労災

長時間労働・過重労働による労災事件の争い方1(脳血管疾患・心臓疾患と過労死編)

弁護士 石田 優一

 

長時間労働や働きすぎによって、病気になったり、過労死してしまったりする事例は、昔から後を絶ちません。もし自分が、身近な家族が、病気になったり、命を失ったりしてしまったときに、労災保険の手続から会社との訴訟まで労災事件をどう争うか、徹底解説いたします。また、このコラムは、長時間労働対策を考える経営者の方にもお役立ていただけるものです。


第1章 はじめに

「働き方改革」という言葉が流行語になり、長時間労働は多くの企業にとって重要な課題の1つになっています。しかし、いまだに、長時間労働による労災事件は後を絶ちません。

もし、自分自身や、身近な家族が、働きすぎで病気になってしまったり、命を失ったりしてしまったとき、いったいどうすればよいでしょうか。会社に相談しても、どこまで対応してもらえるか分かりません。もし、長時間労働による労災のことでお困りでしたら、はじめにこのコラムをお読みください。

また、このコラムは、労働者の方だけではなく、経営者の方にも(むしろ経営者の方にこそ)ぜひお読みいただきたいです。なぜなら、労災のことをきちんと知っておくことは、長時間労働対策の重要性を知るうえで大切だからです。

なお、長時間労働による精神疾患や過労自殺のケースについては、こちらのコラムをお読みください。

 

第2章 長時間労働による脳血管疾患・心臓疾患と過労死の問題

1 脳血管疾患・心臓疾患とは

脳血管疾患とは、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症のことです。これらの病気は、脳内の血管が破れたり、つまったり、あるいは血圧が急上昇することで起きるものです。後ほど詳しく取り上げますが、脳に後遺障害を残したり、最悪の場合は過労死の原因になったりするものです。

 

脳の病気の違い

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また、心臓疾患とは、心筋梗塞・狭心症・心停止・解離性大動脈りゅうのことです。これらの病気は、心臓の血管がつまったり、心臓とつながる血管である大動脈が破れたりすることで起きるものです。これらの病気は、心臓などに後遺障害を残したり、最悪の場合は過労死の原因になったりするものです。

 

心臓の病気の説明

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2 脳血管疾患・心臓疾患と長時間労働との関係

医学的に、長時間労働は、脳血管疾患・心臓疾患の原因になるものとされています。原因が完全に解明されているわけではありませんが、働きすぎによるストレスと、睡眠不足が、これらの病気を引き起こしていると考えられます。実際、労働時間が長く、睡眠時間が少ない人は、そうでない人と比べて、これらの病気を発症してしまうリスクが高いことを示す統計があります。

 

 

働きすぎによるストレスと睡眠不足が、脳血管疾患・心臓疾患につながる1つの原因といわれるのが、自律神経の乱れと、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌量の増加です。これらのせいで、血圧の上昇や血管の収縮、心拍数の増加、血糖値の上昇などが起きて、血管がつまったり、破れたりする病気につながったりするものと考えられています。

平成16年版厚生労働白書には、次のような研究内容が報告されています。

 

・睡眠時間6時間未満→狭心症・心筋梗塞になる率の上昇
・睡眠時間5時間以下→脳・心臓疾患の発症率上昇
・睡眠時間4時間以下→冠動脈性心疾患による死亡率が睡眠時間7時間以上8時間未満の約2倍

 

例えば、1日6時間を仕事・睡眠以外の時間に使うとします。1ヶ月に4週間、1週5日間働くと考えます。法定労働時間(労働基準法で決まっている労働時間の上限)は1日8時間ですから、それを超える労働時間が残業時間になります。

この例で、仮に、毎日12時間働いたとすると、1日の残業時間は4時間、1月の残業時間は80時間になります。この場合の睡眠時間は6時間です。同じように考えると、1月の残業時間が100時間の場合は睡眠時間が5時間、1月の残業時間が120時間の場合は睡眠時間が4時間となります。

このように考えると、1月の残業時間が80時間を超えることと、脳血管疾患・心臓疾患との関係が見えてきます。

 

3 過労死ラインとは

脳血管疾患・心臓疾患は、最悪の場合、突然死などの死亡原因になるものです。長時間労働が原因となって脳血管疾患・心臓疾患を発症し、死亡することを、一般に「過労死」といいます。

2019年4月(中小企業については2020年4月)に施行した改正労働基準法で、新たに、時間外労働時間と休日労働時間の合計を1か月100時間未満とし、かつ、2か月から6か月までの各平均80時間以内にしなければならないことが決められました。この「80時間」「100時間」は、一般に「過労死ライン」と呼ばれています。

先ほど説明したように、1月の残業時間が80時間を超えると、脳血管疾患・心臓疾患を発症するリスクが高くなってしまいます。「80時間」「100時間」を過労死ラインというのは、このような考え方に基づいています。

ただし、気をつけなければならないことは、1月の残業時間が80時間以内であれば、脳血管疾患・心臓疾患になったり、過労死に至ったりすることはないという意味ではないことです。過労死ラインは、「ここまでは残業しても大丈夫」という基準ではありません。

過労死ラインとは、「そのラインを越えて働いていたならば、長時間労働が病気・死亡の原因である可能性が高い」ということです。

 

 

