弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2026.08.06
労働者のトラブル

労災保険を請求したい方へ|療養・休業・障害・遺族の給付を弁護士が解説

目次

弁護士 石田 優一

<このコラムでお伝えしたいこと>

労災保険の給付は、療養・休業・障害・遺族の4つが柱です。このコラムでは、けがや病気をされた労働者ご本人に向けて、何をどれだけ受けられるのか、請求の期限とつまずきやすい点をご説明します。

1 はしがき

製造業の事業者が多い兵庫県内でも、深刻な労災事件が度々報じられています。仕事中のけがや病気は、どの職場でも起こりえます。

「労災」という言葉自体は、ほとんどの方がご存じです。ただ、その中身までご存じの方は多くありません。実際のご相談でも、どの給付があるのかをまったくご存じないまま、いらっしゃるケースが少なくありません。

ですから、いざというときに何が受けられるのかを知っておくことが、生活を守るうえで役立ちます。このコラムでは、労災保険の給付の全体像を4つの柱に沿ってご紹介します。

2 労災保険にはどのような給付があるのですか?

(1) 労災保険とはどのような制度ですか?

労災保険(労働者災害補償保険)とは、仕事や通勤が原因のけが・病気・障害・死亡について、国が給付を行う制度です。

保険料は事業主が負担しますので、労働者側の負担はありません。パート・アルバイトの方も、原則として対象になります。

なお、仕事が原因の場合を「業務災害」、通勤が原因の場合を「通勤災害」といいます。通勤災害では給付の名称から「補償」の2文字が外れ、「療養給付」などと呼ばれます。

(2) 主な給付と請求の期限はどうなっていますか?

主な給付と請求の期限は、次の表のとおりです。期限(時効)は労災保険法42条1項が定めており、給付の種類によって2年と5年に分かれます。

給付の種類 主な内容 請求の期限(時効)
療養(補償)給付 治療費など。労災指定医療機関なら窓口負担なし 費用を支払った日の翌日から2年
休業(補償)給付 休業4日目から給付基礎日額の60%(別に特別支給金20%) 休業した日ごとにその翌日から2年
障害(補償)給付 第1級〜第7級は年金、第8級〜第14級は一時金 治ゆ(症状固定)の日の翌日から5年
遺族(補償)給付 ご遺族への年金、または一時金(給付基礎日額1,000日分) 亡くなられた日の翌日から5年
葬祭料(葬祭給付) 33万円+給付基礎日額30日分など 亡くなられた日の翌日から2年

このほか、療養が長引いたときの傷病(補償)年金や、重い障害が残った方の介護(補償)給付もあります。ご自身に関係する給付がないか、ひととおり確認しておくことが望ましいです。

3 治療費と休業中の生活費はどのように補償されますか?

(1) 療養(補償)給付では治療費はどうなりますか?

療養(補償)給付は、治療そのものを受けられる現物給付が原則です。労災指定医療機関で受診すれば、窓口で治療費を支払うことなく、治ゆ(症状固定)までの治療を受けられます。

もっとも、ここでつまずく方が多くいらっしゃいます。ご相談の中には、労災指定の病院やクリニックを探す必要があることをご存じなかった、というケースが少なくありません。

すでに指定外の医療機関で受診した場合も、あきらめる必要はありません。いったん立て替えて、後から現金で請求する方法があります。ですから、領収書は必ず保管しておいてください。

なお、仕事や通勤が原因のけが・病気は、健康保険ではなく労災保険で扱うのが原則です。受診の際には「仕事中のけがです」と伝えることをおすすめします。

(2) 休業(補償)給付はいくら受けられますか?

休業(補償)給付は、療養のために働けず、賃金を受けられない日について支給されます。金額は1日につき給付基礎日額の60%です。これに給付基礎日額の20%の休業特別支給金が加わり、合わせて約8割が補われます。

支給が始まるのは休業4日目からです。業務災害では、最初の3日間について、会社が労働基準法76条に基づく休業補償を行わなければなりません。

給付基礎日額は、原則として災害が起きた日の直前3か月間の賃金総額を暦日数で割った金額です。

【具体例】神戸市内の工場で働くAさんが、給付基礎日額1万円で休業したとします。この場合、1日あたり休業(補償)給付が6,000円、休業特別支給金が2,000円という計算になります。

労災保険の給付には所得税などが課されません。また、会社に責任がある場合には、4割部分を損害賠償として請求することができます。

(3) 療養が1年6か月を超えたときはどうなりますか?

