フリーランスとの契約トラブル|発注者側の対応を弁護士が解説
- <このコラムでお伝えしたいこと>
- 1 はしがき
- 2 フリーランスとのトラブルで、発注者は何を請求できますか?
- (1) 発注者が取れる手段には何がありますか?
- (2) フリーランス法とは何ですか?
- 3 納品されない、出来が悪いときはどうすればよいですか?
- (1) 納期に遅れているとき、すぐに解除できますか?
- (2) 成果物に不備があるときは何を請求できますか?
- (3) 損害を報酬から差し引いてもよいですか?
- 4 繰り返しの修正依頼が問題になるのはなぜですか?
- (1) やり直しを求めることは禁止されているのですか?
- (2) 契約書にはどう書いておけばよいですか?
- 5 成果物が他人の権利を侵害していたときはどうなりますか?
- (1) 発注者も責任を負うのですか?
- (2) 何から手をつければよいですか?
- (3) 侵害を防ぐために何をしておけばよいですか?
- 6 秘密情報の持ち出しや競業にはどう備えますか?
- (1) 秘密保持の契約を結んでおけば安心ですか?
- (2) 競業を制限してよいですか?
- 7 契約を打ち切るときに気をつけることは何ですか?
- (1) 30日前の予告が必要なのはどのような場合ですか?
- (2) すぐに解除できるようにするには何を定めておけばよいですか?
- 8 弁護士のサポート
- <Q&Aまとめ>
- Q1.フリーランスが納期に間に合わないとき、すぐに契約を解除できますか?
- Q2.成果物の不備を理由に請求できる期間はどれくらいですか?
- Q3.損害を報酬から差し引いてもよいですか?
- Q4.修正は何回まで頼めますか?
- Q5.納品物が他人の著作権を侵害していたら、発注者も責任を負いますか?
- Q6.6か月以上の契約は、いつでも打ち切れますか?
- Q7.フリーランス法について相談できる窓口はありますか?
弁護士 石田 優一
<このコラムでお伝えしたいこと>
フリーランスに仕事を委託する発注者の立場から、納品されない、成果物に不備があるという場面での対応をご説明します。発注者は、フリーランスの対応に問題があれば、時には毅然とした対応が必要です。ただし、フリーランス法の枠を踏まえた進め方が必要です。1 はしがき
フリーランスに仕事を委託したところ、思うように進まなかった。そのような経験をお持ちの発注者の方は少なくありません。
発注する側のルールは、この数年で急速に整備されました。令和6年(2024年)11月1日には、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました。2026年1月1日には、下請法が中小受託取引適正化法(取適法)に改まりました。公正取引委員会は業種を絞った調査を続けており、勧告を受けた事業者は名称とともに公表されます。
兵庫県内でも、人手不足を背景に外部の人材へ業務を委ねる動きが広がっています。
発注者は、フリーランスに契約違反があれば、民法に基づいて解除や損害賠償を求めることができます。ただ、その進め方にはフリーランス法という枠があります。このコラムでは、発注者の立場から、トラブルが起きたときの対応の順序をご説明します。
2 フリーランスとのトラブルで、発注者は何を請求できますか?
(1) 発注者が取れる手段には何がありますか?
発注者は、契約の解除、損害賠償の請求、成果物の作り直しの請求、報酬の減額の請求を検討できます。場面ごとの整理は、次の表のとおりです。
| 場面 | 発注者が検討できること | 注意しておきたい点 |
|---|---|---|
| 納期に間に合わない | 催告して解除(民法541条)。履行を拒む意思が明確なら催告なしで解除(同法542条1項2号) | 期間が過ぎた時点の不履行が軽微なときは解除できません |
| 成果物に不備がある | 作り直しの請求、報酬の減額、損害賠償、解除(同法559条、562条から564条) | 不備を知った時から1年以内の通知が必要です(同法637条1項) |
| 損害を報酬から差し引く | 相殺(同法505条) | 責めに帰すべき事由がないのに報酬を減らすとフリーランス法5条1項2号に触れます |
| 契約を途中で打ち切る | 契約違反があれば即時の解除も可能です | 6か月以上の継続的な委託は30日前の予告が原則です(同法16条1項) |
(2) フリーランス法とは何ですか?