例えば、たとえ1月の残業時間が80時間以内であったとしても、毎日のシフトが不規則で睡眠の質が落ちてしまうと、脳血管疾患・心臓疾患になってしまうおそれがあります。

ですから、「私は過労死ラインほど働いていないから、労災では争えないな」と決めつけてはいけません。仕事上のストレスや睡眠不足につながる特別な原因がなかったかを踏まえ、労災の可能性を慎重に検討する必要があります。

 

4 大切なポイント

「長時間労働が過労死の原因になること」は広く知られることですが、「なぜ長時間労働が過労死の原因になるのか」は、あまり知られていません。過労死の原因について理解しておけば、いざ自分や家族が脳血管疾患・心臓疾患を発症した場合に、いち早く労災を疑い、適切に対応することができます。

 

第3章 長時間労働による労災事件をどうやって争うのか

1 本人が死亡していないケース

 

 

(1) 療養補償給付・休業補償給付などの請求(労災認定のステップ)

 

ア 療養補償給付

 

一般に「労災を使って病院に行く」というのが、労災保険の療養補償給付を受けることです。療養補償給付を受けることができれば、自己負担なしで医療機関を受診することができます。ただし、気をつけなければならないのは、労災保険の療養補償給付を利用できるのは、労災保険指定医療機関に限られる点です。ですから、あなたが通おうとしている医療機関が労災保険指定医療機関かどうかは、確認しておく必要があります。

なお、労災保険指定医療機関かどうかは、厚生労働省の「労災保険指定医療機関検索」のページで検索することができますし、通いたい医療機関に問い合わせれば教えてもらえます。

療養補償給付の請求は、「療養補償給付たる療養の給付請求書」を医療機関経由で提出するのが通常の流れです。請求書は、会社に依頼するか、労働基準監督署に相談することで取得することができますし、厚生労働省サイトの「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」のページからもダウンロードすることができます。

 

イ 休業補償給付

 

病気が原因で仕事を休まなければならない場合は、労災保険の休業補償給付の請求も合わせて行います。それにより、休業日の4日目から、給付基礎日額(1日分の平均賃金が原則ですが、1年6か月後から上限・下限が適用されるので厳密には異なります。)の60パーセントを受け取れます。さらに、休業補償給付を受けられる場合、休業特別支給金として給付基礎日額の20パーセントを受け取れますので、実際には、給付基礎日額の80パーセントをもらうことができます。厳密には違いますが、「給料の8割くらいをもらえる」とイメージしていただいてよいかと思います。

休業補償給付の請求は、休業補償給付支給請求書(休業特別支給金支給申請書を兼ねています。)を労働基準監督署に提出することで行えます。請求書は、会社に依頼するか、労働基準監督署に相談することで取得することができますし、厚生労働省サイトの「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」のページからもダウンロードすることができます。

 

ウ 会社から「労災を使うな」と言われたら

 

療養補償給付や休業補償給付などを受けるためには、事業主、つまり会社から、請求書の記載内容に誤りがない旨の証明を受けなければなりません。ただ、長時間労働の問題では特に、会社から「労災を使うな」と圧力を受けることがあります。長時間労働が横行していたことが労働基準監督署に知られることで、指導などを受けるおそれがあるからです。

ただ、会社から証明を拒否されたからといって、あきらめる必要はありません。労働基準監督署に相談してきちんと事情を伝えることで、たとえ会社から証明を拒否されたとしても、療養補償給付や休業補償給付などを受けられる場合があります。

ですから、「会社の協力がないと労災保険は使えない」というのは、誤りです。

 

 

エ 労災として認めてもらうために

 

療養補償給付や休業補償給付などを受けるためには、病気が労災であることが認められなければなりません。つまり、「労災認定」がされなければなりません。

労災認定を受けられる可能性を高めるためには、請求者も積極的に有利な資料を用意する必要があります。第1の理由は、労災認定のための調査においては、会社側にも意見や資料提出を求めるからです。会社側からこちらに不利な意見や資料が出されることも想定して、それを覆すだけの資料をきちんと用意しておく必要があります。第2の理由は、長時間労働による労災を争う場合は特に、周囲の人の声が大切になるからです。体調や行動の変化など、客観的な周囲の人の声を資料として集められれば、労災認定につなげることができます。

労災認定は、「労基署任せ」ではいけません。自発的に有利な資料を用意して、提出することで、労災認定につなげることができます。そのためには、労災認定がどのような基準でされているかをきちんと理解しておく必要があるのです。

 

(2) 障害補償給付などの申請(障害等級認定のステップ)

治療を続けていると、「完治した」あるいは「これ以上はよくならない」という時が来ます。これらを、労災保険では「治ゆ」といいます。治ゆの段階で労災事故以前と同じ状態にまで回復していなければ、それが「障害」として認定される可能性があります。

もっとも、治ゆの段階で労災事故以前と同じ状態にまで回復していなければ、労災保険において必ず障害として認定されるわけではありません。労災保険の制度では、第1級から第14級までの障害等級が決められており、そのいずれかの等級に該当していると認定されなければ、労災保険では「障害」として扱ってもらえません。障害等級については、後ほど詳しく取り上げますので、ここでは、「障害等級は第1級から第14級まであって、どれかに該当しなければ障害として扱ってもらえない」と理解しておいてください。

障害補償給付の請求は、障害補償給付支給請求書を労働基準監督署に提出することで行えます。請求書は、会社に依頼するか、労働基準監督署に相談することで取得することができますし、厚生労働省サイトの「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」のページからもダウンロードすることができます。

