AI・IoT等の新技術

AI自動運転の法律問題(第3回)

弁護士 石田 優一

 

第1回第2回のコラムで取り上げたように,AIによる自動運転の技術は飛躍的に進歩しており,最近ではバスやタクシーの公道での試験走行も実施される等,だれもが自動運転を利用できる未来に向けて一歩一歩着実に進んでいます。

そのような中,今後考えていかなければならないのは,自動運転の法的課題です。安全性の確保に関する法制度の在り方,新たな保険制度の導入,自動運転が事故を起こした場合における責任の問題等,自動運転には様々な法的課題があります。


自動運転車の実用化に向けた法改正の動き

自動運転に係る制度整備大綱

平成30年4月17日,政府は,「自動運転に係る制度整備大綱」(以下「大綱」といいます。)を発表しました。その中で,自動運転車の安全確保のための基準・ルールの策定,交通ルールの見直し,開発者の法的責任に関するルールの策定等が,今後の課題として掲げられました。

 

大綱では,日本での自動運転車の実用化に期待することとして,(1)交通事故渋滞発生の防止,(2)観光用移動・送迎といった新しいサービスの創出(3)地方の人々に向けた生活・物流の新サービスによる地方再生等が掲げられています。このように魅力あふれる自動運転車の研究開発を促進し,法律の壁がその足かせとならないようにするために,自動運転に対応した法整備が急務の課題となっています。

 

道路運送車両法

道路運送車両法とは,自動車の安全性を確保するための法律です。国土交通大臣が「保安基準」という技術上の基準を定めており,検査によって保安基準に適合していることが認められていない自動車は,運行の用に供することができないルールになっています。毎年受けなければならない「車検」や,自動車製品に保安基準を満たさない欠陥がある場合にメーカーが行う「リコール」の届出は,この法律に基づいた制度です。

 

平成29年2月,保安基準が改正されて,自動運転車の公道実証実験を可能とするために,安全確保のための装置を備えることや走行ルートを限定すること等の一定条件のもとで,自動運転車の公道走行が可能になりました。また,平成30年3月には,遠隔操作型の自動運転車の公道実証実験を円滑にするために,一定の条件のもとで基準緩和認定を受けられるように見直しが行われました。

 

現在,自動運転車が一般走行を安全に行うためにどのような保安基準の見直しが必要かについて,検討されています。国土交通省が平成30年6月22日に発表した「自動運転車の安全基準ガイドライン案」によれば,自動運転車の安全性を確保するための基準として,既存の保安基準を満たしていることのほか,例えば,次のような機能を有していることが挙げられています。

 

ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)

第1回のコラムで説明したように,現在の自動運転技術では,完全な自動化(レベル5)の実現は難しく,自動運転の継続が難しい場合にすぐにドライバーに運転を交替できる仕組みが不可欠です。そのために,ドライバーが居眠り等をしないように監視し,いざというときには素早くドライバーに警告して運転を交替する仕組みが必要になります。そのような仕組みのことを,ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)といいます。例えば,ドライバーの動作をAIが監視して,居眠り等の疑いがある場合に警告する機能等が研究されています。

 

運行設計領域(ODD)の適切な設定とそれに基づく安全性の確保

自動運転車は,それぞれの性能に応じて,自動運転の得意な環境・不得意な環境が異なります。そのため,その車の性能のもとで自動運転が可能な範囲・条件,つまり,運行設計領域(ODD)を適切に設定する必要があります。そして,設定された運行設計領域の範囲外の条件下では,直ちにドライバーに運転を交替して安全性を確保できる設計である必要があります。

 

サイバーセキュリティ

第2回のコラムで説明したように,自動運転車は,他の自動運転車や道路上の端末,センター等と通信して情報交換することによって,安全運転を実現します。仮に,通信が乗っ取られてしまえば,危険な運転を促す情報が入力されるなどして,交通事故を発生させてしまうおそれがあります。このような事態を防ぐために,サイバーセキュリティの確保が必要です。

 

自動運転システムの作動状況や運転者の状況に関するデータの記録

自動運転システムの作動状況や運転者の状況をデータとして記録・保存しておくことも,安全性を確保するために必要な機能とされています。このようなデータは,実際に交通事故が発生した際や,いわゆるヒヤリハット事例が発生した際に,その原因を検証し,改善に役立てるための資料になると考えられます。

 

道路交通法

道路交通法では,交通規制や運転に関する様々なルール,運転免許制度等を定めています。

 

