なぜ冤罪は起きるのか?その原因から考える予防策
- <このコラムでお伝えしたいこと>
- 1 はしがき
- 2 冤罪はどのように生まれるのか
- (1) 冤罪とは何ですか?
- (2) なぜ捜査機関の見立ては固まってしまうのですか?
- (3) 「話せば分かってもらえる」は本当ですか?
- 3 やっていないのに認めてしまうのはなぜですか
- (1) 身に覚えのない自白は、どうして生まれるのですか?
- (2) 供述録取書は、どのように不利に働くのですか?
- (3) 「否認すると長引く」と言われたら、どうすればよいですか?
- 4 取調べのルールと、逮捕後の時間の流れ
- (1) 黙秘権とは何ですか?
- (2) 取調べの時間に制限はありますか?
- (3) 自白だけで有罪になりますか?
- (4) 逮捕された後、時間はどのように流れますか?
- 5 冤罪と闘うために弁護士ができること
- (1) 早い段階で依頼すると、どのような活動ができますか?
- (2) (ご家族の方について)ご相談のとき、何を話せばよいですか?
- <Q&Aまとめ>
- Q1.冤罪とは何ですか?
- Q2.警察に正直に話せば、疑いは晴れますか?
- Q3.取調べで黙秘してもよいのですか?
- Q4.供述録取書に署名を断ることはできますか?
- Q5.取調べは何時間まで受けなければならないのですか?
- Q6.自白してしまったら、もう有罪になりますか?
- Q7.逮捕されてから起訴されるまで、どのくらいの時間がありますか?
- Q8.弁護士にはいつ相談すればよいですか?
弁護士 石田 優一
<このコラムでお伝えしたいこと>
身に覚えのない疑いをかけられたとき、正直に話せば分かってもらえるとはかぎりません。冤罪は取調べと供述録取書から生まれます。黙秘権や取調べのルールを知り、早い段階で弁護士にご相談ください。
1 はしがき
![]()
令和8年(2026年)7月、再審の手続についての改正刑事訴訟法が成立しました。1948年に今の刑事訴訟法ができてから、再審の規定が改められるのは初めてです。証拠の提出命令の制度が設けられ、再審を始める決定に対する検察官の不服申立ては原則として禁止されました。公布から1年以内に順次施行されます。
ただ、再審は「最後の手段」です。有罪の判決が確定してから、それをやり直すには長い年月がかかります。本当に大切なのは、その前の段階です。特に、有罪率が高い日本においては、捜査の段階で不起訴を勝ち取ることが重要です。
今回は、冤罪がどのように生まれるのか、取調べのルールも踏まえてご説明いたします。
2 冤罪はどのように生まれるのか
(1) 冤罪とは何ですか?
![]()
冤罪とは、罪を犯していない人が、犯人として扱われ、処罰されることをいいます。法律上の用語ではなく、日常的に使われている言葉です。
冤罪は、たった一つの誤りから生まれるわけではありません。捜査の初期にできた誤った見立てが、そのまま取調べに持ち込まれます。そして供述録取書という形で固められ、起訴の判断を裏づけることになります。誤りが連鎖することで、取り返しのつきにくい結果につながります。
(2) なぜ捜査機関の見立ては固まってしまうのですか?
人には、自分の予想に合う情報ばかりを集め、合わない情報を軽く見る傾向があります。心理学では「確証バイアス」と呼ばれます。捜査でも同じことが起こります。
捜査機関が早い段階で「この人が犯人だ」と見立てると、それを裏づける証拠ばかりが集まりやすくなります。逆に、無実を示す証拠は目に入りにくくなります。視野が狭まった状態が続くと、誤りに気づく機会が失われます。
犯罪捜査規範では、このような問題を踏まえて、先入観にとらわれず、根拠に基づかない推測を排除しなければならないと定めています。そのうえで、供述を過信することなく、あらゆる証拠の発見収集に努めることを求めています。
予断を持った捜査はルールに反します。しかし、現実の捜査では、犯罪捜査規範が遵守されず、時には先入観による不当な取調べがなされることがあります。
(3) 「話せば分かってもらえる」は本当ですか?