労災認定と同様に、障害等級認定も、やはり、労基署任せではいけません。障害等級認定の基準について理解して、自発的に有利な資料を用意することで、有利な障害等級認定につなげることができます。

 

 

(3) 会社との交渉・訴訟による賠償請求

労災保険の手続が終わったからこれで終了と誤解されがちですが、そうではありません。なぜなら、労災保険によって、あなたの受けた損害がすべて補償されたとは限らないからです。

特に、障害等級認定のされた事案においては、労災保険から受けられる補償よりも、実際の損害の額のほうが高額になることが通常です。ですから、労災保険から補償を受けていない分は、会社に対して損害賠償請求をしなければなりません。

障害の程度によっては、労災保険の給付を受けたうえで、さらに、会社に対して何千万円(ときには1億円以上)もの損害賠償が認められるケースがあります。

労災保険の請求と損害賠償の請求とは全く別物なのですが、実際のところは、労災保険における労災認定や障害等級認定の結果が、損害賠償請求の結論を大きく左右します。ですから、労災認定や障害等級認定を思うように受けられないと、後々まで足を引っ張られることになります。

詳しいことは、後ほど取り上げたいと思いますので、ここでは、「労災保険をもらったら終わりではない」ことと、「労災認定や障害等級認定の結果が損害賠償で会社と争ううえでも重要であること」をご理解ください。

 

 

2 本人が死亡したケース

 

 

(1) 遺族補償給付・葬祭料などの申請(労災認定のステップ)

 

ア 遺族補償給付

 

労働者が労災で亡くなった場合、特定の遺族は、遺族補償給付を受けることができます。

遺族補償給付には、亡くなった労働者の収入によって生計を維持していた特定の遺族に支給される遺族補償年金と、遺族補償年金を受給できる遺族がいない場合に支給される遺族補償一時金があります。

年金形式で受けられる遺族補償年金は、亡くなった労働者の収入によって生計を維持していた遺族のうち、妻、60歳以上の夫、高校卒業年齢までの子などから、最優先の順位の人に支給されます。遺族補償年金では、条件に応じて、給付基礎日額(1日分の平均賃金が原則ですが、上限・下限が決まっているので厳密には異なります。)の153日分から245日分までの金額が毎年支給されます。

遺族補償給付の請求は、遺族補償年金支給請求書などの所定の請求書を労働基準監督署に提出することで行えます。請求書は、会社に依頼するか、労働基準監督署に相談することで取得することができますし、厚生労働省サイトの「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」のページからもダウンロードすることができます。

 

イ 葬祭料

 

労働者が労災で亡くなった場合、遺族は、葬祭料の支給を受けることができます。葬祭料の額は、31万5000円と給付基礎日額(1日分の平均賃金が原則です。)の30日分を足した金額が原則ですが、給付基礎日額の60日分のほうが高くなるときはそちらの額が支給されます。

葬祭料の請求は、葬祭料請求書を労働基準監督署に提出することで行えます。請求書は、会社に依頼するか、労働基準監督署に相談することで取得することができますし、厚生労働省サイトの「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」のページからもダウンロードすることができます。

 

ウ 会社から「労災を使うな」と言われたら

 

遺族補償給付や葬祭料などを受けるためには、事業主、つまり会社から、請求書の記載内容に誤りがない旨の証明を受けなければなりません。ただ、長時間労働の問題では特に、会社から「労災を使うな」と圧力を受けることがあります。長時間労働が横行していたことが労働基準監督署に知られることで、指導などを受けるおそれがあるからです。

ただ、会社から証明を拒否されたからといって、あきらめる必要はありません。労働基準監督署に相談してきちんと事情を伝えることで、たとえ会社から証明を拒否されたとしても、遺族補償給付や葬祭料などを受けられる場合があります。

ですから、「会社の協力がないと労災保険は使えない」というのは、誤りです。

 

 

エ 労災として認めてもらうために

 

遺族補償給付や葬祭料などを受けるためには、過労死であることが認められなければなりません。つまり、「労災認定」がされなければなりません。

労災認定を受けられる可能性を高めるためには、請求者も積極的に有利な資料を用意する必要があります。第1の理由は、労災認定のための調査においては、会社側にも意見や資料提出を求めるからです。会社側からこちらに不利な意見や資料が出されることも想定して、それを覆すだけの資料をきちんと用意しておく必要があります。第2の理由は、長時間労働による労災を争う場合は特に、周囲の人の声が大切になるからです。体調や行動の変化など、客観的な周囲の人の声を資料として集められれば、労災認定につなげることができます。

労災認定は、「労基署任せ」ではいけません。自発的に有利な資料を用意して、提出することで、労災認定につなげることができます。そのためには、労災認定がどのような基準でされているかをきちんと理解しておく必要があるのです。労災認定については、後ほど詳しく取り上げます。

 

 

(2) 会社との交渉・訴訟による賠償請求

労災保険の手続が終わったからこれで終了と誤解されがちですが、そうではありません。なぜなら、労災保険によって、遺族の受けた損害がすべて補償されたとは限らないからです。

過労死の場合、亡くなった労働者の相続人は、会社に対して損害賠償を求めることができます。死亡事案の場合、労災保険から受けられる補償では損害をすべて補てんはできないのが通常ですから、労災保険から補償を受けていない分は、会社に対して損害賠償請求をすることができます。

