システム・アプリ関連紛争

アプリを企画する前に知っておきたい法律知識

弁護士 石田 優一

コラムのご紹介

今回のコラムのテーマは,スマートフォン等のアプリを企業が企画する際に,あらかじめ知っておくべき法律知識です。アプリには,個人情報保護法,特定商取引法,資金決済法等,消費者法をはじめとする様々な法規制が適用されます。このような法律の知識がないままにアプリの企画を進めてしまうと,「せっかくアプリが完成したのに販売できない」という事態になりかねません。ぜひ,新しいアプリを企画する前に,このコラムをご一読ください。


スマートフォンの普及でアプリ市場は成長の一途

「インターネット・携帯電話の時代」から「スマートフォンの時代」へと進展を遂げ,さらに,「IoT時代」へと突入しつつある現在,スマートフォンは社会全体に広く普及し,私たちの生活に欠かせないものとなっています。その流れで,現在,成長の一途をたどっているのが,アプリ市場です。

 

スマートフォン経済の発展の推移

(総務省「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究」(平成29年)より)

 

ニュースアプリ・ソーシャルゲーム・フリマアプリ等々,現在インターネット上で普及しているアプリは多種多様で,大規模な市場を形成しています。IoT時代への突入によって,アプリは一層多様化していくことが予想されます。

アプリの提供者は,民間企業だけではありません。例えば,神戸市では,平成30年3月から,「KOBEそなえとう」という防災アプリを公開しています。また,神戸市は,以前から,市の提供するオープンデータを活用したアプリの開発を推進する取組みをしています。いまや,アプリは,企業だけではなく,国・地方自治体・大学等,様々な団体にとって,重要なツールとなっています。

 

今後,企業にとって, アプリ市場に参入することは,大きなビジネスチャンスとなり得ます。アプリの企画主体は,もはやIT企業だけではありません。すべての業種の企業,自社でこれまで培ってきたノウハウを活かして,アプリ市場に参入するチャンスを有しています。

 

そこで,このコラムでは,アプリを企業が企画する際にあらかじめ知っておくべき法律知識を取り上げます。個人情報保護法,特定商取引法,資金決済法等々,アプリにかかわる法律は様々で,これらの法律について検討をしないままにアプリ開発を進めてしまうと,「せっかくアプリが完成したのに販売できない」という事態に陥ってしまうかもしれません。

 

個人情報の保護に関する法規制

アプリと個人情報

スマートフォンから取得することができる個人情報は,電話帳データやGPSの位置情報をはじめ,多種多様です。アプリにおいて,利用者の個人情報を取得したり,その個人情報を利活用したりする場合には,個人情報保護法違反とならないように,気をつけなければなりません。

 

また,アプリ利用者からの安心を得るためには,「プライバシーポリシー」を作成して個人情報の取扱いのルールを明確化することも必要です。

 

IoTでは,スマートフォンから利用者の様々な個人情報を取得してサーバーに集積し,ビックデータとして利活用することも想定されます。アプリと個人情報との関係性は,一層密接なものとなっています。

 

個人情報とは?

「個人情報」(法2条1項)は,個人情報保護法において定義されていますが,平成29年5月30日の法改正で,新たに,「個人識別符号」が個人情報に含まれることが明示されました。

 

簡単にいえば,個人情報とは,特定の個人(生存している人に限ります。)を識別することができる情報のことで,氏名,生年月日,顔写真等,様々なものが含まれます。また,個人識別符号とは,顔認証・指紋認証・虹彩認証・声紋認証等のデータや,運転免許証・健康保険証等の番号のことをいいます(法2条2項)。

 

例えば,アプリにおいて生体認証を実装する場合には,認証用データ自体が個人情報となることに注意が必要です。

 

一般的な個人情報についてのルール

個人情報を取り扱う場合には,原則として,利用目的を特定し(法15条),その利用目的の達成に必要な範囲で取り扱わなければなりません。また,利用目的については,公表等を行う必要があります(法18条1項)。プライバシーポリシーに取り扱う個人情報とその利用目的を明記し,公表する方法が一般的です。

 

例えば,スマートフォンから位置情報を取得して,現在地の観光情報を表示するアプリであれば,「現在地の観光情報の表示のために位置情報を利用する」旨をプライバシーポリシーに明記しておくべきです。

 

また,アプリで個人情報を入力するフォームを表示して個人情報を取得する場合は,利用目的を「あらかじめ明示」しなければなりません(法18条2項)。個人情報の利用目的を表示して,「承諾」ボタンを利用者が押した後に入力フォームを表示する仕様等が考えられます。

