弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2026.08.17
企業法務

生成AI全盛期時代に発注者が知っておくべき法的ポイント

目次

弁護士 石田 優一

<このコラムでお伝えしたいこと>

生成AIが使われた納品物には、そもそも著作権が生じないことがあります。他の事業者に制作を依頼する際には、この点について留意しておくことが必要です。また、発注者・受注者間の契約では、AIを使用するかどうかを申告する義務、類似コンテンツの有無を確認する義務などを定めておくことが大切です。

1 はしがき

ロゴ、イラスト、広告のキャッチコピー、Webサイトのコンテンツなどの制作を外部に委託したとき、その制作過程で生成AIが使われている場面が増えています。

制作を委託する側の企業では、「代金を支払ったのだから、納品物の著作権は当然に自社のものになる」と理解されていることが少なくありません。実務では、契約書に特に定めがないまま、この理解で制作物を使い続けているケースをしばしば目にします。

しかし、生成AIを使って作られた制作物には、そもそも著作権が生じないことがあります。そうなると、他社が似たものを使い始めても、著作権を理由に阻止することができません。

2 生成AIで作られた納品物に著作権は生じますか?

(1) AI生成物は「著作物」になりますか?

AIが生成したものであっても、常に著作物になるわけではありません。著作物とは、思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものです(著作権法2条1項1号)。

文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会は、令和6年(2024年)3月15日に「AIと著作権に関する考え方について」を取りまとめています。これによれば、人が何も指示を与えず、または簡単な指示を与えるにとどまり、「生成」のボタンを押すだけでAIが生成したものは、著作物に該当しないと考えられています。

他方、人が思想または感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使ったと認められれば、その生成物は著作物に当たり、AIを使った人が著作者になります。判断の分かれ目は、人の「創作意図」があるかと、人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったかにあります。

なお、これはあくまでも行政としての現時点の見解に過ぎず、今後の裁判例の蓄積に応じて見解が改められる可能性がある点は、押さえておきたいところです。

(2) 「創作的寄与」はどのように判断されますか?

創作的寄与は、個々の生成物ごとに、個別具体的な事情に応じて判断されます。

第1に、指示・入力の分量です。創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めます。もっとも、長い指示でも、アイデアを示すにとどまる場合は判断に影響しないとされています。

第2に、生成の試行回数です。試行回数が多いこと自体は判断に影響しません。ただし、生成物を確認しながら指示を修正して試行を繰り返した場合には、著作物性が認められることもあります。

第3に、複数の生成物からの選択です。単に選んだだけでは判断に影響しません。他方、人が生成物に創作的表現といえるような加筆・修正を加えた場合は、通常、その部分について著作物性が認められます。ですから、AIに任せきりにせず、人の手が具体的に入っているかが実務上の分かれ目になります。

(3) 著作権が生じないと、発注した会社にどのような不都合がありますか?

著作権が生じなければ、その制作物を独占することができません。他社が同じようなものを使い始めても、著作権を根拠に差止めや損害賠償を求めることはできません。

また、契約書に「著作権は発注者に譲渡する」と定めていても、著作権が発生していなければ譲渡の対象がありません。費用をかけて作らせた制作物が、実は誰でも自由にまねできる状態になっている、ということが起こり得ます。

実際のご相談でも、模倣が起きたときに著作権法では解決できない、という点が悩ましい課題になる場面があります。

3 契約書ではどこに注意すればよいですか?

ここからは、業務委託契約書の作成上の留意点を、5つの柱に分けてご説明いたします。

(1) 「著作権は発注者に譲渡する」と書けば足りますか?

それだけでは足りません。著作権法では、著作権を譲渡する契約において、27条(翻訳や翻案などの権利)または28条(二次的著作物の利用に関する権利)が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定すると定められています。

つまり、「著作権を譲渡する」とだけ書かれた契約書では、納品物を後から作り替えて使う権利が受注者に残っていると推定されます。実務では、この特掲が漏れている契約書をよく見かけます。

ロゴやイラストは、後から色や形を調整して展開することが多いものです。27条と28条の権利を明記したうえで、著作者人格権を行使しない旨もあわせて定めておくことをお勧めします。

(2) 生成AIの使用について何を約束させておくべきですか?

まず、生成AIを使うかどうか、使うのであればどのツールをどこまで使うのかを申告させ、発注者が認めた範囲でのみ使わせることが重要です。これを契約で義務づけておくことをお勧めします。

この申告と承諾の仕組みは、権利の問題だけでなく、予期しないセキュリティ上の問題を防ぐうえでも役に立ちます。あわせて、発注者の機密情報や未公開の情報を生成AIに入力する行為は、契約書で明確に禁止すべきです。

さらに、制作をすべてAIに丸投げすることを禁じ、AIを使う場合でも、自身の取材や経験を詳細に反映させるなどして、著作物として評価されるものにする義務を負わせることが大切です。この義務は、成果物の品質を担保することにもつながります。

(3) 類似の確認と責任はどのように定めますか?

受注者に対し、既存のコンテンツと類似したものがないかを確認したうえで納品する義務を、契約上負わせることが重要です。確認の作業そのものを義務として書いておく点が要点です。

また、公開後に第三者から権利侵害を指摘された場合の受注者の責任を、契約上明確にしておくべきです。もっとも、受注者任せにするのは望ましくありません。発注者側でも、公開前に類似のコンテンツがないかをある程度調査しておくことをお勧めします。

(4) プロンプトの記録はなぜ必要ですか?