労災保険において労災認定を受けられない場合、会社に対する損害賠償請求においても、会社の責任が認められない場合が通常です。ですから、労災認定を思うように受けられないと、後々まで足を引っ張られることになります。

 

第4章 労災認定のポイント

1 基本的な考え方

脳血管疾患・心臓疾患の労災認定については、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日付基発第1063号、平成22年5月7日改正基発0507第3号)で詳しい基準が定められています。このコラムでは、基本的なポイントにしぼって説明します。

脳血管疾患・心臓疾患の労災認定は、疾患を発症する前に次のいずれかの事実があったことを基準に行います。

ア 発症直前から前日までの間において異常な出来事に遭遇したこと
イ 発症に近接した時期において特に過剰な業務に就労したこと
ウ 発症前の長期間にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過剰な業務に就労したこと

特に、長時間労働との関係では、「ウ 発症前の長期間にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過剰な業務に就労したこと」の要件を満たすかどうかがポイントになります。

2 長時間にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過剰な業務とは

長時間にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過剰な業務といえるかどうかを考えるうえでは、労働時間の長さがもっとも重要な要素とされます。

認定基準によれば、

ア 発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働
イ 発症前2か月間ないし6か月間におおむね月80時間を超える(2か月の平均、3か月の平均・・・6か月の平均をとって、いずれかが月80時間を超える)時間外労働

のいずれかを満たすときは、脳血管疾患・心臓疾患と業務との関連性が強いと評価できるとされています。

週5日働くとして、だいたい毎日平均5時間以上の残業をすれば100時間超、平均4時間以上の残業をすれば80時間超になります。

これらは、「過労死ライン」といわれるもので、このレベルの長時間労働があれば、労災認定がされる可能性が高くなります。

もっとも、この程度のレベルの長時間労働でなければ、労災認定はされないということではありません。

認定基準の考え方によれば、例えば次のような要素から、業務が過剰であったと評価されれば、時間外労働の時間が「過労死ライン」に達していなくても、労災認定がされる可能性があります

 

・不規則な勤務をしていること
・出張が多い業務であること
・交替シフト制の勤務・深夜勤務であること
・精神的緊張を伴う業務であること

 

精神的緊張を伴う業務の例としては、①人の生命を左右しうる仕事、②過大なノルマがある仕事、③顧客との大きなトラブルなどの処理を担当する仕事、④複雑困難な新規プロジェクトなどを担当する仕事などがあげられます。

様々な要素を例に挙げましたが、基本的な視点は、「精神的ストレスや睡眠の質の低下につながるような要素が長時間労働以外にもあれば、それもきちんと考慮して判断しましょう」ということです。ですから、単に「何時間働いていたか」ばかりにとらわれるのではなく、「他にストレスにつながる出来事はなかったのか」にも目を向ける必要があります。

過労死事案でなければ、まずは、本人からじっくりと話を聞いて、長時間労働以外にも、発症前にストレスを感じる出来事がなかったかを詳細に確認する必要があります。そのうえで、本人の話と、精神科のカルテ(診療録)やTwitter、Facebook、LINE、メールなどの内容が整合していることなどを根拠に、その話の信用性を裏付ける必要があります。

また、過労死事案においては、本人が受診していた精神科のカルテ(診療録)、本人が過去に書き込みをしたTwitter、Facebook、LINE、メールなどの記録、職場の同僚などからの供述など、様々な資料を集めて、本人が仕事で経験したことを詳細に調べる必要があります。

 

 

このような自発的な調査は、特に、過労死ラインには達していない長時間労働のケースにおいて、大きな意味があります。また、たとえ過労死ラインには達していても、確実に労災認定がされるとは限りませんので、やはり、このような調査には意味があります。

 

3 会社が労働時間をきちんと管理していない場合の対処法

長時間労働による労災事件においてしばしば問題になるのが、会社側が残業時間を正確に記録していなかったり、労働基準監督署に過少申告したりするケースです。

このような場合には、本人がつけているスケジュール手帳の記録、通勤に利用した交通系ICカードの履歴、タクシーの領収証などの資料が有力な証拠になることがありますので、そういった資料の調査も必要になります。

また、サービス残業であっても、「会社から指示された仕事がとても業務時間内に終わらない量だった」ことを明らかにすれば、労働時間として主張できる余地があります。サービス残業があったのであれば、自宅で作業していた内容を整理した報告書、自宅で使用していたPCのログオフ履歴(Windowsであればイベントビューワーを開いてイベントログを確認することでログオフ時刻を調べることができます。)、本人が仕事している様子を知っている家族の陳述書などから明らかにする方法が考えられます。

 

4 ここまでのまとめ

長時間労働が過労死ラインに達していなかったり、会社側がきちんと労働時間の管理をしていなかったりするケースでは特にそうですが、脳血管疾患・心臓疾患の労災認定をすべて労基署任せにしてはいけません。本人や家族(遺族)が、有利な認定につながる資料を積極的に探し出し、提示することが、有利な労災認定を受けるためには重要です。

 

第5章 障害等級認定のポイント

1 障害等級認定

障害等級認定とは、労災によって病気になった労働者が治療を続けてこれ以上回復できなくなった状態(治ゆ)において障害が残っている場合に、その状況や程度に応じて第1級から第14級までのいずれに該当するかを評価する認定のことです。数字が小さくなるほど、重度の障害ということになります。