道路交通法第70条では,ドライバーは,「当該車両等のハンドル,ブレーキその他の装置を確実に操作し,かつ,道路,交通及び当該車両等の状況に応じ,他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」と定められています。

 

現在の道路交通法では,少なくとも,直ちに自動運転からドライバーに運転を交替することが求められていないレベル4以上の自動運転車では,対応ができません。

 

また,直ちに自動運転からドライバーに運転を交替することが求められるレベル3の自動運転車については,交替の指示が出されることなく自動運転が継続されている間に交通事故が発生した場合に,自動運転を解除しなかったドライバーが道路交通法第70条の義務に違反したことになるかが問題になります。

 

このような問題は,現行法が自動運転を想定していないことから生じるものですから,今後,自動運転車の実用化に当たって,法改正が必要となります。特に,近く実用化されることが期待されるレベル3の自動運転車への対応として,自動運転車から運転の交替を求められた場合に直ちに運転を開始しなければならない義務等の明確化が考えられます。

 

また,運転免許制度の在り方,自動運転車の安全を確保するための交通規制や,事故発生時の報告義務や救護義務に関するルールの見直し等,他にも様々な課題があります。

 

※平成30年12月20日,警察庁より,レベル3の自動運転車についてドライバーの義務を緩和し,携帯電話やカーナビゲーションの操作を緊急時以外の運転中に認める改正試案が示されました。なお,レベル4以上の自動運転については対象外です。今後,自動運転技術の向上とともに,レベル4以上の自動運転車についても法改正が進んでいくことが予想されます。

 

 

自動運転車が交通事故を起こしたら誰が責任を負うか

自動運転車のユーザー等の責任

第1回のコラムで,平成30年3月18日にアメリカで起きた自動運転車の交通事故について取り上げました。自動運転車の実用化によって交通事故が減少することは期待されていますが,それでも,事故の発生を完全に防止することは難しいと考えられます。それでは,もし,日本において,自動運転車が人身事故を起こしてしまった場合,ユーザーは法的責任を負うことになるでしょうか。まず,自動車損害賠償保障法をもとに,考えていきます。

 

自動車損害賠償保障法とは

現行法では,自動車の人身事故に対する法的責任について,自動車損害賠償保障法で定められています。この法律では,人身事故に対する運行供用者の法的責任を幅広く課するとともに,自賠責保険への加入義務を定めています。

 

自動車損害賠償保障法第3条によれば,運行供用者(自己のために自動車を運行の用に供する者)は,人身事故(他人の生命・身体を害する事故)による損害を賠償する責任を負います。運行供用者が責任を免れるためには,次の3要件をすべて満たすことを証明しなければなりません(免責要件)。

ア 運行供用者・運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと

イ 被害者・運転者以外の第三者に故意・過失があったこと

ウ 自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと

 

運行供用者

運行供用者とは,自動車の使用についての支配権(運行支配)を有し,かつ,その使用により享受する利益(運行利益)が自己に帰属する者とされています(最判昭和43年9月24日)。判例では,自分の車で飲みに行った後,友人に車の運転を任せて駅まで送ってもらう途中で事故が起きてしまった事案において,運転を任せた者について,(1)事故の防止につき中心的な責任を負う所有者として同乗していたこと,(2)いつでも運転の交替を命じ,あるいは,その運転につき具体的に指示することができる立場にあったことを理由に,原則として運行供用者に当たることを前提とした判断をしています(最判昭和57年11月26日)。また,レンタカー業者について,利用時間や予定走行区域等を貸渡契約で指定し,利用料金を徴収している等の理由から,運行供用者に当たると判断した例があります(最判昭和46年11月9日,最判昭和50年5月29日)。

 

自動運転車においても,自動運転をさせるユーザーは,目的地を指定してAIに運転させることで自動車の運行を支配し,目的地まで移動する利益を享受する地位にあることから,運行供用者に当たると考えられます。また,自動運転のバスやタクシーの場合,レンタカー業者の事例から考えると,サービス提供事業者に運行供用者性が認められると考えられます。

 

免責要件

人の手による運転の場合,交通事故において「運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかった」要件が認められることはほとんどなく,免責要件が問題になることは稀です。では,自動運転の場合はどうでしょうか。

 

AIの求めに応じてすぐにドライバーが運転を開始しなければならないレベル3の自動運転車の場合,自動運転車が運転を開始するように警告しているにもかかわらず運転を開始しなかったことで起きた事故は,多くの場合,「運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかった」要件を欠くことになります。

