。

数え始める時期(起算点)も、給付ごとに異なります。例えば休業補償給付は休業した日ごとに数え、遺族補償給付は労働者が亡くなった日の翌日から数えるものとして扱われています。

これまでお受けしたご相談でも、この違いは分かりにくいと感じられる方が多く、請求できる時期を時系列に並べてご説明するようにしています。

実際のご相談では、退院された直後など早い時期にお越しになる方が多い一方で、退職を機に労災の請求を決意される方もいらっしゃいます。休業の分は日ごとに期限が進みますので、早めにご確認いただくと安心です。

(2) どのような病気が5年になりますか?

改正後は、原則の2年を維持しつつ、労災に当たるかどうかを「その性質上、容易に判断することができない疾病」として政令で定めるものについて、期限が5年になります。労働基準法にも、同じ趣旨の規定が置かれます。

どの病気が政令で指定されるかは、今後定められる予定です。(今後の情報を待つ必要がありますが)長時間労働による脳や心臓の病気は、性質上、少なくとも対象になり得ます。

(3) 施行を待たずに、いまできることは何ですか?

第1に、会社への遠慮から請求を先延ばしにしないことです。ご相談の中には、労災保険を使うと会社に居づらくなるのではないか、と心配されるケースもあります。

労働基準法は、業務上のけがや病気の療養のために休業する期間とその後30日間は原則として解雇できないと定め、労働基準監督署に申告したことを理由とする不利益な取扱いも禁じています。まずは、法律がご本人を守るしくみになっている点をご確認いただければと思います。

第2に、手がかりになる記録を残しておくことです。ご遺族からのご相談では、なぜ亡くなったのかが分からない、というお話をうかがうことも少なくありません。ご家族が知っている断片をつなぎ合わせ、労働基準監督署の調査につなげていく作業が力になります。

相談の現場では、「帰りがいつも遅かった」「仕事のことをよく話していた」といったご家族の記憶が出発点になることがあります。これらを具体的な帰宅時刻として整理し直し、交通系ICカードの利用履歴などで裏づけられないかを検討します。

記録を集めることは、ご負担の大きい作業です。弁護士のサポートを受けながら、早い段階でご相談いただくことをおすすめします。

6 弁護士のサポート

労災の請求は、給付を受けるための手続にとどまりません。なぜ事故や病気が起きたのかを明らかにし、同じことを繰り返さないための一歩にもなります。ご家族を亡くされた複雑なお気持ちの中でも、前向きにご検討いただきたいと思います。

弁護士法人みおでは、請求書類の作成をサポートします。給付が認められなかった場合の審査請求についても、ご相談を承っています。

労災のことでお悩みの際は、ぜひ弁護士にご相談ください。ご本人やご家族が置かれた状況をうかがったうえで、取り得る方法をご提案します。

<Q&Aまとめ>

Q1.令和8年の労災保険法の改正は、いつから始まりますか?

A1.原則として令和9年4月1日からです。改正法は令和8年7月17日に公布されました。農林水産業の小規模な個人経営の事業への適用拡大だけは、公布の日から5年以内で政令が定める日からの施行です。

Q2.夫でも遺族補償年金を受け取れますか?

A2.令和9年4月1日からは、年齢にかかわらず受け取れるようになります。これまでは、妻の死亡の当時60歳以上であることが必要とされていました。

Q3.遺族が1人のとき、年金額はいくらになりますか?

A3.改正後は、一律で給付基礎日額の175日分です。これまでは153日分が原則で、55歳以上または一定の障害の状態にある妻だけが175日分とされていました。

Q4.労災の請求には期限がありますか?

A4.あります。療養・休業・葬祭・介護の給付は権利を行使できるときから2年、障害と遺族の給付は5年です。休業の分は休業した日ごとに数えますので、早めのご確認をおすすめします。

Q5.期限が5年になるのは、どのような病気ですか?

A5.労災に当たるかどうかを容易に判断できない病気として、政令で定められたものです。その内容は今後定められる予定です(令和8年8月時点)。

Q6.労災保険を使うと、会社から不利益な扱いを受けませんか?

A6.労働基準法は、療養のための休業期間とその後30日間の解雇を原則として禁じ、労働基準監督署への申告を理由とする不利益な取扱いも禁じています。ご不安があれば、弁護士にご相談ください。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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