弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2026.08.12
刑事事件の弁護

冤罪を防ぐための弁護活動

弁護士 石田 優一

<このコラムでお伝えしたいこと>

身に覚えのない疑いをかけられたとき、勝負がつくのは捜査の段階です。取調べの経過を記録し、検察官に意見書を出し、身柄の解放を求める。弁護人が何をするのかを、具体的にご説明いたします。

1 はしがき

前回のコラムでは、冤罪がどのように生まれるのかをご説明しました。捜査機関の見立てが固まり、供述録取書という形で記録が積み上がっていく。その流れをどこで止めるかが問題になります。

止められる時間は長くありません。身体を拘束された時から72時間以内に勾留が請求され、原則として、勾留を請求した日から最長20日で、起訴するかどうかが決まります。この短い期間に何をするかで、結論は大きく変わります。

今回は、不起訴を勝ち取るために弁護人が捜査の段階で行う活動を、具体的にご紹介します。

2 不起訴とはどのような処分ですか

(1) 不起訴とは何ですか?

不起訴とは、検察官が事件について公訴を提起しない、つまり裁判しないと決める処分です。裁判が開かれませんので、有罪の判決を受けることもありません。

不起訴には理由の区分があります。不起訴の裁定について、身に覚えのない疑いをかけられた場合に目指すのは、「嫌疑なし」または「嫌疑不十分」です。

(2) 「嫌疑なし」と「嫌疑不十分」はどう違いますか?

証拠の状況が違います。おもな区分は次の表のとおりです。

主文 内容 位置づけ
嫌疑なし 被疑者がその行為者でないことが明白なとき、または犯罪の成否を認定すべき証拠のないことが明白なとき 無実が明らかになった場合
嫌疑不十分 犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分なとき 証拠が足りず有罪の立証ができない場合
罪とならず 被疑事実が犯罪構成要件に該当しないとき、または犯罪の成立を阻却する事由があることが証拠上明確なとき 行為自体が犯罪に当たらない場合
起訴猶予 被疑事実が明白な場合に、性格・年齢・境遇や情状から訴追を必要としないとき 犯罪の成立を前提とする処分

注意していただきたいのは「起訴猶予」です。これは、犯罪が成立していることを前提に、あえて起訴しないという処分です。身に覚えがないと訴えている方にとって、起訴猶予は目指すべき結論ではありません。ですから、どの理由による不起訴を求めるのかを、弁護人と共有しておくことが大切です。

3 取調べにどう向き合いますか

(1) 黙秘したほうがよいのですか?

一律に黙秘すべきだとは考えていません。実務では、捜査側の対応を見て判断します。

捜査側が供述を丁寧に聞き取り、真実を解明しようという姿勢であれば、黙秘はお勧めしません。他方、取調べの進め方に問題があるときは、黙秘をお勧めします。誘導されるままに供述録取書ができあがっていく事態を防ぐためです。

その見極めのために、接見(弁護人がご本人と面会すること)では「取調べでどのような質問を受けたか」を丁寧に確認します。質問の内容や順序から、捜査機関がどのような見立てを持ち、どこまで証拠をつかんでいるのかが見えてきます。そのうえで、対応に問題がなかったかを検討します。

捜査段階では、弁護人でも捜査記録を閲覧することができませんので、ご本人のお話しが最大の手がかりとなります。

(2) 取調べの経過は、どう残せばよいですか?

被疑者ノートに記録していただきます。被疑者ノートとは、取調べの状況をご本人が日々書き留めておくための冊子です。

否認している事件では、必ず被疑者ノートを差し入れ、その日の取調べの状況を丁寧に記録していただくようお願いしています。なるべく克明に、詳細に書いていただくことが大切です。

記録が残っていれば、後で使えます。実際のご相談でも、被疑者ノートから問題のある取調べと思われる部分を丁寧に引用し、意見書にまとめて検察庁に提出した例があります。ケースによっては、被疑者ノートの写し自体を提出して、問題点を指摘することもあります。取調べを検証できる材料は、ご本人の手元にしかないことも少なくありません。ですから、面倒に感じられても、毎日書き残していただくことをお勧めします。

(3) 取調べは録音・録画されるのですか?