療養の開始から1年6か月が経っても、治ゆに至らないことがあります。傷病等級(第1級〜第3級)に該当するときは、休業(補償)給付に代えて傷病(補償)年金が支給されます。金額は給付基礎日額の313日分から245日分です。この給付は労働基準監督署が職権で決定します。

4 後遺障害が残ったときはどうなりますか?

(1) 「治ゆ(症状固定)」とはどういう意味ですか?

治ゆ(症状固定)とは、これ以上治療を続けても症状の改善が期待できない状態のことです。必ずしも、症状がゼロになることではありません。

実際のご相談でも、「治っていないのに、なぜ治ゆなのか」というご質問をうかがうことが多くあります。そのようなご質問に対しては、回復の程度をグラフに描き、その線が横ばいになった時点が治ゆであることをご説明しています。

治ゆと判断されると、そこから先は障害(補償)給付の問題に移ります。治療の打ち切りを打診されたときは、その時点の症状を医師に正確に伝えておくことが大切です。

(2) 障害等級によって給付はどう変わりますか?

障害(補償)給付は、残った障害の程度に応じ、第1級から第14級までの障害等級で決まります。第1級から第7級は年金で給付基礎日額の313日分から131日分、第8級から第14級は一時金で503日分から56日分です。このほか、社会復帰促進等事業として障害特別支給金なども別に支給されます。

(3) 認定された等級に納得できないときはどうすればよいですか?

ご本人が想定していた等級と実際の認定が食い違うことは、決して珍しくありません。ご相談でも多くうかがうお悩みです。

決定に不服があるときは、労働者災害補償保険審査官に審査請求ができます。ただし、審査請求で判断が覆るハードルは低くありません。当事務所では、覆る可能性を検討したうえで、ご希望があれば積極的に取り組んでいます。

見通しを左右するのは医学的な資料です。カルテの記載は重要な資料になりますし、必要に応じて主治医の先生に意見を照会することもあります。なお、審査請求には期限がありますので、決定の通知が届いたら早めに内容を確認してください。

5 ご本人が亡くなった場合、ご家族はどのような給付を受けられますか?

(1) 遺族(補償)給付はどなたが受けられますか?

遺族(補償)給付は、亡くなられた方の収入で生計を維持していたご遺族に支給されます。対象は配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹で、受給の順位が決められています。年金を受ける資格のある方がいない場合には、給付基礎日額1,000日分の一時金が支給されます。

この点は令和9年(2027年)4月1日から見直されます。夫にだけ課されていた年齢などの要件が撤廃され、ご遺族が1人の場合の年金額も一律175日分になります。

もっとも、受給の範囲や順位の仕組みは複雑です。当事務所でも、ご遺族には1つずつ丁寧にご説明するよう心がけています。

(2) 葬祭料(葬祭給付)はいくら受けられますか?

葬祭料(葬祭給付)は、葬儀を行った方に支給されます。金額は33万円に給付基礎日額の30日分を加えた額です。それが60日分に満たないときは60日分が支給されます。厚生労働省のWebサイトでも、この金額が案内されています。

定額部分は、令和8年(2026年)4月1日から31万5,000円から引き上げられました。請求の期限は、亡くなられた日の翌日から2年です。弁護士にご相談されていない場合には、この給付に気づかないまま請求が遅れることがあるかもしれません。労災問題については、できる限り弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

(3) 会社に迷惑がかかるのではないかと心配なときは、どう考えればよいですか?

ご遺族からのご相談では、会社との関係を気にされて請求をためらわれるケースが多くあります。会社に迷惑をかけてしまうのではないか、というご心配です。

この点、労災保険は国の制度であり、給付そのものが直接に会社の負担となるものではありません。また、労働者を雇用する以上、労災の手続に対応することは、会社として当然に受け入れるべきことです。ですから、これからの生活を守るために、請求を前向きにお考えいただきたいです。

6 請求のときに気をつけたいことは何ですか?

(1) 会社が手続に協力してくれないときはどうすればよいですか?