フリーランス法とは、従業員を使用しない個人や一人会社に業務を委託する事業者に、一定の義務を課す法律です。取引の適正化は公正取引委員会と中小企業庁が、就業環境の整備は厚生労働省が所管しています。令和6年(2024年)11月1日に施行されました。
発注者が押さえるべき義務は、大きく4つです。第1に、委託したときは、業務の内容や報酬の額などを書面またはメールで直ちに明示することです(同法3条1項)。第2に、成果物を受け取った日から60日以内の、できる限り早い日を支払期日とすることです(同法4条1項)。
第3に、1か月以上の委託では、受領の拒否や報酬の減額といった行為をしないことです(同法5条)。第4に、6か月以上の継続的な委託を解除するときは、30日前までに予告することです(同法16条1項)。
実務では、この4つのいずれも見落とされやすいと感じます。会社の規模にかかわらず、契約書の雛形が長く見直されていない例は、しばしば見受けられます。とくに支払期日は、月末締め翌々月払いという社内のルールを当てはめた結果、60日を超えてしまうことがあります。
制度の内容を確かめたいときは、兵庫労働局の雇用環境・均等部(神戸市中央区)でも、フリーランス法に関する相談を受け付けています。
3 納品されない、出来が悪いときはどうすればよいですか?
(1) 納期に遅れているとき、すぐに解除できますか?
原則は、催告が必要です。相当の期間を定めて履行を求め、その期間内に履行がないときは解除できます(民法541条)。ただし、期間が過ぎた時点の不履行が軽微であるときは、解除できません。
他方、履行を拒む意思を明確に示された場合は、催告なしで直ちに解除できます(同法542条1項2号)。履行に代わる損害賠償も請求できます(同法415条2項2号)。
もっとも、解除を急ぐ前に打てる手があります。弁護士法人みおでは、納期の遅れや連絡の乱れが見えた段階で、引き継げる候補を探し始めることをお勧めしています。あわせて、相手方とこまめに連絡を取り、連絡が途絶えない状態を保つことが大切です。
(2) 成果物に不備があるときは何を請求できますか?
合意した内容に合わない成果物が納品された場合には、作り直しの請求や報酬の減額の請求ができます。損害賠償の請求や契約の解除も検討できます(民法559条、562条から564条)。
ここには期間の制限があります。不備を知った時から1年以内にその旨を通知しないと、これらを請求できなくなります(同法637条1項)。「時すでに遅し」とならないよう、気づいた時点で書面に残しておくことが大切です。
なお、発注者が渡した材料や与えた指図によって生じた不備は、責任を問う理由にできません(同法636条)。指示の出し方も、記録に残しておくことが望ましいです。
(3) 損害を報酬から差し引いてもよいですか?
相殺そのものは禁じられていません(民法505条)。合理性があるのであれば、相殺の主張は積極的に検討する価値があります。
ただ、線引きが必要です。相手方に責めに帰すべき事由がないのに報酬を減らすことは、フリーランス法5条1項2号で禁止されています。納期の遅れを理由に一方的に差し引く対応は、この禁止に触れるおそれがあります。
実務では、裁判でも争える水準の証拠を用意することを目標にします。相手方とのやり取りは、チャットツールで進むことも多くあります。チャットは、過去の投稿を一方的に消せる機能を備えたものが少なくありません。兆候が見えた時点で、スクリーンショットに残しておくことをお勧めします。
4 繰り返しの修正依頼が問題になるのはなぜですか?
(1) やり直しを求めることは禁止されているのですか?
