離婚問題

明石市の養育費保証事業から考える養育費不払の問題

更新:平成30年10月31日

弁護士 石田 優一

 

このコラムでは,明石市で平成31年1月からスタートする予定の養育費保証事業をテーマにあげて,養育費不払の問題と今後の課題について考えます。離婚の際に養育費の支払を取り決めても,相手から養育費をきちんと受け取ることができないケースは多々あり,社会問題になっています。養育費保証事業は,全国初の試みで,養育費不払の問題を抱える世帯を救済する画期的な制度です。なぜ,このような保証事業を自治体レベルで始めなければならないかを考えていくと,養育費に関する現行制度の問題が見えてきます。

※更新情報※
(1)平成30年11月1日から同年12月28日まで希望者を募集して(希望者多数の場合は抽選,対象者数18人,すでに養育費を取り決めている市民も対象に含まれます。)平成31年からスタートすること,(2)モデル事業として3年間実施してから,その後の継続について検討することが,平成30年10月30日の明石市長の記者会見で公表されました。それに合わせて,一部内容を変更いたしました。


明石市の養育費保証事業

先日,明石市が,元配偶者と離婚後の子どもの養育費を支払うことで合意したにもかかわらず,元配偶者が養育費を支払ってくれない場合に,養育費の一部を立替払する事業を始めることが報じられました。このような支援制度が導入されるのは,全国で初めてのことです。

 

これまでの報道や明石市長の記者会見の内容によれば,立替払の対象になるのは,調停や公正証書で養育費について合意していた場合で,月5万円(年60万円)を上限に,市の委託する保証会社が,未払養育費の立替払を行います。立替払分は,保証会社から,元配偶者に対して請求されます。平成30年11月1日から同年12月28日まで希望者を募集のうえ(応募多数の場合は抽選),平成31年から3年間にわたってモデル事業として導入され,その結果を踏まえて,制度の継続について検討されるとのことです。

 

調停において,養育費は月5万円を超える額で取り決められるケースも多いことから(養育費の相場額については,裁判所の公開する養育費・婚姻費用算定表をご参照ください。),必ずしも完全に未払養育費が補てんされるわけではありません。ただ,これまで養育費の未払に対して自分で法的手段を採って回収する方法しかなかったことを考えると,画期的な制度といえます。

 

協議離婚において養育費の立替払を受けるためには

明石市の新しい制度に基づいて,協議離婚において養育費の立替払を受けるためには,養育費の支払について公正証書での取決めをしておかなければなりません。

 

例えば,夫婦で離婚協議書を2通作成して,それぞれに夫婦双方が押印するような方法も,一般に養育費の取決め方法として用いられてはいますが,このような方法では立替払の対象にはなりません。

 

公正証書は,当事者同士で離婚条件を話し合って作成した書面を公証役場に持参することで,弁護士を利用せずに作成することも可能です。ただ,このような方法では,作成した内容で問題ないか不安が残ってしまいますので,弁護士書面作成依頼したり,相談したりすることが一般的です。

 

なぜ養育費の保証が必要なのか

明石市が養育費の保証事業を始めた理由には,現在,養育費の不払が社会問題になっている背景があります。

 

厚生労働省の平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告によれば,離婚時に養育費の取決めをした母子世帯のうち,養育費を受けたことがない世帯が17.1%,養育費を過去に受けたことがあるが現在は受けていない世帯が25.7%に上ります。このような統計からも明らかなように,養育費を取り決めたにもかかわらず,現実には全く支払わないケースや,初めは支払があったが,次第に支払がなくなっていくケースはしばしばあります。

 

例えば,配偶者が離婚を強く希望していたケースで,いったんは離婚協議をまとめるために養育費の支払に応じ,いざ離婚が成立してからは一転して養育費の支払を拒絶することがあります。また,初めのうちは養育費を払っていたが,再婚等の生活状況の変化をきっかけに養育費を支払わなくなるケースもあります。

 

養育費の不払に対しては,法的手段による回収が可能です。特に,調停で養育費の支払を合意した場合や,公正証書において「直ちに強制執行に服する」との条項(強制執行認諾文言)を定めていた場合は,訴訟をしなくても,強制執行によって回収することが可能です。とはいえ,実際に強制執行の手段に出るには,ハードルがあります。

 

強制執行による養育費の回収

強制執行の方法

強制執行は,裁判所に申立てを行って,法的手続に則って債権を回収する方法です。養育費についての強制執行の方法には,大きく分けて,直接強制による方法と,間接強制による方法の2つがあります。いずれの方法の場合も,調停調書・公正証書等の必要書類を添付して,裁判所に申立てを行います。

 

直接強制の場合

直接強制とは,相手の財産を差し押さえて,債権を回収する方法です。勤務先の給与預貯金口座に対する差押えを行うように申し立てることが一般的です。

 

ただ,直接強制の場合,相手の財産を特定して申し立てなければならない問題があります。例えば,勤務先の給与を差し押さえようとしても,すでに離婚時とは勤務先が変わっていて,特定ができないことがあります。また,預貯金口座については,原則として銀行支店の特定までが必要になりますが,どの支店に口座を持っているかを特定できないことがあります。

 