労災保険の請求は、会社ではなく、被災された労働者ご本人やご遺族が行うものです。請求書には事業主の証明欄がありますが、会社が証明に応じないときも請求はできます。

これまでお受けしたご相談でも、会社が証明に応じない場面はありました。そのようなときは、弁護士から会社に連絡することを検討します。実務上は、弁護士から警告すれば応じる会社が多い印象です。それでも応じない場合には、労働基準監督署に相談することになります。

請求先は、勤務先の事業場を管轄する労働基準監督署です。神戸市内の事業場であれば、神戸東労働基準監督署または神戸西労働基準監督署が窓口になることが多いです。ただし区によって管轄が分かれますので、正確な管轄は兵庫労働局のWebサイトでご確認ください。

(2) 休業している間に解雇されることはありませんか?

労働基準法19条は、業務上のけがや病気の療養のために休業する期間と、その後30日間の解雇を禁じています。ですから、休業中の解雇は原則として認められません。ただし、打切補償が支払われた場合など、法律上の例外もあります。

他方、退職を勧められるといった対応は、弁護士が関与していなければ起こりえます。当事務所では、お引き受けしている案件でそのような動きがあれば、退職を勧めないよう会社に警告しています。

(3) 労災保険で足りない部分は請求できますか?

労災保険は、けがや病気による損害のすべてを補うものではありません。慰謝料は支給されませんし、休業についても給付されない4割部分が残ります。

会社に安全配慮義務違反などの責任があれば、この不足部分を損害賠償として請求できることがあります。当事務所では、まず労災保険の請求を進めます。そのうえで会社に対しては、社会保険料の労働者負担分の請求と損害賠償請求権との相殺を主張する進め方を基本としています。相殺については、特に反論せず受け入れる会社が多い印象です。

一般に、会社から指示されるままに手続を進め、損害賠償をあきらめていらっしゃる方が多数いらっしゃると思います。時効を迎えて「時すでに遅し」とならないように、早期に弁護士にご相談いただくことが望ましいです。

7 弁護士のサポート

ここまで、労災保険の4つの柱と請求の注意点をご紹介しました。もっとも、労災保険は制度が複雑で、一般の方が手続を円滑に進めるにはハードルがあります。ご相談でも、その大変さを感じていらっしゃる方が多くあります。

弁護士にご依頼いただければ、受けられる給付の検討から、会社への対応、損害賠償請求までを一貫してお任せいただけます。障害等級の認定に向けて医学的な資料を整えることも、あわせてサポートします。

弁護士法人みおでは、労働災害に関するご相談をお受けしています。仕事中のけがや病気で不安を抱えていらっしゃるときは、まずはお気軽にご相談ください。

<Q&Aまとめ>

Q1.労災保険では、どのような給付を受けられますか?

A1.主な給付は、療養(補償)給付・休業(補償)給付・障害(補償)給付・遺族(補償)給付の4つです。このほか、傷病(補償)年金、介護(補償)給付、葬祭料(葬祭給付)もあります。

Q2.労災で休業した場合、いくら受け取れますか?

A2.休業4日目から、1日につき給付基礎日額の60%が支給されます。これに20%の休業特別支給金が加わり、合わせて約8割です。業務災害では、最初の3日間は会社が労働基準法76条の休業補償を行います。

Q3.労災指定でない病院にかかってしまいました。治療費は戻りますか?

A3.いったん立て替えたうえで、後から現金で請求できる場合があります。領収書は保管しておいてください。

Q4.「治ゆ(症状固定)」といわれましたが、症状は残っています。どうなりますか?

A4.治ゆとは、これ以上治療を続けても改善が期待できない状態のことです。残った症状については、障害等級の認定を受けて障害(補償)給付を請求することになります。

Q5.労災保険の請求に期限はありますか?

A5.あります。療養・休業・葬祭料などは2年、障害・遺族の給付は5年です(労災保険法42条1項)。起算点は給付ごとに異なり、障害(補償)給付は治ゆの日の翌日から数えます。

Q6.会社が労災の手続に協力してくれません。どうすればよいですか?

A6.請求はご本人が行うものですので、会社の証明が得られなくても請求はできます。弁護士から会社に連絡することで対応が変わることも多く、それでも応じない場合は労働基準監督署に相談する方法があります。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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