すべての事件ではありません。身体を拘束された被疑者の取調べの録音・録画を義務づけられているものは、死刑または無期拘禁刑に当たる罪の事件など、対象が一部に限定されています。それ以外の事件は、(捜査側の判断で録音・録画されるケースはありますが、法律上は)対象外です。

実務の実感として、録音・録画が徹底されている事件では、誘導が行われることは少なくなっています。問題は対象外の事件です。録音・録画を申し入れても実現されないことが多く、ここが課題であると感じます。

(4) 録音・録画がないときは、どうしますか?

まず、検察庁に対して、誘導のおそれを指摘したうえで録音・録画を申し入れる意見書を提出します。

そのうえで、弁護人の側でもご本人の弁解を供述録取書の形で記録します。これを公証役場に持ち込み、確定日付(その日にその文書が存在したことを公証人が証明する制度)を取ることもあります。

確定日付があれば、いつの時点でどのような弁解をしていたかを客観的に示すことができます。捜査機関が作成した供述録取書と食い違いが生じたときに、意味を持ちます。

4 不起訴を求めて弁護人が行う活動

(1) 意見書とは何ですか?

意見書とは、弁護人が検察官や裁判官に対して、事件の見方や処分についての意見を書面で伝えるものです。捜査段階の弁護活動の中心になります。

提出の時期を待つ必要はありません。気になる点があれば、勾留期間の満了まで日数があっても、早い段階で提出します。これまでお受けした事件の中には、10通以上の意見書を提出したものもありました。

意見書を重ねることには、もう一つの効果があります。問題のある取調べに対する大きなけん制になる、という点です。弁護人が取調べの経過を把握し、書面で指摘し続けていることが伝われば、捜査の進め方は変わります。

(2) 弁護人はどのような証拠を集めますか?

事情を知っている方への聞き取りと、有利な証拠の保存です。現場の様子を写真に残すなど、時間が経つと失われてしまうものから手をつけます。

聞き取りは、早ければ早いほど価値があります。時間が経つと、捜査機関が先に接触して供述が固まってしまうことがあるからです。そうなってから聞き取りをしても、捜査機関に寄った内容になりがちです。

聞き取った内容は、供述書にまとめ、不起訴を求める意見書に添付して提出します。もっとも、署名をためらう関係者もいらっしゃいます。そのようなときは、その供述書がひとりの人生にどれほど大きな影響を与えるものかを、丁寧にお伝えします。そして、真実の発見につながるものであることをご説明し、協力をお願いしています。

(3) 勾留を防ぐことはできますか?

ハードルは高いですが、できる場合はあります。勾留請求の前から動くことが重要です。

具体的には、裁判所の令状部に意見書を提出し、勾留の判断をする裁判官に対して勾留を認めないよう求めます。これに先立ち、検察庁に対して勾留請求をしないよう求めることもあります。神戸市内の事件であれば、通常は、神戸地方(簡易)裁判所の令状部が窓口です。

実務では、勾留請求のタイミングを確認したうえで、迅速に意見書を出します。あらかじめ令状部に意見書の提出予定があることを伝えておくことも欠かせません。勾留請求はかなり早く行われることもありますので、なるべく早く提出する必要があります。

※ただし、裁判所の令状部に意見書を出すケースは多くはありません。限られた時間を効率的に活用するために、裁判所の令状部に意見書を出す対応は行わず、準抗告への準備を優先させることも、実際には多いです。いずれにしても、検察庁への意見書の提出は、積極的に行うケースが多いです。

勾留の判断がされた場合も、手立てはあります。勾留の理由に疑問があるときは、積極的に準抗告(勾留の裁判の取消しを求める不服申立て。刑訴法第429条第1項第2号)を申し立てます。過去に私が担当したケースでも、勾留の判断の後、翌日に準抗告が認められて、釈放が実現されたケースがあります。

5 ご家族にお願いしたいこと

(1) 接見禁止で会えないときは、どうすればよいですか?