そうとはかぎりません。
これまで刑事弁護を担当したケースでも、「警察に聞かれるまま思いを伝えれば疑いは必ず晴れる」という思い込みが冤罪につながっていることが、何度もありました。
取調べは話合いの場ではなく、捜査機関が証拠を集める場です。話した内容がそのまま記録されるとはかぎりません。捜査機関の見立てに沿う部分だけが取り出され、供述録取書(取調べでの供述を捜査官がまとめた書面)になることがあります。
3 やっていないのに認めてしまうのはなぜですか
(1) 身に覚えのない自白は、どうして生まれるのですか?
![]()
虚偽自白とは、実際にはやっていないことを、自分がやったと認めてしまう供述をいいます。これは、特別な人だけに起こることではありません。
身体を拘束されると、いつもの生活の流れが断ち切られます。外の情報も入らず、相談できる相手もいない状態が続きます。弁解しても取り合ってもらえない経験が重なると、何を言っても無駄だという気持ちになりやすくなります。
そこに、目の前の捜査官に認めてもらいたいという気持ちが加わります。その場の苦しさから逃れるために、事実と違う供述をしてしまう。これが虚偽自白の典型的な流れです。
(2) 供述録取書は、どのように不利に働くのですか?
供述録取書は、起訴・不起訴の判断において、重要な証拠として扱われます。ご本人のお話しではなく、書面に残った文言が判断の材料になるのです。
時には、少しずつ不利な内容の供述録取書を誘導されるままに作られるケースもあります。1通ごとの変化は小さくても、積み重なると全体の意味が変わります。
刑事訴訟法では、供述録取書を本人に読み聞かせ、誤りがないかを問わなければならないと定めています。本人が増減変更を申し立てたときは、その供述を調書に記載しなければなりません。また、署名押印を拒んだ場合は、供述録取書を作成できないことが定められています。つまり、訂正を求めることも、署名を断ることもできます。
現在の実務では、増減変更の申立てを捜査側が最後まで拒むことは、あまりありません。それにもかかわらず、供述録取書の重さをご存じないまま、何となく署名に応じてしまう方がいらっしゃいます。その結果、大きく不利になる例が後を絶ちません。
(3) 「否認すると長引く」と言われたら、どうすればよいですか?
その言葉に従う前に、弁護士にご相談ください。
署名を断れることは知っていても、断ったら事件が長引くのではないかという不安から、署名に応じてしまうケースがよくあります。「否認すると長引く」「認めたほうが軽く済む」という誘惑に負けてしまうのです。
しかし、不利な供述をしてしまえば、起訴されるおそれが高まります。身柄が解放される道も狭くなります。
不安な気持ちを抱くのは当然です。だからこそ、その場でひとりで判断せず、不用意に供述録取書への署名には応じず、弁護人と方針を決めていただくことをお勧めします。
4 取調べのルールと、逮捕後の時間の流れ
(1) 黙秘権とは何ですか?
![]()
黙秘権とは、自分に不利益な供述を強いられない権利です。
刑事訴訟法は、取調べの前に、自分の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならないと定めています。あくまでも、何を話し、何を話さないかを決めるのは、捜査機関ではなく、ご本人なのです。
(2) 取調べの時間に制限はありますか?
犯罪捜査規範では、やむを得ない理由がある場合のほか、深夜または長時間の取調べを避けなければならないと定めています。午後10時から午前5時までの間に取調べを行うときは、警察本部長または警察署長の承認が必要としています。1日につき8時間を超えて取調べを行うときも同じです。
また、任意性に疑いを抱かれる方法を用いてはならないことや、期待する供述を示唆するなどして、みだりに供述を誘導してはならないことも定めています。もし、これらのルールに反する取調べがあれば、弁護人を通じて苦情を申し入れることが適当です。
(3) 自白だけで有罪になりますか?
なりません。自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とはされません。必ず、自白のほかに、それを裏づける証拠が必要です。
また、本人が任意でしたものでない疑いが残る自白も、証拠にはできません。取調べの経過を丁寧に記録しておくことが、後にこの点を争う材料になります。
(4) 逮捕された後、時間はどのように流れますか?