 

一方,レベル3の自動運転車において,AIがドライバーに運転の開始を警告せずに事故を起こしてしまった場合や,レベル4以上の自動運転車においてAIが判断を誤って事故を起こしてしまった場合は,「運行供用者・運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかった」要件を満たすことになります。もっとも,この場合は,AIが運転の開始を警告する機能や,安全運転のために必要な判断をする機能を欠いていたことになりますから,多くの場合,「自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかった」要件を欠くことになると考えられます。

※もっとも,自動運転システムを担うソフトウェアの障害については,「機能の障害」といえる場合がある程度限定されるのではないか,また,そもそも,どの範囲まで「機能の障害」に含めるべきかという問題があります。この問題は,製造物責任法の「欠陥」要件の説明の中で,後ほど詳しく取り上げます。

 

現行法の問題点

物損事故の場合は,自動車損害賠償保障法が適用されないために,運行供用者の責任を問えない場合が多く生じてしまいます。一般的な不法行為の考え方では,責任者の「過失」(民法709条)が要件となり,AIが起こした事故について運行供用者の過失を認めるのは難しいからです。自動車損害賠償保障法の適用対象を物損事故に拡大すべきかが,今後の課題になると考えられます。

 

一方,現行の自動車損害賠償保障法は,運行供用者の範囲を広く認めすぎではないかという問題もあります。自動運転車の欠陥によって発生した事故についてもユーザーが第一義的な責任を負うのでは,ユーザーが安心して自動運転車を利用することができず,購買意欲を損ねてしまうのではないかという問題があります。

 

自動運転車のメーカーの責任

自動運転車のレベルが向上するにつれて,交通事故の原因は,ドライバーから,自動車自体へと移行していきます。そのため,今後は,交通事故に対する自動車メーカーの責任が問題となります。メーカーは,自動車の欠陥によって発生した人身・物損事故について,製造物責任法に基づく責任(製造物責任)を負います。ここからは,自動運転車の事故についてメーカーがどこまで製造物責任を負うかについて,考えたいと思います。

 

製造物責任の要件

製造物責任は,「製造業者等」(製造・加工者・輸入者等)が,引き渡した製造物の欠陥によって他人の生命・身体・財産を侵害したときに負う損害賠償責任です(製造物責任法第3条)。

 

つまり,ユーザーに引き渡した自動運転車に「欠陥」があり,その「欠陥」によって人身・物損事故が発生した場合,メーカーは製造物責任を負うことになります。

 

製造物責任は,製造業者等が製造物を引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては,欠陥があることを認識することができなかったことを証明した場合は,責任を免れるとされています(製造物責任法第4条第1号)。これを,開発危険の抗弁といいます。もっとも,科学又は技術に関する知見とは,引渡時に入手可能であった最高水準の知見をいうものとされ,製造業者等にとって,その立証は極めて困難なものです。

 

自動運転車の「欠陥」

製造物責任法にいう「欠陥」は,製造物が「通常有すべき安全性を欠いていること」(製造物責任法第2条第2項)と定義されます。

 

自動運転車の場合,一般の自動車とは異なる固有の問題として,ソフトウェアの障害が問題になります。普段使用しているPCやスマートフォンで定期的に「ソフトウェアをアップデートしてください」と表示されるように,そもそも,全くバグのないソフトウェアは,世の中にほぼありません。システム開発紛争でも,システムにバグがあったことをもって直ちに責任を負うものではないという考え方が一般的です。たとえ,自動運転車のソフトウェアのバグが事故原因であったとしても,(1)メーカーが定期的にバグの調査をしてバグの発見後に直ちにアップデートプログラムを提供する体制を講じており,(2)事故原因となったバグが軽微なものであった場合には,「欠陥」にはあたらないという考え方ができます。同様のことは,自動車損害賠償保障法にいう「機能の障害」について考えるうえでも問題になりえます。

 