障害等級第7級以上の認定を受けられれば、毎月年金形式で給付を受けられる障害補償年金を受けられます。一方、障害等級第8級以下の認定しか受けられなければ、障害補償一時金という1回きりの給付しか受けることができません。

また、障害等級第14級にも該当しないと判断されれば、障害補償年金も、障害補償一時金も受けられません。

そして、いずれの障害等級が認定されるかによって、給付を受けられる額も変わってきます。

障害等級認定は、「いくらの障害補償給付を受けられるか」という意味で、重要なものです。

 

 

 

2 脳血管疾患の後遺障害

(1) 高次脳機能障害とは

脳血管疾患が原因となる重大な後遺障害が、高次脳機能障害です。高次脳機能とは、目や耳から得た情報から物事を考えたり、新しいことを思いついたり、それを説明したり、記憶したり、何かを計画して実行したりするなどの高等な脳の働きのことです。高次脳機能障害とは、脳の損傷によって、そのような脳の機能に障害が生じてしまうことをいいます。

脳血管疾患により、血液が届かなくなった部分の脳細胞が死滅するなどして、脳の損傷が起きることがあります。このような脳の損傷によって、脳の特定の部位の機能が失われることで、高次脳機能障害が起きてしまいます。

高次脳機能障害の障害等級認定では、一般的に、MRIなどの検査結果に基づいて脳の損傷が起きた部位を特定して、実際に本人に生じている高次脳機能の障害とその部位が一致するかどうかを検討します。そのうえで、脳の損傷が原因となって高次脳機能の障害が起きていると認定することができるとき、つまり、高次脳機能障害を認定することができるときは、障害の状況や程度に応じて、該当する障害等級を検討します。

脳は、それぞれの部位によって機能が違いますので、どこが損傷したかによって、障害の内容も変わります。例えば、大脳のウェルニッケ領域という部分が損傷すると「りゅうちょうに話せるのに相手と話がかみ合わない」症状が出る一方で、ブローカ領域という部分が損傷すると「相手の話はある程度理解できるのにうまく話せない」症状が出ます。ですから、医師から「どのような症状が特徴的な損傷か」をきちんと聴いて、そのような症状が実際に見られるかどうかを事故前と比較しながら考えることが重要です。

 

(2) 高次脳機能障害の障害等級認定の方法

高次脳機能障害の障害等級認定においては、まず、その障害の程度が「介護の必要な状況であるかどうか」を検討します。

そして、
・常時介護が必要であれば障害等級第1級
・随時介護が必要であれば障害等級第2級
を認定します。

次に、介護が必要というほどではない場合には、障害の状況や程度に応じて、障害等級3級、5級、7級、9級、12級、14級が認定されます。

 

【障害等級認定の基準】

・3級  生命維持に必要な身の回り処理の動作は可能、労務に服することはできない
・5級  きわめて軽易な労務のほか服することができない
・7級  軽易な労務にしか服することができない
・9級  通常の労務に服することはできるが、就労可能な職種の範囲が相当程度に制限される
・12級 通常の労務に服することはできるが、多少の障害を残す
・14級 通常の労務に服することはできるが、軽微な障害を残す

 

障害補償年金を受給できる7級以上と、障害補償一時金しか受給できない9級以下とは、通常の労務に服することができるかどうかが線引きになっています。

これらのどの障害等級に該当するかについては、(a)意思疎通能力(他人の話を聴いたり、覚えたり、説明したりする能力)、(b)問題解決能力(物事を理解したり、判断したりする能力)、(c)持続力・持久力(仕事時間に意欲をもって対処できる能力)、(d)社会行動能力(他人と協調して一緒に仕事などができる能力)がどの程度失われているかを評価して判断します。

高次脳機能障害の障害等級認定においては、医師の意見だけではなく、家族などの報告も有力な資料になります。最低限の資料として、家族などに、「日常生活状況報告表」への記入が求められることになっています。ただ、日常生活状況報告表は、あらかじめ用意された質問に3段階で答えるもので、複雑な内容の報告には適していません。ですから、高次脳機能障害について有利な障害等級認定を受けるためには、日常生活状況報告表とは別に、家族などの周りの人が、詳細な陳述書や報告書を作成して、事故前と事故後でどのような変化があったのかを詳細に説明することが望ましいです。

また、陳述書や報告書を作成するうえでは、先ほど説明したように、「脳損傷の部位によって特徴的にみられる症状が出ているかどうか」という視点をもって、その症状に関して重点的な報告を行うことが大切です。ですから、陳述書や報告書を作成するうえでは、医師からのアドバイスをきちんと受けることが望ましいです。

 

(3) ポイント

高次脳機能障害の障害等級認定においては、事故前と事故後とでは性格・理解力・記憶力・コミュニケーション力などが「こう変わってしまった」という周囲の人の声が重要な意味を持ちます。なぜなら、事故前と事故後とでどのような変かがあったかは、主治医よりもむしろ、日頃から本人のことを知っている家族などのほうが正確に指摘できる場合が多いからです。

MRIなどの検査結果に基づいて脳の損傷が起きた部位を特定することは、医学の専門家に委ねるほかありません。しかし、本人の性格などがどう変わったからは、特別な知識がなくても、普段から本人とかかわりの深い家族などであれば容易に分かることです。

ですから、高次脳機能障害の障害等級認定を有利に進めるためには、労基署任せではなく、家族などが積極的に資料作成を行うことが大切なのです。

 