逮捕された後の手続には、法律で厳しい時間制限が定められています。流れは次の表のとおりです。
| 段階 | 時間の制限 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 警察から検察官への送致 | 身体を拘束された時から48時間以内 | 刑訴法203条1項 |
| 検察官による勾留請求 | 被疑者を受け取った時から24時間以内、かつ身体を拘束された時から72時間以内 | 刑訴法205条1項・2項 |
| 勾留の期間 | 勾留を請求した日から10日以内 | 刑訴法208条1項 |
| 勾留の延長 | やむを得ない事由があるとき、通じて10日を超えない範囲で延長 | 刑訴法208条2項 |
この時間の中で、起訴するかどうかが決まります。起訴までの期間は限られていますので、1日1日の対応が、その後を大きく左右します。
5 冤罪と闘うために弁護士ができること
![]()
冤罪と闘えるのは弁護士だけです。そのような立場にある以上、全力で冤罪に立ち向かうことが私たちの使命だと考えています。
(1) 早い段階で依頼すると、どのような活動ができますか?
早い段階でご依頼をいただければ、勾留請求の前から動くことができます。具体的には、ご本人と接見して取調べの状況を確認し、方針を決めます。被疑者ノートをお渡しして、取調べの経過を記録していただく準備も整えます。ケースによっては、検察庁や、裁判所の令状部に意見書を提出し、勾留を阻止する活動をすることもあります。
接見は、事案の緊急性を考えて、できるかぎり早くうかがいます。可能であれば当日中に接見し、日中の調整が難しいときは夜間の接見で対応することもあります。
(2) (ご家族の方について)ご相談のとき、何を話せばよいですか?
例えば、ご本人が警察から同行を求められたときの状況をお聞かせいただけると幸いです。そのときに何が起きたかという生の事実が参考になります。突然警察が来たのか、何人ほどで来たのか、どのような態度だったのか。ご本人の意思に反して令状なしに同行させられた事情はなかったか。どのような物を押収されたか。警察から事件の内容を示唆する話を聞いていないか。こうしたお話しが、事件の全体像をつかむ手がかりになります。
身に覚えのない疑いをかけられたとき、不安を感じるのは当然です。それでも、弁護人を信じて、ご一緒に冤罪と闘っていただきたいと考えています。ご本人やご家族が疑いをかけられてお困りの際は、お早めにご相談ください。
<Q&Aまとめ>
Q1.冤罪とは何ですか?
A1.罪を犯していない人が、犯人として扱われ、処罰されることをいいます。捜査の初期にできた誤った見立てが取調べと供述録取書に引き継がれ、誤りが連鎖することで生じます。
Q2.警察に正直に話せば、疑いは晴れますか?
A2.そうとはかぎりません。取調べは話し合いの場ではなく、捜査機関が証拠を集める場です。話した内容のうち、捜査機関の見立てに沿う部分だけが供述録取書に残ることがあります。
Q3.取調べで黙秘してもよいのですか?
A3.黙秘は権利です。日本国憲法第38条第1項が、自分に不利益な供述を強いられない権利を保障しています。刑訴法第198条第2項により、取調べの前にその旨を告げることが義務づけられています。ただし、黙秘すべきかどうかは事案によって判断が分かれます。弁護人と方針を決めることをお勧めします。
Q4.供述録取書に署名を断ることはできますか?
A4.できます。刑訴法第198条第5項は、署名押印を拒んだ場合はこのかぎりでない、と定めています。同条第4項により、読み聞かせを受けて訂正を申し立てることもできます。
Q5.取調べは何時間まで受けなければならないのですか?
A5.犯罪捜査規範第168条第3項により、深夜や長時間の取調べは避けなければならないとされています。午後10時から午前5時までの取調べ、または1日8時間を超える取調べには、警察本部長または警察署長の承認が必要です。
Q6.自白してしまったら、もう有罪になりますか?
A6.自白だけでは有罪になりません。刑訴法第319条第2項により、自白が唯一の不利益な証拠であるときは有罪とされません。また、同条第1項により、任意にされたものでない疑いのある自白は証拠にできません。
Q7.逮捕されてから起訴されるまで、どのくらいの時間がありますか?
A7.身体を拘束された時から72時間以内に、勾留が請求されます。その後、勾留を請求した日から10日以内、延長されたときは通じて20日以内に、起訴するかどうかが判断されます。この間の対応が結論を左右します。
Q8.弁護士にはいつ相談すればよいですか?
A8.できるだけ早い段階です。勾留がつく前であれば、勾留を認めないよう求める意見書を提出することもできます。時間が経つほど、身柄が解放される可能性は下がります。