修正を頼むこと自体が禁止されるわけではありません。ただし、相手方に責めに帰すべき事由がないのに、給付の内容を変更させたり、受け取った後に作り直させたりして、相手方の利益を不当に害することは禁止されています(フリーランス法5条2項2号)。
相談の現場では、デザインの発注で繰り返し修正を求め、こじれてしまったというお話をうかがうこともあります。修正の回数や対象を取り決めている例は、実際には少ないと感じます。範囲があいまいなまま進むと、どこまでが当初の依頼なのかが分からなくなります。
(2) 契約書にはどう書いておけばよいですか?
修正の回数と対象を限定しておくことが基本です。そして、その範囲を超えるときは追加の報酬を支払う、と定めておくことが望ましい対応です。
【具体例】仮に、ロゴの制作を委託し、修正は2回までと定めていたとします。3回目以降の修正を頼むときは、あらためて追加の報酬を支払う。このように決めておけば、双方が納得しやすい形になると考えられます。
業務の内容を明示する義務(フリーランス法3条1項)も、この点と重なります。修正の範囲は、発注書の段階で言葉にしておくことが大切です。
5 成果物が他人の権利を侵害していたときはどうなりますか?
(1) 発注者も責任を負うのですか?
負う場合があります。納品物が第三者の著作権を侵害していれば、それを使う発注者に対しても、侵害の停止や廃棄を求めることができます(著作権法112条)。故意または過失があれば、損害賠償の対象にもなります(民法709条、著作権法114条)。
頻度が高いわけではありません。ただ、委託した相手が他人のコンテンツを模倣して納品し、問題に発展したというお話をうかがったこともあります。すでに公開や販売を始めているときほど、影響は大きくなります。
(2) 何から手をつければよいですか?
権利を侵害されたと主張する相手方と、早い段階で交渉を始めることが最優先です。なぜなら、フリーランスに責任を押し付けていても、事態は前に進まないからです。責任の分担は、相手方との解決を進めながら整理していくことになります。
(3) 侵害を防ぐために何をしておけばよいですか?
契約書に、第三者の権利を侵害しない旨の保証を書き込む方法があります。もっとも、契約書の文言を細かく意識していない方も多く、それだけでは抑止の効果が限られます。
そこで、遵守すべき事項を視覚的にまとめたマニュアルを渡す方法をお勧めしています。他人の素材を模倣することはもちろん、オマージュのような使い方も権利侵害になり得ます。この点は丁寧に説明しておく必要があります。最近は、生成AIを使って、業務の実態に即した分かりやすいマニュアルを整えることもできます。
あわせて、成果物の権利が自社に移る形になっているかも確認しておきたい点です。著作権の譲渡を受ける契約では、翻案などの権利(著作権法27条・28条)を譲渡の対象として特に挙げておく必要があります。挙げていないと、これらの権利は相手方に残ると推定されます(同法61条2項)。
6 秘密情報の持ち出しや競業にはどう備えますか?
(1) 秘密保持の契約を結んでおけば安心ですか?
契約での縛りは大切です。ただ、それだけでは足りません。フリーランスへの委託にあたって、情報の管理にリスクを感じる企業は多くいらっしゃいます。この課題は、とくに懸念が大きいところです。
そこで、多角的な対策をお勧めしています。必要のない情報にはアクセスできないようにする。渡したファイルを一覧にしておき、案件が終わった時点で消去済みかを確認させる。こうした運用が、契約書と組み合わさって効いてきます。
違反されたときは、債務不履行に基づく損害賠償の請求(民法415条1項)や差止めを検討できます。あらかじめ賠償額を定めておく方法もあります(同法420条1項)。
(2) 競業を制限してよいですか?
一定の範囲では可能です。ただし、厳しくしすぎることは望ましくありません。フリーランスは、自由に仕事を選べることに働き方の特色があるからです。
実務では、明らかに競合する事業者との取引に制限をかける程度を限度と考えておくことをお勧めします。範囲が広すぎる制限は、争いになったときに効力が問題になり得ます。この点は確立した基準がないため、契約の目的に照らして必要な範囲にとどめることが大切です。
7 契約を打ち切るときに気をつけることは何ですか?
(1) 30日前の予告が必要なのはどのような場合ですか?