3 心臓疾患の後遺障害

心臓疾患による後遺障害としては、次のようなものがあります。

(1) 心臓の機能の低下

心臓の機能の低下の程度によって、障害等級第9級や第11級が認められる可能性があります。

 

(2) 除細動器やペースメーカーの植え込み

除細動器を植え込んだ場合には障害等級第7級、ペースメーカーを植え込んだ場合には障害等級第9級が認められます。

 

(3) 房室弁・大動脈弁の置換

薬による治療を継続的に行っているかどうかで、障害等級第9級か第11級が認められます。

 

(4) 大動脈の解離を残すとき

偽腔開存型の解離を残すときに、障害等級第11級が認められます。

このように、高次脳機能障害とは異なり、心臓疾患の後遺障害の場合は、医学的な観点からの基準が明確になっています。ですから、障害等級認定についても、きちんと専門医に相談することで、適切な障害等級認定を受けられる可能性が高いです。

 

第6章 労災認定や障害等級認定の結果を争うには

1 労災認定や障害等級認定の結果は争うことができる

労災認定や障害等級認定の結果に不服があるときは、審査請求という不服申立ての方法によって争うことができます。審査請求は、都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対して行います。

審査請求は、労災保険の給付請求に対して支給・不支給の決定通知書を受け取った日の翌日から3か月以内とされています。「3か月」という期間は、長いようで短いです。なぜなら、支給・不支給の決定についてどのように争うかを検討したり、先例を調べたり、その結果をまとめたりするには、それなりの期間がかかってしまうからです。

ですから、労災認定や障害等級認定の結果に疑問を感じた際には、なるべく早く弁護士などの専門家に相談する必要があります。

 

2 審査請求のための準備とは

審査請求の前にまずしなければならないことは、労災関係資料の開示請求です。労災認定や障害等級認定のために収集された資料の一部は、都道府県労働局長に対する保有個人情報の開示請求によって、開示を受けることができます。ただし、診療録(カルテ)などの一部資料は黒塗りされて開示されることが通常です。診療録(カルテ)については、別途、各医療機関に請求することで、開示を求めることができます。

また、労働基準監督署の担当調査官に資料から分からない点を電話などで質問することで、説明を受けられることもあります。

このような準備は、ご自身でできないわけではありませんが、手間と知識を要することから、弁護士などの専門家に依頼して進めることをお勧めします。

 

3 審査請求の結果にも納得がいかなければ

審査請求の結果にも納得がいかなければ、さらに、再審査請求や訴訟によって争う方法があります。ここまで来ると、ご自身で進めることはかなり難しくなりますので、弁護士などの専門家に依頼して進めるべき(できれば、審査請求の段階から弁護士などの専門家に依頼することをお勧めします。)です。

 

厚生労働省サイト「労働保険審査制度の仕組み」
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/shinsa/roudou/02-01.htmlより

 

第7章 会社に対する損害賠償請求のポイント

1 会社にいつどうやって損害賠償を請求するか

労災保険の請求とは別に、会社に対する損害賠償の請求を検討したほうがよいことは、すでに説明しました。ただ、会社に対する損害賠償は、どのタイミングで請求すべきでしょうか。また、まずは交渉からか、いきなり訴訟で決着をつけるか、どのような方法がよいのでしょうか。

これらについては、絶対的な答えはありませんし、弁護士によって考え方は違うと思いますので、ここからの説明は、あくまでも筆者の個人的な見解と考えてください。

 

(1) 請求のタイミングをどうすべきか

まず、請求のタイミングについては、「できる限り早く」が望ましいものの、方針が固まっていないにもかかわらず、むやみに請求に着手するというのは、望ましい対応とはいえないように思います。

例えば、納得のいく労災認定や障害等級認定を受けられる見通しが立っていないにもかかわらず、いきなり請求に着手してしまうと、場合によっては、会社が「証拠隠し」に走ってしまうかもしれません。労災認定や障害等級認定の見通しをきちんと立てたうえで、もし会社が「証拠隠し」に走るおそれがあるのであれば、必要に応じて証拠保全を検討するのが、賢明な選択です。正確な見極めは難しいですが、少なくとも、「これから事件がどのように進むか」をきちんと考えずにやみくもに請求に着手することは、自分の足をすくうことになるかもしれません。

もっとも、迅速に交渉を進めるために、労災認定や障害等級認定を受けられる見通しが十分に立っていなくても、すぐに請求に着手すべき場合があります。

それは、会社側に、早期解決に向けて積極的に話合いに応じる姿勢が見られる場合です。長時間労働による労災事件の場合、会社側にとってむやみに事を荒立てるのは、決してよいことではありません。ですから、会社側が早期解決に向けて積極的に話合いに応じることは、決して珍しいことではありません。このような場合には、会社との交渉を早くスタートすることが望ましいでしょう。ただし、たとえ会社側に話合いに応じる姿勢があったとしても、やはり、弁護士などの専門家には相談すべきです。なぜなら、会社側は弁護士に相談したうえで交渉に臨むケースが多いことから、労働者側もきちんと専門家の意見を聴かなければ、なかなか対等な話合いができないからです。

 