 

この他にも,個人情報保護法には,個人情報に関する様々なルールが定められています。

 

要配慮個人情報

平成29年改正で,個人情報保護法に,新しく「要配慮個人情報」のルールが追加されました。要配慮個人情報とは,個人情報の中でも不当な差別,偏見その他の不利益につながらないように取扱いに特に配慮を要するもので,具体的には,身体障害・知的障害・精神障害の情報,医師の検査結果・診療情報等が挙げられます(法2条3項)。

 

要配慮個人情報は,原則として,本人の同意がなければ取得することができません(法17条2項)。今後,医療ビッグデータの利活用が期待されており,通院歴や処方薬等の情報を管理するアプリを無償提供し,その情報を集積して医療ビッグデータ化する活用方法も想定されます。このような場合,情報の提供範囲や利用目的を明示したうえで,アプリ上で本人の同意を得る必要があります。

 

その他の問題

個人情報に関連した問題として,例えば,利用者が写真を投稿できるアプリで,利用者の投稿した写真が他人のプライバシーや肖像権を侵害するものであった場合に,アプリ提供者がどのように対応すべきかという問題があります。

 

このような問題に迅速・的確に対応するためには,プロバイダー責任制限法を踏まえて,利用規約に「他人のプライバシー・肖像権を侵害する画像が投稿された場合の措置」についてのルールを明記しておくべきです。

 

アプリの販売や課金機能等に関する法規制

概要

有料アプリは,自社サイトや,Google PlayApp Store 等のプラットフォームを通じて販売することが一般的です。このような販売方法は,通信販売に該当することから,いわゆる「ネット通販」と同様に特定商取引法が適用されます。アプリ内に課金機能を設けて,コンテンツやアイテムをアプリ内で購入することができる場合も同様です。

 

また,アプリ内に課金機能を設ける場合,アプリ内であらかじめコイン(仮想通貨)を購入して,アプリ内で使用できるようにした場合,「前払式支払手段」に該当し,資金決済法が適用される可能性があります。

 

特定商取引法

事業者が,インターネットのサイト上に有料アプリを掲載して販売する場合や,アプリ内に課金機能を設ける場合には,通信販売に該当するため,特定商取引法が適用されます。

 

具体的には,広告に一定事項を掲載する義務があります(法11条)。アプリの販売等の場合,「特定商取引法に基づく表示」というページや項目を設けることが一般的です。具体的には,次のような内容を記載します。

 

  ア 事業者の氏名・名称,住所,電話番号

  イ (法人の事業者の場合)代表者・責任者の氏名

  ウ 販売価格や代金の支払時期・方法

  エ サービスの提供期間

  オ 申込みの有効期限があるときはその期限

  カ 代金以外に負担すべき金銭(ダウンロードの通信費等)

  キ (アプリ販売の場合)動作環境(対応OSのバージョン等)

  ク 年齢制限や支払方法の制限といった提供条件があるときはその内容

  コ (電子メールで広告する場合)事業者のメールアドレス

 

資金決済法

時々見かける「資金決済法に基づく表示」とは?

アプリの課金機能は,あらかじめアプリ内だけで使えるコイン(仮想通貨)を購入して,コインでコンテンツ・ゲームアイテム等を購入する仕様になっていることがよくあります。

 

このようなアプリ内だけで使えるコインのうち,有効期限が発行後6か月を超えているもの(法4条2号,令4条2項)には,「自家型前払式支払手段」(法3条4項)として資金決済法が適用されます。

 

自家型前払式支払手段を発行する者は,毎年3月末,9月末の基準日に未使用残高が1000万円を超える場合,財務局長に届出をしなければなりません(法5条1項)。

 

自家型前払式支払手段を発行する者は,届出義務がある場合に限り,利用者に次の情報を提供しなければなりません(法13条1項)。「資金決済法に基づく表示」というページや,当該表示をしたウェブページへのリンクを,アプリ内に設ける方法が一般的です。

 

  ア 発行者の氏名,商号,名称

  イ コインの購入限度額

  ウ コインの有効期間

  エ 苦情・相談に応じる営業所等と連絡先

  オ コインを使用することができる場所の範囲

  カ コインの利用上の注意

  キ コインの未使用残高を知る方法

  ク コインの利用についての約款や説明書

 

なお,資金決済法に基づく届出をした場合,「資金決済法に基づく表示」のほかに,「特定商取引法に基づく表示」をする必要はありません。

 