6か月以上の継続的な委託を解除するときは、30日前までに予告する必要があります(フリーランス法16条1項)。契約期間の満了後に更新しない場合も同じです。この6か月という期間は、同法の施行令で定められています。
例外もあります。厚生労働省令は、相手方の責めに帰すべき事由により直ちに解除する必要があると認められる場合を挙げています(厚生労働省関係の施行規則4条4号)。つまり、契約違反があるときは、30日を待たずに解除できます。
(2) すぐに解除できるようにするには何を定めておけばよいですか?
契約違反となる行為を、厳密に書いておくことが重要です。何が違反に当たるのかがはっきりしていれば、即時の解除につなげやすくなります。
基本になるのは、納期を一定の期間過ぎたとき、連絡が取れなくなったとき、秘密保持に違反したときです。あわせて、定例の打合せに応じないことや、業務を妨げるハラスメント行為を盛り込むこともあります。
予告の義務があるからといって、契約を打ち切れないわけではありません。契約書の備えの差が、いざというときの選択肢を左右します。
8 弁護士のサポート
フリーランスとの取引では、訴訟だけを頼りにしない備えが大切です。相手方が個人であることから、判決を得ても回収困難なケースが珍しくありません。ですから、問題が起きた段階で早期の解決を目指すことが有効です。あわせて、関係を早く解消できる契約条項を用意しておくことが役に立ちます。
ご相談の時機としては、トラブルの兆候が見えた段階が最も望ましいです。打合せに応じない、納期に明らかな遅れがある。そうした段階でお話しいただければ、打てる手は広がります。
弁護士法人みおでは、相手方との交渉の方針について助言し、争うことになった場合に保全しておくべき証拠をご説明します。契約書や発注書の見直し、遵守すべき事項をまとめた資料の整え方についても、検討いたします。兵庫県内で事業を営む発注者の方からのご相談も承っております。
フリーランスとの契約でお困りのことがあれば、まずはご相談ください。トラブルが大きくなる前にお話しいただくことで、選べる道は増えます。お気軽にご相談ください。
<Q&Aまとめ>
Q1.フリーランスが納期に間に合わないとき、すぐに契約を解除できますか?
A1.原則は、相当の期間を定めて履行を求め、その期間内に履行がなければ解除できます(民法541条)。履行を拒む意思が明確に示された場合は、催告なしで直ちに解除できます(同法542条1項2号)。
Q2.成果物の不備を理由に請求できる期間はどれくらいですか?
A2.不備を知った時から1年以内に、その旨を相手方へ通知する必要があります(民法637条1項)。この期間を過ぎると、作り直しや損害賠償を求められなくなります。
Q3.損害を報酬から差し引いてもよいですか?
A3.相殺そのものは禁じられていません(民法505条)。ただし、相手方に責めに帰すべき事由がないのに報酬を減らすことは、フリーランス法5条1項2号に違反します。合理性の裏付けを整えてから進めることが大切です。
Q4.修正は何回まで頼めますか?
A4.法律上の回数の定めはありません。契約で回数と対象を限定し、その範囲を超えるときは追加の報酬を支払うと定めておくことが望ましいです。
Q5.納品物が他人の著作権を侵害していたら、発注者も責任を負いますか?
A5.負う場合があります。使用の停止や廃棄を求められることがあり(著作権法112条)、故意または過失があれば損害賠償の対象にもなります。まずは、権利を主張する相手方との交渉を早く始めることが大切です。
Q6.6か月以上の契約は、いつでも打ち切れますか?
A6.原則として、30日前までの予告が必要です(フリーランス法16条1項)。相手方の責めに帰すべき事由により直ちに解除する必要があると認められる場合は、例外とされています。
Q7.フリーランス法について相談できる窓口はありますか?
A7.兵庫労働局の雇用環境・均等部(神戸市中央区)で、フリーランス法に関する相談を受け付けています。取引の適正化に関する部分は、公正取引委員会や中小企業庁も窓口になっています。