特に,離婚して間がないころは養育費の支払があったが,途中で養育費が支払われなくなってしまったようなケースでは,すでに相手の生活状況が大きく変化しており,勤務先や預貯金口座の特定が困難なことがよくあります。

 

間接強制

間接強制は,「相手が養育費を支払うまでの間,1日あたり・・円を支払え」ということを裁判所が命じて,相手を「払わないといけない」という心理にさせる方法です。直接強制の場合とは異なり,勤務先や預貯金口座といった財産の特定が困難な場合でも使える方法です。とはいえ,相手が,裁判所の命令を無視して支払に応じない場合は,やはり,財産を特定するほかに有効な方法はありません。

 

財産開示手続

公正証書で養育費を取り決めただけでは使えない制度ですが(民事執行法197条1項),調停で養育費を取り決めた場合には,財産開示手続を使うことができます。

 

財産開示手続の申立てがあった場合,裁判所は,相手を出頭させて,財産の開示をするように求めたり,申立人から相手に対して質問をさせたりすることで,相手の財産を明らかにしようとします。期日への不出頭や,期日での虚偽陳述・陳述拒否に対しては,30万円以下の過料という制裁が課せられます。

 

財産開示手続は,相手に「裁判所に呼び出された」「財産を開示しなければ過料に処せられる」という一定の心理的圧力を与え,財産の開示を促す効果はあります。もっとも,過料は刑事罰ではなく,制裁として大きいものともいえないため,財産開示手続の申立てをしても財産を明らかにすることができないことは,現実にあります。

 

強制執行の問題点

養育費の回収は,法律上は強制執行によって可能ではありますが,現実には,財産を自らで特定しなければ効果的な手段を講じにくいというハードルがあります。

 

また,調停によって養育費を取り決めていた場合には,財産開示手続によって相手の財産の特定を試みる方法はありますが,すでにご説明したとおり,功を奏しないこともあります。

 

養育費の保証の必要性

任意の支払に応じない相手から養育費を回収するには,強制執行の方法によるほかありません。ただ,実際に自分だけで手続を進めるのはとても大変なことで,現実的には,弁護士に依頼して進めざるを得ない場合が多いです。とはいえ,養育費の不払によって生活が困窮している中で,弁護士に依頼するというのは,経済的になかなか難しいのが現実です。

 

また,間接強制にしても,財産開示手続にしても,相手に心理的圧力を与えて,相手を自発的に養育費を支払わせる方向に誘導する側面が大きく,相手に全く養育費を払う意思がなく,かつ,相手の財産を把握することが困難な場合には,なかなかうまくいかないのが実状です。

 

このような現実を考えると,養育費を立替払する制度は,画期的で,かつ,今後広く普及させていく必要のあるものといえます。

 

財産開示制度についての法改正の動き

現在,法務省の法制審議会(民事執行法部会)では,財産の開示に関する制度の見直しについて議論が進められています。

 

平成30年8月31日に決定された「民事執行法制の見直しに関する要綱案」には,次のような案が示されています。

 

財産開示手続の見直し

財産開示手続について,現在は対象外とされている「公正証書で取決めがなされている場合」も,対象に含めることが検討されています。あわせて,出頭拒否や陳述拒否,虚偽陳述等に対する罰則を強化することも検討されています。

 

第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の新設

また,財産開示手続とは別の制度として,「第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度」の新設が検討されています。

 

相手の勤務先に関する情報

裁判所が,市町村に対して市町村民税の事務で得た情報を提供するように命じたり,日本年金機構等に対して厚生年金保険の事務で得た情報を提供するように命じたりすることができる制度が検討されています。このような制度ができれば,多くのケースにおいて,相手の勤務先の把握が可能になると考えられます。

 

相手の預貯金口座に関する情報

裁判所が,金融機関等に対して情報の提供を命じることができる制度が検討されています。このような制度ができれば,これまでは相手の銀行口座を把握できなかったケースにおいても,強制執行が容易になると考えられます。

 

相手の不動産に関する情報

裁判所が,登記所に対して相手が所有名義人となっている不動産の登記情報を提供するように命じることができる制度が検討されています。これによって,不動産の差押えが容易になります。もっとも,養育費の回収のために不動産差押えを試みるケースは,現実にはあまりありません。

 

法改正による効果

以上のような制度が実現すれば,これまでよりも養育費の回収が容易になります。とはいえ,このような制度を弁護士に依頼することなく進めることは,おそらく容易ではないと思われます。やはり,養育費不払問題を根本から解消するためには,養育費保証事業のような制度設計が必要になります。

 

おわりに

明石市の養育費保証事業は,現在の養育費不払問題の現状を考えると,画期的であり,かつ,他の地域にも必要な制度であると思います。今回の明石市の試みをきっかけに,他の自治体,ひいては国レベルの施策として,このような取組みが広がっていくことを期待します。

 

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このコラムを書いた人

弁護士 石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
情報処理安全確保支援士、応用情報技術者の資格を持つ若手弁護士。IT、IoT、営業秘密など、いつでもすぐに、最新の問題に対応するリーガルサービスを提供できるよう、5年先、10年先を読みながら、日々研鑽を積んでいる。
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