資産を保全するための義務

自家型前払式支払手段を発行する者は,毎年3月末,9月末の基準日に未使用残高が1000万円を超える場合,未使用残高の2分の1以上の額を供託する等の方法で,資産を保全しなければなりません(法14条1項)。

 

これは,自家型前払式支払手段を発行した者が万が一破綻してしまった事態に備える意味があります。

 

払戻しの制限

資金決済法では,コインの払戻しについて,業務を廃止する場合等(法20条1項)のほか,原則として禁止しています(同条5項)。ただし,少額の払戻しや,コイン保有者のやむを得ない事情で利用が著しく困難になった場合に限って,例外的に払戻しを認めています。業務を廃止する場合等の払戻しは義務です。

 

もっとも,コイン保有者の事情でコインが利用できなくなった場合に払戻しに応じるかどうかはあくまで任意ですので,「サービスの廃止以外の理由では一切コインの払戻しに応じません」という対応もできます。

 

その他の義務

その他,自家型前払式支払手段を発行する者には,情報の安全管理情報セキュリティマネジメント,法21条)や,帳簿書類の作成・保存(法22条),報告書の提出(法23条)等が義務づけられています。

 

無料で発行したコインについて

自家型前払式支払手段となるコインは,有料で保有者が購入したものに限られ,無料で発行したものには資金決済法が適用されないのが原則です。

 

ただし,有料発行のコインと無料発行のコインがアプリ内で混在して区別できない場合は,無料発行のコインにも資金決済法の適用対象になるとされています。このようなことを防ぐためには,アプリ内で有料発行のコインと無料発行のコインを区別して表示する等の工夫が必要です。

 

インターネットオークション・フリマアプリに関する法規制

概要

最近,「インターネットオークション」「フリマアプリ」(フリーマーケットアプリ)という,個人間で気軽に商品を売買できるアプリが流行しています。

 

個人間の売買であったとしても,出品数が多い等の一定の条件のもとでは,出品者に特定商取引法消費者契約法が適用される可能性があります。

 

また,インターネットオークションやフリマアプリでの販売商品に中古品が含まれる場合,古物営業法の適用も問題になります。

 

特定商取引法

出品者に特定商取引法が適用される場合について

一定数・一定金額以上の出品数がある出品者は,たとえ個人であったとしても,特定商取引法の販売業者として扱われます(「インターネット・オークションにおける「販売業者」に係るガイドライン」)。

 

ガイドラインによれば,例えば,次のようなケースにおいて「販売業者」に該当するとされています。

 

  ア 過去1か月に200点以上又は1時点に100点以上を新規出品しているケース(処分・交換目的で趣味の収集物や中古音楽CD等を出品する場合を除く。)

  イ 落札額合計が過去1か月に100万円以上である場合(自動車・絵画・骨董品・ピアノ等の高額商品を除く。)

  ウ 落札額合計が過去1年間に1000万円以上である場合

 

特定商取引法に基づく表示

出品者に特定商取引法が適用される場合には,「特定商取引法に基づく表示」をしなければなりません。表示すべき内容については,特定商取引法の場合とおおむね共通していますが,商品売買の場合は,(1)買主に法定返品権があるかどうかや,(2)売主が瑕疵担保責任を負うかどうかについても表示しなければなりません。

 

アプリ運営者は,出品者に特定商取引法が適用される可能性がある場合,出品者が「特定商取引法に基づく表示」を容易にできる仕様をアプリに設けておくことや,アプリ内に分かりやすい説明を設けること等の工夫が必要です。

 

法定返品権

特定商取引法においては,商品の通信販売において,買主に商品受領日から8日間に限って,売買契約を解除する権利(法定返品権)を認めています(法15条の2第1項)。

 

法定返品権を特約で排除するためには,「特定商取引法に基づく表示」にその旨を表示するだけではなく,最終申込み画面においても改めて表示しなければなりません。具体的な表示方法については,「通信販売における返品特約の表示についてのガイドライン」に詳しい説明があります。

 

アプリ運営者は,購入者の法定返品権を特約で排除しないのであれば,法定返品権について出品者が理解できるように分かりやすい説明を設ける必要があります。また,法定返品権を特約で排除するのであれば,アプリの仕様について,「通信販売における返品特約の表示についてのガイドライン」に準拠した表示が出るようにしておく必要があります。

 
瑕疵担保責任

売主が引き渡した商品に「隠れた瑕疵」がある場合,買主は,売主に対して,瑕疵担保責任に基づいて契約解除や損害賠償請求等の主張をすることができます(瑕疵担保責任,民法570条)。「隠れた瑕疵」とは,例えば,商品にキズや不具合等があることをいいます。