弁護人にご相談ください。接見禁止とは、勾留されている本人と、弁護人以外の人との面会や書類のやり取りを禁じる裁判所の決定です。刑訴法第81条に基づき、逃亡や罪証隠滅のおそれがあるときに行われます。

この場合、弁護人は接見禁止の一部解除を申し立てます。あわせて、弁護人が接見に行く際にご家族のお気持ちをお伝えするなど、間をつなぐ方法をご提案しています。

(2) 関係者に謝罪の連絡をしてもよいですか?

否認している事件では、控えていただくようお願いしています。

相談の現場では、ご家族が良かれと思って関係者に謝罪の連絡をしたいとおっしゃることがあります。お気持ちは分かります。ただ、否認している事件で謝罪の連絡をすれば、罪を認めたと受け取られかねません。事案によっては、罪証隠滅を図る行為と評価されるおそれもあります。

私たちは、ご本人が真意から否認していることを、ご家族に丁寧にお伝えします。そのうえで、ご本人を信頼して関係者への連絡は差し控えていただくよう、お願いしています。

(3) 体調や待遇が心配なときは、どうすればよいですか?

弁護人にお伝えください。留置施設での待遇に問題があるときは、弁護人から改善の申入れを行います。

特に、医師の受診や投薬が拒まれている場合には、積極的に警告を発します。持病をお持ちの方は、服用している薬の名前と量を弁護人にお伝えいただくと、対応が早くなります。

6 冤罪と闘う弁護士のサポート

捜査段階の弁護活動は、時間との勝負です。接見で取調べの経過を確認し、その日のうちに意見書の準備に入る。そうした積み重ねが、不起訴という結論につながります。

取調べの経過を記録していただく準備から、検察官への意見書の提出、勾留を防ぐための申入れ、身柄の解放を求める不服申立てまで、対応いたします。ご本人を支えるため、積極的に接見にうかがい、ご家族の状況もお伝えします。神戸市内はもちろん、芦屋・西宮・明石など神戸市外からのご相談も承っております。

ご家族が疑いをかけられ、どうしてよいか分からないという段階でも構いません。お早めにご相談ください。早くご相談いただくほど、打てる手は広がります。

<Q&Aまとめ>

Q1.不起訴とは何ですか?

A1.検察官が裁判にかけないと決める処分です。裁判が開かれませんので、有罪の判決を受けることもありません。

Q2.「嫌疑不十分」と「起訴猶予」は違うのですか?

A2.まったく違います。嫌疑不十分は、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分な場合の処分です。起訴猶予は、犯罪が成立していることを前提に、あえて起訴しないという処分です。身に覚えがないと訴えている方が目指すのは、嫌疑なしまたは嫌疑不十分です。

Q3.取調べは必ず録音・録画されますか?

A3.すべての事件ではありません。死刑または無期拘禁刑に当たる罪の事件など、一定の事件にかぎって義務づけられています。対象外の事件では、必要に応じて、弁護人から録音・録画を申し入れる意見書を提出します。

Q4.被疑者ノートとは何ですか?

A4.取調べの状況をご本人が日々書き留めておくための冊子です。否認事件では必ず差し入れ、克明に記録していただきます。後で意見書に引用し、問題のある取調べを指摘する材料になります。

Q5.勾留を防ぐことはできますか?

A5.できる場合があります。検察庁(時には裁判所の令状部)に意見書を提出し、勾留を認めないよう求めます。勾留請求は早く行われることもありますので、迅速な提出が必要です。

Q6.勾留がついてしまったら、もう出られないのですか?

A6.手立てはあります。勾留の理由に疑問があるときは、準抗告を申し立てます。実際に、私が担当した事件でも、準抗告によって勾留判断の翌日に釈放が認められたことがあります。

Q7.接見禁止がついて家族が会えません。どうすればよいですか?

A7.弁護人にご相談ください。接見禁止の一部解除を申し立てるほか、弁護人が接見の際にご家族のお気持ちをお伝えする方法もあります。弁護人との接見は、接見禁止の対象になりません。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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