(2) 交渉からスタートするか・訴訟からスタートするか

会社との交渉からスタートするか、それとも、いきなり訴訟からスタートするか、つまり、一切会社には知らせずに、いきなり訴状を出すかは、難しい問題です。

例えば、十分に勝算があり、かつ、会社に話合いの姿勢が全く見られないケースであれば、いきなり訴訟からスタートする選択肢もあり得ます。

ただ、その一方で、勝算が不十分なケースや、会社に話合いの姿勢が見られるケースであれば、まずは交渉からスタートするほうがよいと思います。なぜなら、交渉のほうが訴訟よりも早期解決できるケースは多いですし、たとえ最終的に訴訟で解決せざるを得ないとしても、事前に交渉をして会社側の言い分を知っておくことで、訴訟を見据えた準備がしやすくなるからです。

 

(3) ポイント

ここまで説明した考え方は、あくまでも一例ですし、実際の事案においては、さらに複雑な戦略が必要なことも多々あります。もっとも望ましい対応は、できる限り早期に弁護士などの専門家に相談し、どのような戦略で臨むべきか、的確なアドバイスを受けることであると思います。

 

2 どのような損害が認められるか

さて、会社に対して、どのような損害の賠償を求めることができるでしょうか。労災事件において損害額を算定する際には、交通事故事件の考え方を参考にするのが一般的です。そこで、交通事故事件における損害額算定の考え方をもとに、労災事件においてどのような損害が認められるか、基本的なポイントを説明したいと思います。

 

(1) 後遺障害もなく死亡もしていないケース

 

ア 休業損害

 

労災が原因で休業を余儀なくされた場合、その期間の休業損害を請求することが一般にできます。たとえ休業補償給付を受けていても、その額は給付基礎日額(平均賃金に近い額)の6割ですから、およそ4割の休業損害は補償されていないことになります。ですから、およそ4割の休業損害については、一般に、会社に対する損害賠償として請求することができるのです。

なお、休業補償給付を受けると、一緒に、給付基礎日額の2割に相当する休業特別支給金を受け取ることができますが、休業特別支給金は休業損害を補償するものではありませんので、損害賠償として請求できる額から差し引かれないことになっています。つまり、給付基礎日額の2割部分は、休業特別支給金と、会社からの損害賠償と、2重にもらえることになっているのです。

 

イ 入通院慰謝料

 

入通院期間の長さなどに応じて、慰謝料が認められます。会社側の悪質性によっては、慰謝料の増額が認められる余地があります。

そのほか、入院雑費、通院交通費などが、損害として認められます。

 

(2) 死亡はしていないが後遺障害があるケース

 

ア 休業損害(前述)

 

イ 入通院慰謝料(前述)

 

ウ 後遺障害逸失利益

 

後遺障害逸失利益とは、簡単にいえば、障害のせいで仕事の能力が下がってしまい、もし障害がなければ得られていた収入と、障害のせいで減ってしまった収入の差額のことです。

障害のせいでどれくらい仕事の能力が下がったかについては、認定された障害等級をベースに主張することが一般的ですので、障害等級認定は後遺障害逸失利益を算定するうえでも重要な意味をもちます。

また、後遺障害逸失利益は、一般に、労災事件が起きる前にどれくらい収入を得ていたかをもとに計算します。サービス残業をしていた場合には、サービス残業にも残業代を受け取っていればどれくらいの収入があったのかをベースに主張することも考えられます。

 

エ 後遺障害慰謝料

 

後遺障害慰謝料は、認定された障害等級の程度によって、おおむね相場額が決まっています。もっとも、会社側の悪質性によっては、慰謝料の増額が認められる余地があります。

そのほか、入院雑費、通院交通費、介護が必要なケースにおける介護費用・自宅改造費などが、損害として認められます。

 

(3) 死亡したケース

 

ア 葬儀関係費

 

亡くなった方の一定の葬儀関係費が、損害として認められます。

 

イ 死亡による逸失利益

 

死亡による逸失利益とは、簡単にいえば、もしその人が生きていれば将来得ていたと考えられる収入のことです。

死亡による逸失利益は、一般に、労災事件が起きる前にどれくらい収入を得ていたかをもとに計算します。サービス残業をしていた場合には、サービス残業にも残業代を受け取っていればどれくらいの収入があったのかをベースに主張することも考えられます。

 

ウ 死亡慰謝料

 

死亡慰謝料は、亡くなった方の立場によって、おおむね相場額が決まっています。もっとも、会社側の悪質性によっては、慰謝料の増額が認められる余地があります。

 

(4) 労災保険との調整

労災保険の給付を受けていると、さらに損害賠償を受けることで二重取りにならないように、損害賠償の額が減らされます。とはいえ、労災保険で給付を受けられる分をそのまま差し引かれてしまうわけではありません。

例えば、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料については、労災保険を受けていることを理由に減額はされません。また、特別支給金の分についても、減額の対象外です。

詳しい説明については割愛しますが、基本的に、労災保険の給付を受けて、さらに損害賠償を受けるほうが、損害賠償を受けるのみの場合よりも得になることが一般的です。

 

(5) 詳しくは弁護士に相談を

以上は、あくまでもポイントを簡単に説明したにすぎません。実際に法律相談にいらしていただければ、事実関係の詳細な聴き取りを行ったうえで、損害額の見立てについて詳しくお伝えすることができます。ですから、会社への損害賠償を検討する際には、弁護士への相談をご検討ください。

 