民法改正により,「隠れた瑕疵」は「引き渡された目的物が・・・契約の内容に適合しない」という文言に改められる予定ですが,このコラムでは改正前の民法の規定に従って解説しています。

 

瑕疵担保責任は,特約で排除することができます(民法572条)が,その旨は「特定商取引法に基づく表示」で明示しなければなりません。このような特約を「ノークレーム・ノーリターン」特約ということもあります。ただし,出品者がキズや不具合等を知って出品した場合には,特約による免責は認められません。

 

また,たとえ個人の出品者であったとしても,多数の商品を継続的に出品する等して「事業」をしていると評価される場合,消費者契約法が適用されることがあります。この場合,「ノークレーム・ノーリターン」特約によって,完全に責任を免れることはできません(消費者契約法8条,8条の2)。

 

古物営業法

インターネットオークションの場をアプリで提供する運営者は,古物営業法にいう「古物競りあっせん業者」(法2条5項)に該当しえます。バナー広告による場合も含み,何らかの収益を得る場合には,営業開始から2週間以内に,都道府県公安委員会への届出を行わなければなりません(法10条の2第1項)。

 

さらに,単に場を提供しているだけではなく,売買自体に関与している場合には,「古物営業」(法2条2項)に該当することがあります。その場合は,都道府県公安委員会の許可が必要になります(法3条1項)。

 

また,出品者が,中古品の転売を行う「せどりビジネス」をしている場合等は,出品行為が「古物営業」に該当することがあります。アプリ提供者は,アプリ内において,このような行為には古物営業法に基づく許可が必要であることを分かりやすく出品者に説明する配慮が必要です。

 

アプリを開発・提供する前に知っておかなければならないこと

アプリを企画する際には必ず法律を知るべし

今回のコラムで取り上げた法律は,アプリの開発・提供にかかわる法律のごく一部に過ぎません。

 

例えば,アプリをインターネットで販売する場合,特定商取引法や景品表示法の広告規制に気をつけなければなりません。

 

また,取り扱う商品の種類によっては,医薬品医療機器等法(医薬品・医薬部外品・化粧品等),食品衛生法(食品),旅行業法(旅行)等,様々な業法がかかわることがあります。

 

他にも,プロバイダー責任制限法商標法著作権法等,今回取り上げなかった様々な法律がかかわってきます。

 

アプリを企画する段階から,かかわる可能性のある法律についてよく検討したうえで,各法の規制に即した仕様にしなければなりません。

 

プラットフォームを通じてアプリを提供する場合には規約も知るべし

Google PlayApp Store 等のプラットフォームには,それぞれ,独自のデベロッパー規約が定められています。プラットフォームを通じてアプリを提供することを予定している場合には,企画段階から,開発予定のアプリがデベロッパー規約に違反するおそれがないかどうかを検討する必要があります。

 

たとえ法律に違反する点がなくても,デベロッパー規約に違反していれば,予定していたプラットフォームで販売できなくなるおそれがあります。

 

アプリの利用規約はコピペすべからず

アプリの利用規約を策定する際にしばしばアプリ提供者が行ってしまうのが,似たようなアプリをインターネットで探して,一部の文言を修正してそのまま利用規約にしてしまう,いわゆる「コピペ」です。

 

このような方法は,アプリの提供を開始してから,大きなトラブルを招く原因になりますので,絶対に避けるべきです。なぜなら,本来,アプリの利用規約は,アプリの仕様や,予定される用途,想定される利用者,今後サービス内容を変更する可能性等,様々な個別的事情を考慮して作成しなければならないからです。

 

困った際はすぐに弁護士に相談すべし

企画しているアプリにどのような法律がかかわるかを検討することや,アプリの利用規約を作成することは,とても労力を要することです。そこで,ぜひ活用していただきたいのが,弁護士の法的サポートです。

 

このような法律的問題は弁護士の手に委ねてしまい,アプリの開発と販売戦略の検討に専念したほうが,企業にとって能率的です。新しいアプリの開発を検討されている企業様は,ぜひ,当事務所にご相談ください。

 

 
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このコラムを書いた人

弁護士 石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
情報処理安全確保支援士、応用情報技術者の資格を持つ若手弁護士。IT、IoT、営業秘密など、いつでもすぐに、最新の問題に対応するリーガルサービスを提供できるよう、5年先、10年先を読みながら、日々研鑽を積んでいる。
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