また,AIが安全な運転方法について誤った学習をしてしまった場合に,どこからが「欠陥」と評価されるかも問題になります。例えば,自動運転における学習の方法として,プロのドライバーによる実際の運転や,シミュレーションで得た結果をデータ化して,深層学習を行う方法があります(第2回コラムの第6章を参照してください)。深層学習は,いわば,1つ1つ人の手で「このパターンはこうする」と教えるのではなく,「どのパターンでどうするか」を経験から慣れさせる方法ですので,得られた学習結果(学習済みモデル)が「通常有すべき安全性」を有しているかどうかを判断するのは容易ではありません。AIが誤った学習をしたことが事故の原因であったとしても,それをもって「欠陥」があったと評価するのは,高いハードルがあると考えられます。同様のことは,自動車損害賠償保障法にいう「機能の障害」について考えるうえでも問題になりえます。

 

現行法の問題点

自動運転車が実用化すれば,自動車メーカーは,これまで以上に,製造物責任を問われるリスクを負うことになります。メーカーは,製造物責任を問われる場合を想定した自衛策を講じることを余儀なくされます。

 

一方,被害者に対して賠償責任を負った運行供用者がメーカーに求償する場面において,現在の製造物責任の要件のもとでは,「欠陥」の立証に大きな負担を強いられる可能性があります。運行供用者は,被害者に対して自動車損害賠償保障法の免責要件の立証責任を負うとともに,メーカーにも製造物責任法の欠陥要件の立証責任を負うことになり,二重の負担を強いられることになります。

 

しかも,「欠陥」の立証のためには,AIについての高度な専門的知見と検証が必要になり,運行供用者にとってあまりにも酷な負担となります。

 

課題を解決するための提案

現行制度のもとでは,自動運転車のユーザーは,人身事故に対して被害者に第一義的な責任を負うことになり,しかも,製造物責任をメーカーに求償する場面においては,「欠陥」要件の立証という酷な負担を強いられることになります。

 

また,被害者も,物損事故においては,自動運転車のユーザーに対する責任追及が難しく,同様に,「欠陥」要件の立証という酷な負担を強いられることがあります。

 

そして,メーカーも,運行供用者や被害者から自動運転車の事故について製造物責任を問われうる状況になることで,紛争のリスクを背負うことになります。

 

ここで,これらの問題を解消するための1つの方法として,次のような法制度を新設することを提案したいと思います。

(1) 自動運転車の人身・物損事故に対する第一義的責任はメーカーが負う。

(2) メーカーは,自動運転車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを立証できない限り,責任を免れないものとする。

※もっとも,「機能の障害」について,自動運転において主な原因になりうると想定されるソフトウェア障害の場合には,ある程度限定的にしか認められないのではないかという問題があります。例えば,メーカーの免責要件について,現行の自動車損害賠償保障法の免責要件よりも厳格な要件を設定することも考えられます。その場合,メーカーに酷な責任を負わせる結果とならないように,(3)の保険制度を充実させる必要があります。

(3) メーカーが負うべき責任について新しい保険制度を創設し,自動運転車の開発に参入したすべてのメーカーが共同で保険料を拠出する(このような仕組みは,医薬品の副作用被害を救済する制度において導入されています)。

 

さらに,各メーカーの事故発生率に応じて保険料を変動させることで,安全性向上のための研究を促進させるような制度設計も考えられます。また,道路運送車両法に基づいて,高度な安全基準を満たした自動運転車を国が認定する制度を創設し,認定車の開発メーカーの保険料を減額する制度を導入する等の取組みも考えられます。

 

このような制度は,メーカーにとっては,新しい保険料の負担が生じてデメリットが大きいように見えます。しかし,このような制度によってユーザーの購買意欲を促進し,また,自動運転車が社会からより受け入れられやすくなることで,長期的な視点で見れば,メーカーにとっても大いにメリットがある制度となるのではないかと思います。

 

おわりに

今回のコラムでは,自動運転車の交通事故について,「予防」と「解決」という2つの観点から法律問題を考えました。道路運送車両法や道路交通法の見直しによって交通事故を「予防」し,また,自動車損害賠償保障法や製造物責任法に基づく賠償制度の見直しと新しい保険制度の創設によって交通事故の問題を「解決」していくことが,今後の自動運転車の普及のために重要な課題になると考えます。

 

今後,自動運転車が普及していけば,これまで想定されなかった様々な法的課題が生じるものと思われます。自動運転の法律問題については,今後の動向に着目していきたいと思います。

 
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このコラムを書いた人

弁護士 石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
情報処理安全確保支援士、応用情報技術者の資格を持つ若手弁護士。IT、IoT、営業秘密など、いつでもすぐに、最新の問題に対応するリーガルサービスを提供できるよう、5年先、10年先を読みながら、日々研鑽を積んでいる。
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