弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2022.10.27
離婚・夫婦のトラブル

離婚後300日問題と民法改正

1 離婚後300日問題の解決に向けた法改正の動き

2022年10月14日、離婚後300日問題を解決するための民法改正案が閣議決定されました。離婚後300日問題は、長年にわたって社会問題となっていましたが、解決に向けた道筋が示されることになりました。今回のコラムでは、離婚後300日問題について解説したうえで、民法改正案の内容をご紹介します。

2 離婚後300日問題とは

(1) 現行民法の規定

現行民法

(嫡出の推定)
第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
 
(嫡出の否認)
第774条 第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
 
(嫡出否認の訴え)
第775条 前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。・・・

現行民法の規定では、(1)婚姻の日から200日経過後か、あるいは、(2)離婚の日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎した子であると推定され、その結果、夫の子と推定されます。これは、嫡出推定と呼ばれる制度です。

嫡出推定を覆すためには、嫡出否認の訴えによらなければなりませんが、この訴えは父親の側からしか提起することができず、母親や子の側から提起することはできません。

このような制度が、離婚後300日問題を生みました。

(2) 離婚後300日問題が生じるケース

Aさん(女性)は、もともとBさん(男性)と婚姻をしていましたが、Bさんの度重なる暴力によって不仲になり、2020年1月10日に別居状態となりました。AさんとBさんの間には、子どもCさんがいました。その後、Aさんは、Dさん(男性)と交際するようになりました。

AさんとBさんは、2021年1月10日に調停離婚をしました。その後、Aさんは、2021年5月1日に、Dさんと婚姻しました。

Aさんは、2021年9月10日に、子どもEさんを出産しました。

このケースでは、常識的に考えれば、Eさんは、AさんとDさんとの間の子であることに疑いはないように思われます。AさんとBさんとは長年にわたって別居を続けており、EさんがAさんとBさんとの間の子どもであるとは考えがたいためです。

しかし、現行民法の規定では、Eさんは、AさんがDさんと婚姻してから200日以内(200日を経過する前)に生まれた子どもであり、かつ、AさんとBさんとが離婚してから300日以内に生まれた子どもであるため、AさんとBさんとの間の子どもであることが推定されます。

さらに、その推定を覆すためには、嫡出否認の訴えが提起される必要がありますが、嫡出否認の訴えを提起することができるのはBさんだけで、Aさんから提起することはできません。

Bさんからの暴力から逃れてきたAさんが、Bさんと交渉して、Bさんから嫡出否認の訴えを提起することを促すのは極めて困難で、現実的ではありません。

このように、現行民法は、離婚後300日以内に生まれた子どもが“前の夫の子”と推定されることが原因で、常識とはかけ離れた結論を生んでいます。

(3) 無戸籍問題

離婚後300日問題は、無戸籍問題へとつながっています。無戸籍問題とは、再婚した女性が、明らかに新たな男性との間の子どもであるにもかかわらず、戸籍上離婚した男性の子どもとして取り扱われてしまうことを避けるために、出生届を提出せず、子どもが無戸籍になってしまう問題です。

嫡出推定の制度は、そもそも、父親を早期に安定的に確定させることで、子どもの福祉にかなうことを1つの目的にした制度です。それにもかかわらず、嫡出推定の制度が、子どもの福祉とは真逆の弊害を生む要因になっています。

このような経緯から、離婚後300日問題を解決するための法改正の必要性が、長年にわたって議論されてきました。

3 民法改正案について

それでは、今回の民法改正案では、どのような見直しがされるのでしょうか。

(1) 再婚禁止期間の廃止

現行民法では、女性は、離婚から100日間については、再婚を禁止されています(民法733条)。前の夫と新たな夫との双方に嫡出推定が及んでしまう弊害を防ぐためです。

しかし、後述のとおり、嫡出推定の制度を大幅に見直すことになり、このような規定を存続させるメリットがなくなりました。なぜなら、再婚禁止期間を存続させても、前の夫と新たな夫との双方に嫡出推定が及んでしまう可能性は避けられないためです。

再婚禁止期間を存続させるメリットがなければ、女性に対して不合理な婚姻の制限を課する制度になるため、再婚禁止期間は廃止される予定です。

(2) 婚姻から200日以内に生まれた子でも夫の子と推定

民法改正案

(嫡出の推定)
第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
2 前項の場合において、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定し、婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
3 第1項の場合において、女が子を懐胎した時からこの出生の時までの間に2以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。
4 ・・・(省略)・・・

民法改正案では、婚姻日から200日以内に生まれた子であっても、婚姻後に生まれた子であれば、その婚姻における夫の子と推定される規定への見直しが予定されています(改正民法案772条1項、2項)。また、この規定を根拠に嫡出推定が前の夫と新たな夫の双方に及びうる場合には、新たな夫のみに嫡出推定が及ぶ規定への見直しが予定されています(同条3項)。

先ほどのケースでいえば、Bさんとの間だけではなく、Dさんとの間においても、Eさんへの嫡出推定が及びうるため、結果的に、新たな夫(直近に婚姻した夫)であるDさんのみに嫡出推定が及ぶことになります。

つまり、民法改正案が施行した後は、ケースで取り上げたような問題が解消されます。

(3) 嫡出否認の訴えの見直し

民法改正案では、嫡出否認の訴えを、父親からだけではなく、母親や子どもの側からも提起することが認められるようになる予定です(民法改正案774条1項)。

また、現行民法では、嫡出否認の訴えは父親が子供の出生を知った時から1年以内でなければ提起できませんが、民法改正後は、その期間が3年以内へと延長される予定です(民法改正案777条)。

さらに、子どもから提起する嫡出否認の訴えについては、父親との継続的な同居期間が3年未満である場合、原則として21歳になるまで認められる予定です(民法改正案778条の2)。

このように、嫡出否認の訴えについても、要件が大きく緩和される予定です。

4 おわりに

本コラムの執筆段階では、民法改正案は未成立の状況です。早期に法案が成立して、離婚後300日問題の解決に向けて、いち早く新しい制度がスタートすることを願います。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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