弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2022.09.15
労働者のトラブル

長時間労働による過労死と過労自殺の問題

第1章 過労死と過労自殺の問題

「働き方改革」という言葉が流行語になってから、はや数年経ちますが、いまだに、過労死・過労自殺の問題は後を絶ちません。厚生労働省の統計によれば、2020年度に過労死を理由に労災請求があった件数は200件超、過労自殺を理由に労災請求があった件数は150件超となっています。

過労死や過労自殺は、いったいどのような要因で起きてしまうものなのでしょうか。

第2章 過労死が起きる理由

1 長時間労働による脳血管疾患・心臓疾患

過労死は、脳血管疾患・心臓疾患によって発生します。

脳血管疾患とは、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症のことです。これらの病気は、脳内の血管が破れたり、つまったり、あるいは血圧が急上昇することで起きるものです。いずれも、脳の機能に重大な影響を及ぼし、最悪の場合、死亡することがあります。

また、心臓疾患とは、心筋梗塞・狭心症・心停止・重篤な心不全・大動脈解離のことです。これらの病気は、心臓の血管がつまったり、心臓とつながる血管である大動脈が破れたりすることで起きるものです。いずれも、心臓の機能に重大な影響を及ぼし、最悪の場合、死亡することがあります。

2 脳血管疾患・心臓疾患と長時間労働との関係

長時間労働による脳血管疾患・心臓疾患は、血圧の上昇や血管の収縮、心拍数の増加、血糖値の上昇が複合的な要因となって発生するものと考えられています。

長時間労働が続くと、仕事上のストレスを慢性的に感じるようになり、余暇や睡眠の時間が減少することでストレスの解消ができなくなります。これによって、自律神経の乱れや、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌量の増加が発生し、血圧の上昇などの原因になってしまいます。

平成16年版厚生労働白書には、次のような研究内容が報告されています。

 

・残業時間が月60時間以上になると、血圧の上昇につながる。
・残業時間が月80時間以上になると、心筋梗塞のリスクが高まる。
・睡眠時間が6時間未満になると、狭心症や心筋梗塞になる率が上昇する。
・睡眠時間が5時間以下になると、脳・心臓疾患の発症率が上昇する。
・睡眠時間4時間以下になると、7時間以上8時間未満の場合と比較して、冠動脈性心疾患による死亡率が約2倍になる。

 

例えば、1日6時間を仕事・睡眠以外の時間に使うとします。1ヶ月に4週間、1週間に5日働くと考えます。法定労働時間(労働基準法で決まっている労働時間の上限)は1日8時間ですから、それを超える労働時間が残業時間になります。

この例で、仮に、毎日12時間働いたとすると、1日の残業時間は4時間、1ヶ月の残業時間は80時間になります。この場合の睡眠時間は6時間です。同じように考えると、1月の残業時間が100時間の場合は睡眠時間が5時間、1月の残業時間が120時間の場合は睡眠時間が4時間となります。

このような報告からも分かるように、1月の残業時間が80時間を超えた状態が継続すると、脳血管疾患・心臓疾患の発症リスクが大きく高まります。

第3章 過労自殺が起きる理由

過労自殺は、長時間労働による精神疾患によって起こるものです。精神疾患の例としては、統合失調症・うつ病・躁うつ病などが挙げられます。

長時間労働が続くと、慢性的な睡眠不足に陥ってしまいます。また、第2章で説明したように、自律神経の乱れやストレスホルモンの分泌量の増加が発生して、睡眠の質も低下してしまいます。

 

「国立精神・神経医療研究センター」サイト(https://www.ncnp.go.jp/nimh/sleep/release/20130214.html)より

 

睡眠不足が慢性化すると、扁桃体を制御する脳内の機能が弱まって、扁桃体が過剰に活動する状態になってしまいます。

扁桃体の活動が活発になると、不安感を覚えるようになります。扁桃体が過剰に活動することで、常に不安感から解放されない状態になり、抑うつ状態に至ってしまいます。そして、抑うつ状態が続くことで、統合失調症・うつ病・躁うつ病などの精神疾患を発症してしまいます。

島悟教授は、睡眠時間と抑うつ状態との関係性を以下のように分析し、メンタルヘルスを保持するためには6時間以上の睡眠時間を確保することが望ましいと指摘しています。

島悟「過重労働とメンタルヘルス-特に長時間労働とメンタルヘルス-」(2018年2月「産業医学レビュー」)166頁より

 

例えば、1日6時間を仕事・睡眠以外の時間に使うとします。1ヶ月に4週間、1週5日間働くと考えます。法定労働時間(労働基準法で決まっている労働時間の上限)は1日8時間ですから、それを超える労働時間が残業時間になります。

この例で、仮に、毎日12時間働いたとすると、1日の残業時間は4時間、1月の残業時間は80時間になります。この場合の睡眠時間は6時間です。同じように考えると、1月の残業時間が100時間の場合は睡眠時間が5時間、1月の残業時間が120時間の場合は睡眠時間が4時間となります。

1月の残業時間が80時間を超え、残業時間が長くなればなるほど、精神疾患を発症するリスクが高くなることが見えてきます。

 

ただし、1月の残業時間が80時間以下であったとしても、その他に仕事でストレスを抱える要因があった場合には、精神疾患を発症してしまうことがあります。例えば、職場内でのハラスメントや、責任ある仕事を任されたことや急な配置転換によるストレスなどが挙げられます。

第4章 過労死・過労自殺と労災

過労死・過労自殺については、ご遺族から労災事件として勤務先企業に対して損害賠償請求をすることができるケースがあります。過労死・過労自殺で大切なご家族を亡くした方には、まずは労災問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

当事務所では、社会保険労務士の資格も有する弁護士が、労災問題のご相談を承っております。初回無料でのご相談が可能ですので、ご家族が「過労死・過労自殺で亡くなったのではないか?」とお悩みの方は、まずは当事務所にご相談ください。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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