AI・IoT等の新技術

AI自動運転の法律問題(第2回)

弁護士 石田 優一

 

平成30年8月27日,東京の大手町・六本木間において,実際に乗客を乗せた自動運転タクシーの実証実験が開始されました。つい最近まで近未来の技術と思われていた自動運転が,実用化に向けて,私たちの間近に迫っています。

さて,前回は,私たちが普段自動車を運転する際に様々な高度な判断を行っていること,そして,それをAIによって代替することの難しさについて,説明しました。今回は,現在研究されている自動運転の技術の仕組みについて取り上げたいと思います。


自動運転に求められる基本的な機能とは

さて,自動運転において不可欠な機能とは,何でしょうか。ドライバーは,運転中,目や耳で道路状況や交通規制等の様々な要素を「認識」し,適切な速度や進行方向等を「判断」したうえで,アクセル,ブレーキ,ハンドル等を「操作」しています。AIによる自動運転においては,「認識」,「判断」,「操作」の過程を自動化する必要があります。

AIが「認識」する

まず,自動運転における「認識」から説明していきましょう。

 

道路上を走行する際には,車,歩行者,電柱,街路樹,ガードレール等,様々なものが障害物となります。また,安全な走行のためには,白線の位置の把握や,道路標識の正確な認識も求められます。そのために必要となるのが,高度な画像認識技術です。

ドライバーは,目の前に「何」があるか,どれくらいの「距離」があるかを,瞬時に,かつ,正確に,認識しなければなりません。そのための手法として,ステレオカメラを利用する方法や,レーザー光の反射(ライダー)を利用する方法等があります。

 

ステレオカメラとは,2台のカメラを使って,2つの画像の差異から物との距離や形を認識するものです。人は,2つの目から入ってきた映像から,物との距離や形を認識しています。ステレオカメラは,まさに,人の目と同じ手法を用いています。

 

また,ライダーを利用する方法は,レーザー光を照射して反射光が戻ってくるまでの時間から,物体までの距離等を計測する方法です。

 

多くの自動運転技術においては,ステレオカメラを複数方向に向けて設置したり,ライダーを併用したりして,周辺の状況を正確に把握します。

また,自動運転が頼りにするのは,視覚的な情報だけではありません。人による運転とは異なり,自動運転においては,自動車同士が相互に通信して,走行状況や位置といった情報を交換することが可能です。道路に設置された通信機器から,道路規制情報や交通情報を取得することも可能です。

 

現在の画像認識技術は大きく向上しているものの,それでも,人間の目には及びません。特に,雨天や夜間においては,認識能力が大きく低下してしまいます。自動車同士や道路との通信によって情報を取得する手法は,「目」(カメラ)からのみでは不十分な情報を補完する意味があります。また,自動車同士が情報を交換して協調しあうことで,渋滞や追突事故の防止等を図ることもできます。

 

さらに,それぞれの自動運転車において取得した道路状況の情報を,センターにおいて集約して分析することで,正確な道路地図を作成して自動運転技術の向上に活かすこともできます。

 

これらは,「モノとモノとをインターネットでつなぐ」というIoTを活用した技術です。

 

このように,自動運転の「認識」技術は,視覚的な能力だけで見ればまだまだ人に劣りますが,複数方向からの視覚情報を同時処理できることや,IoTの技術を活用した情報交換によって安全性を確保しうること等は,人よりも優れた面といえます。

AIが「判断」する

次に,認識した情報を用いてどのように「判断」するかについて,説明していきましょう。

 

第1回コラムの中で,ドライバーは,衝突回避を始め,適切な車間距離の確保,交通規制への対応,交差点や分合流における適切なタイミングの選択,人通りの多い場所や天候不良の中での走行における危険予測等,様々な判断をしていることをお話ししました。このような高度な判断について,AIに対し,「このパターンはこうする」「あのパターンはこうする」と1つ1つ指示することは困難です。そのため,自動運転においては,深層学習が必要不可欠となります。