3 会社の責任をどうやって主張するか

(1) 会社が責任を負う根拠は

会社が長時間労働による労災事件について損害賠償の責任を負う根拠には、大きく、不法行為責任と、債務不履行責任があります。

不法行為責任とは、簡単にいえば、労災事件の被害者に対して長時間労働の原因になる業務命令を行った過失の責任を、会社に負わせるということです。

また、債務不履行責任とは、会社が労働契約上負っている義務を守っていないせいで労災事件が起きたとして、会社に契約上の義務違反の責任を負わせるということです。

どちらの根拠を用いたとしても、(1)会社が何か義務を負っていて、(2)その義務に違反したせいで労災事故が起きたのだから、責任を負いなさい、という発想は同じです。

電通事件最高裁判決(最二判平成12年3月24日)では、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と判断されています。会社が、このような義務を怠ったといえるのであれば、損害賠償責任が認められることになります。

 

(2) 労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務の違反をどうやって主張するか

それでは、「労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」を怠ったと、どうやって主張すればよいでしょうか。

まずは、会社が、労働時間についてきちんと管理できていなかったという主張を考えなければなりません。例えば、人手不足の状況であった、1人1人に任せられる仕事の量が多すぎた、休憩がまともに取れない状況だった、タイムカードのチェックがされていなかったなど、できる限り具体的な事実を主張する必要があります。

そのような労働時間の管理上の問題があって長時間労働が横行していたといえれば、それだけでも「労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」を怠ったことを疑わせる事情として評価されます。ただ、できれば、さらにそれを補強するような主張をしたいところです。

そこで、主張する中で盛り込むと効果的なのが、労働安全衛生法違反です。「法律に違反していた」というのは、「それなら会社が悪い」という評価につながりやすいからです。

そこで、労働安全衛生法の規定の中で、長時間労働による労災事件と関係のあるものを、いくつか紹介します。もし、会社がこのようなルールをきちんと守っていなかったのであれば、それを積極的に主張するのが効果的です。

 

ア 健康診断をきちんと実施していないなど

 

(会社の費用で)健康診断をきちんと実施していないことは、労働安全衛生法違反として主張することができます。深夜労働が常態的になっているケースでは、年に1回の健康診断では足りず、6か月に1回の健康診断を行わなければなりません(特定業務従事者の健康診断)ので、そのような健康診断をきちんと行っていなかったことも、労災事故につながったと主張することができます。

また、たとえ健康診断を実施していたとしても、その結果に基づいて労働時間短縮や配置転換、仕事量の軽減などの措置をきちんと取っていなかったことも、主張につなげることができます。

 

イ 面接指導を受けさせなかったことなど

 

労働者が1月80時間を超える時間外労働をしていて、労働者が面接指導を申し出ているにもかかわらず、(会社の費用で)医師の面接指導を受けさせなかったことは、労働安全衛生法違反として主張することができます。

また、たとえ面接指導を受けさせたとしても、その結果に基づいて労働時間短縮や配置転換、仕事量の軽減などの措置をきちんと取っていなかったことも、主張につなげることができます。

労働安全衛生法違反以外でも、労働者の安全や健康に関する法令違反がある場合には、積極的に主張すべきです。弁護士に相談する際でも、「この前に面接指導をお願いしたのに受けさせてくれませんでした」「うちの業種では労働時間について法律でこんなルールがあるはずです」など、法令違反の主張につながるような事情を積極的に伝えるべきです。特に、その業種独自の法律上のルールについては、弁護士も知らないケースが多いですから、実際にその業種で働いている方の情報は、大きなヒントになります。

 

(3) 労働安全衛生法違反の主張は損害額の主張にもつながる

会社の労働安全衛生法違反が悪質であれば、慰謝料の増額を求める主張につなげられる余地があります。労働安全衛生法違反がなかったかをきちんと検討し、もし労災事故につながる違反があったのであればきちんと主張に盛り込んでおくことで、交渉や訴訟を有利に進めていくことができます。

 

4 損害賠償については弁護士に相談を

ここまで、会社に対する損害賠償について、基本的な考え方を説明しましたが、実際には他にも様々な法律的な問題があります。まずは、弁護士に相談して、明確なアドバイスを受けることをお勧めします。

 

 

第8章 長時間労働による労災事件を争いたい方は

このコラムでは、長時間労働による労災事件を争うために知っておきたいポイントについて紹介しましたが、実際に争うためには、さらにたくさんの専門的な知識が必要です。

当事務所では、労災事件に関するご相談を、初回相談(60分)無料でお受けしています。ご相談では、労災保険の手続の進め方や、会社との争い方について、弁護士が詳しくお話しいたします。また、弁護士費用についても、ご相談の内容を踏まえて詳しくご説明いたしますので、安心してご依頼をいただくことができます。

また、当事務所は、労災事件のほか、残業代請求事件などの長時間労働にかかわる労働問題を取扱い、かつ、交通事故事件に携わる中で後遺障害に関する知識を集積してきた確かな実績があります。

当事務所は、神戸のほか、大阪・京都にもございますし、それ以外の地域の方のご依頼でも対応いたしております(神戸・大阪・京都のいずれかの事務所へのご来所は必要です)。

 

※お問い合わせの際に「神戸のサイトを見た」とお伝えいただければ幸いです。

このコラムを書いた人

弁護士 石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
情報処理安全確保支援士、応用情報技術者の資格を持つ若手弁護士。IT、IoT、営業秘密など、いつでもすぐに、最新の問題に対応するリーガルサービスを提供できるよう、5年先、10年先を読みながら、日々研鑽を積んでいる。
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