文化庁著作権課が令和6年7月31日に公表した「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」では、生成に用いたプロンプトなど生成物の生成過程を確認できる状態にしておくよう努めることが望ましいとされています。記録が残っていれば、既存の著作物に依拠していないことや、人の創作的寄与があったことを説明しやすくなります。

ただし、プロンプトを管理しているのは受注者です。トラブルが起きてから開示を求めても、拒まれるリスクが高いです。そこで、発注者が求めた場合にプロンプトを開示する義務と、一定期間保存する義務を契約で定めておくことが、一案として考えられます。

(5) 再委託先にはどのように手当てしますか?

制作会社の先にいる再委託先やフリーランスの方が生成AIを使っている場合、発注者からは見えません。再委託先にも同様の義務を負わせるように、契約で縛る必要があります。

契約で定めておきたい事項は、次の表のとおりです。

契約で定めておきたい事項 目的 定めがない場合に起こること
27条・28条を特掲した著作権の譲渡と、著作者人格権の不行使 納品物を作り替えて使えるようにする 作り替えて使う権利が受注者に残っていると推定される
生成AIの使用の申告と、承諾した範囲での使用 権利と情報管理の両面を管理する 見えないところでAIが使われ、把握できない
AIへの丸投げの禁止と、人の関与の確保 納品物に著作権が生じる状態にする 著作権が生じず、他社のまねを止められない
類似コンテンツの確認義務と、非侵害の保証・責任の明確化 公開後の紛争に備える 責任の所在があいまいになる
プロンプトの保存義務と、求めに応じた開示義務 依拠性や創作的寄与を説明できるようにする トラブル後に開示を拒まれるおそれがある

4 デザイン制作の現場で気をつけることは?

(1) 公開前にどこまで確認すべきですか?

著作権侵害を防ぐ対策として、少なくとも、生成物の利用に先立って、既存の著作物と類似した生成物になっていないかをインターネット検索などで確認することが求められます。

(2) 「〜風」という指示は避けるべきですか?

作風そのものはアイデアであり、作風が共通するだけでは著作権侵害になりません。なお、特定の作家の名前や作品の題号、キャラクター名をプロンプトに入れた場合は、既存の著作物を認識していたことをうかがわせる事情になり、依拠性が認められやすくなります。

ですから、発注の段階から、プロンプトの書き方について注意を促す必要があります。できれば、入れてはいけないプロンプトの例をマニュアルとして示しておくことが望ましいです。

(3) 法務と制作現場の間で気をつけることは何ですか?

法務のご担当者は生成AIの仕組みに詳しくない、制作を発注する現場のご担当者は法務に詳しくない、ということはよくあります。ですから、両者の間で円滑に意思疎通できる状態を作っておくことが大切です。

(4) 公開後に類似が判明したらどうしますか?

ご相談の中では、公開後に類似のコンテンツの存在が明らかになったタイミングが、最も問題が表面化しやすい場面です。この場合、まずは公開の停止や差し替えを迅速に行い、そのうえで原因の究明に入るべきです。

順序を逆にして、原因を調べている間に公開を続けると、損害が広がるおそれがあります。初動で迷わないためにも、あらかじめ社内で手順を決めておくことをお勧めします。

5 弁護士のサポート

(1) 契約書の見直しはどこから始めればよいですか?

これまでお受けしたご相談では、トラブルが起きてから契約書を見直すという流れが多く見られます。ただ、生成AIがこれだけ普及した現状を考えると、トラブルが起きていない段階で見直しを検討することが望ましいです。

まずは、既存の業務委託契約書のひな形に、受注者に対して生成AIの利用について何らかの義務を定めているかを確認するところから始めてください。

(2) 弁護士に相談すると、どのようなサポートを受けられますか?

生成AIについては、基礎となる知識から社内で共有できていない企業も少なくありません。社内で知識を共有する機会を作るために弁護士にご相談いただくことも、有益です。

生成AIをめぐる法律の議論は流動的です。文化庁の見解も今後改められる可能性がありますので、常に最新のガイドラインや文献を参照して知識を更新していくことが大切です。

弁護士法人みおでは、業務委託契約書の作成やレビュー、社内ルールの整備、公開後に指摘を受けた場合の対応について、企業のご担当者からのご相談を承っております。まずはお気軽にご相談ください。

<Q&Aまとめ>

Q1.代金を支払って発注した制作物の著作権は、当然に自社のものになりますか?

A1.いいえ、そうとは限りません。契約で著作権の譲渡を定めていなければ、著作権は制作した側に残ります。さらに、生成AIが使われた納品物では、そもそも著作権が生じないこともあります。

Q2.AIが作ったイラストに著作権は生じますか?

A2.生じる場合と生じない場合があります。文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」によれば、簡単な指示で生成ボタンを押すだけのものは著作物に当たりませんが、人の創作意図と創作的寄与が認められれば著作物に当たります。

Q3.「著作権を譲渡する」と契約書に書いてあれば十分ですか?

A3.不十分です。著作権法61条2項により、27条と28条の権利を特掲していないと、これらの権利は譲渡した側に留保されたものと推定されます。翻案や二次的著作物の利用に関する権利まで明記してください。

Q4.制作会社に生成AIの使用を認める場合、契約書で何を定めるべきですか?

A4.(1)使用するツールと使用する範囲の申告義務、(2)承諾した範囲で使用すべき義務、(3)機密情報の入力禁止、(4)人が最終確認をすることの義務、(5)類似コンテンツの確認義務、(6)プロンプトの保存と開示の義務、(7)再委託先への同様の義務づけなどが挙げられます。

Q5.公開後に「自社の著作物に似ている」と指摘を受けたら、何から始めますか?

A5.まずは公開の停止や差し替えを迅速に行い、そのうえで原因の究明に入ります。制作過程の記録があれば、経緯の説明がしやすくなります。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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