 

深層学習においては,AIが実際に運転を体験しながら,「このパターンはこう運転したらよい」ということを自ら学んでいきます。深層学習とは,人の脳に似たニューラルネットワークの仕組み(ニューラルネットワークについては、ニューラル機械翻訳のコラムで詳しく取り上げています。)をコンピュータ上で表現し,インプットとアウトプットを繰り返しながらAIが自ら学習していくものです。

 

例えば,プロのドライバーが試験車両を運転して,運転のテクニックを学習させることで,いわばAIが教習を受けるように,運転技能を学ばせることができます。また,実際に道路上で車両を運転させる以外に,コンピュータ上で道路を再現してシミュレーションする方法もあります。シミュレーションであれば,実際に試験走行をするには危険性の高い市街地を再現して,危険予測について学習することもできます。

また,自動運転において判断の正確性を実現するためには,高精細な3次元デジタル地図を整備することも重要です。実際に道路上で得たカメラやライダー等の情報と,3次元デジタル地図の情報,GPSで得られた位置情報を併用することで,より安全な自動運転を実現することができます。日本では,ダイナミックマップ基盤株式会社が,このようなデジタル地図の整備事業を行っています。デジタル地図は,実際の自動運転のほか,深層学習のためのシミュレーションにも活用することができます。

 

さらに,デジタル地図の中に,事故・規制情報や,天候の情報,自動運転車から自動的に報告されたヒヤリハット事例の情報等を組み込むことで,危険予測に活用することもできます。

 

AIには,深層学習によって得た学習結果や,デジタル地図の情報等を活用することで,認識した道路状況等の情報をもとに「今,安全な運転のためにどのような操作をすべきか」を的確に判断することが求められます。

AIが「操作」する

最後に,AIが認識・判断をもとに「操作」をする過程について取り上げます。

 

AIは,正確な操作については一般に人よりも優れています。例えば,自動運転であれば,前方車両との車間距離を一定に保ちながら走行したり,正確な速度を維持して走行することが可能です。

 

このような正確な運転は,渋滞発生の解消に資することができます。なぜなら,「ドライバーが上り坂でスピードに落ちているのに気づかず,次第に車間距離が詰まってしまう」ことが,渋滞発生の大きな原因とされていますが,自動運転であればそのようなことを防止できるからです。

自動運転の法律問題とは?

今回のコラムで説明したとおり,自動運転において課題となるのが,正確な「認識」と「判断」です。現状では,完全な自動運転(レベル5)を実用化するレベルにまでは至っていませんが,少なくとも,危険の少ない道路や決められた経路等の条件下で,ドライバー搭乗のもとでの自動運転(レベル3)であれば,実用化の日も近いと思われます。

 

そこで,今後考えていかなければならないのは,自動運転の法律問題です。

例えば,これまで人による運転を想定していた交通法規について,どのように見直しを行うべきでしょうか。

 

また,自動運転が万が一事故を起こしてしまった際,その責任はだれが負うべきでしょうか。そして,そのような事故の発生に備え,保険制度についてどのような見直しが必要でしょうか。

 

さらに,自動運転の誤作動による事故が起きた場合,開発者の責任も問題になります。また,自動運転においては,車同士や車・道路間等での通信も活用されることから,「通信の乗っ取り」を防止するための情報セキュリティマネジメントIoTの情報セキュリティに関するコラムもご参照ください。)も重要になります。

 

次回のコラムでは,自動運転の法律問題について,取り上げたいと思います。

 

-第3回コラムはこちらです-
 
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このコラムを書いた人

弁護士 石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
情報処理安全確保支援士、応用情報技術者の資格を持つ若手弁護士。IT、IoT、営業秘密など、いつでもすぐに、最新の問題に対応するリーガルサービスを提供できるよう、5年先、10年先を読みながら、日々研鑽を積んでいる。
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