弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2022.11.11
終活のサポート

配偶者居住権の活用方法について弁護士が解説

1 民法改正で新たに導入された配偶者居住権

2020年4月に施行した民法改正により、遺産相続の制度として新たに「配偶者居住権」が導入されました。

まだ制度がスタートしてから間がないため、活用例は少ないですが、今後、利用されるケースが増えてくることが予想されます。今回のコラムでは、配偶者居住権とはいったいどのような制度なのか、解説したいと思います。

2 配偶者居住権の制度について

(1) 配偶者居住権とは

民法
(配偶者居住権)
第1028条 被相続人の配偶者・・・は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(・・・「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(・・・「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 ・・・

配偶者居住権は、被相続人(亡くなった人)が生前に所有していた建物(居住建物)に、相続開始時に無償で居住していた配偶者(妻・夫)が、その居住建物を無償で使用収益させる権利です。

配偶者居住権を取得した配偶者(妻・夫)は、居住建物に、自分が亡くなるまでの間(期間が定められていればその期間)、無償で居住し続けることができます。配偶者居住権がなくなった時点で、居住建物を所有者(居住建物の所有権を相続や遺贈によって取得した人)に明け渡すことになります。

(2) 配偶者居住権を活用したケース

例えば、次のような事例を考えてみましょう。

Aさん(男性)は、妻Bさんとマンション(Aさん所有)で暮らしています。Aさんには離婚歴があり、前妻との間の子Cさん・Dさん(別居)がいます。Aさんには、マンション(時価3000万円)のほか、預貯金2000万円があります。

Aさんは、最近体調を崩し、遺言を残しておきたいと思っています。マンションについては、自分の逝去後もBさんが引き続き住めるようにしておきたいと思っていますが、Bさんにはほとんど資産がありません。

Bさん・Cさん・Dさんが納得できる遺言を残すためにはどうしたらよいか、考えています。

仮に、Aさんが現時点で逝去したとすれば、遺産は、時価3000万円のマンションと、2000万円の預貯金、総額5000万円です。相続人全員が納得できるように、法定相続分に従って遺産を分けるのであれば、Bさんに2500万円、Cさん・Dさんにそれぞれ1250万円の遺産を渡す必要があります。ただし、Bさんに3000万円のマンションを取得させれば、Bさんは「取りすぎ」の状態になりますので、公平とはいえません。

このような場合に、Bさんにはマンションの所有権ではなく“配偶者居住権”を取得させ、所有権はCさんかDさんかのいずれかに取得させることが考えられます。

例えば、配偶者居住権の価額が2000万円と評価されるのであれば、次のような分け方ができます。

Bさんには、マンションの配偶者居住権と、預貯金500万円を取得させる。

Cさんには、マンションの所有権と、預貯金250万円を取得させる。

Dさんには、預貯金1250万円を取得させる。

この場合のマンションの価値は、本来の時価から配偶者居住権の価額を引いたものですので、1000万円です。

結果、Bさんに“Aさんの逝去後も(Bさんが逝去するまでは)マンションで生活することができる権利”を確保しつつ、相続人全員にとって公平な形で遺産を分けることができます。

(3) 遺言によって配偶者居住権を取得させる方法

配偶者居住権は、遺言によって配偶者に取得させることができます。

配偶者居住権は、“遺贈”によって取得させることができます。遺言には、「妻であるBに、次の建物の配偶者居住権を遺贈する」などと書いておく必要があります。

「配偶者居住権を相続させる」とは書かないように注意してください。

(“相続させる”と遺言で示されていたとしても、“遺贈する”意思があったものと解釈して、配偶者居住権の取得を認める考え方が一般的ではあります。ただ、なるべく解釈上の争いが生じるような書き方は避けるべきです。)

(4) 遺産分割によって取得する方法

配偶者居住権は、被相続人が亡くなった後に、相続人同士の話合い(遺産分割協議)や調停(遺産分割調停)で取得するケースもあります。

例えば、次のような事例を考えてみましょう。

Aさん(男性)は、妻Bさんとマンション(Aさん所有)で暮らしていましたが、2022年10月1日に逝去しました。Aさんには離婚歴があり、前妻との間の子Cさん・Dさん(別居)がいます。Aさんには、マンション(時価3000万円)のほか、預貯金2000万円があります。

Bさんは、Cさん・Dさんから遺産分割調停の申立てをされました。Bさんとしては、マンションに今後も継続して居住したいと考えていますが、時価3000万円のマンションを取得すれば、代償金としてCさん・Dさんに250万円ずつ支払わなければなりません。ただ、Bさんにはほとんど資産がなく、代償金を支払うことができません。

このような事例での解決策として、遺産分割によりBさんがマンションの配偶者居住権を取得し、CさんかDさんのいずれかがマンションの所有権を取得することを前提に、遺産分割調停を成立させることが考えられます。

仮に、配偶者居住権の価額が2000万円と評価されるのであれば、Bさんが“法定相続分よりも取りすぎている”状態にはなりませんので、Bさんは、CさんやDさんに代償金を支払わずに済むことになります。

このように、配偶者居住権の制度は、被相続人が亡くなった後にも活用できるケースがあります。

(5) 配偶者居住権の存続期間は?

配偶者居住権は、いつまで存続するか“期間を限定する”こともできますし、“配偶者が亡くなるまで”とすることもできます。特に期間を定めなければ、“配偶者が亡くなるまで”存続します。

一見、“配偶者が亡くなるまで”のほうが配偶者にメリットが大きいように思えますが、期間を限定した場合よりも配偶者居住権の価額が大きく評価されて、(1)取得することができる他の遺産が少なくなってしまったり、(2)相続税の負担が増えてしまったりするデメリットがあります。

配偶者居住権の存続期間については、(配偶者が)居住建物を今後どれくらいの期間使用していく必要があるかを考えたうえで、適正な期間を設定する(あるいは存続期間を設定せずに終身とする)必要があります。

3 配偶者居住権の制度を活用するうえで知っておくべきこと

(1) 修繕費や固定資産税は配偶者が負担していかなければならない

居住建物の修繕費や固定資産税は「通常の必要費」ですので、原則として、配偶者が負担しなければなりません(1034条1項)。居住建物に“無償”で居住することはできますが、一切の金銭的負担が不要なわけではありませんので、その点も考慮しておかなければなりません。

具体的には、被相続人が亡くなった後に配偶者が受け取る年金額を試算して、修繕費や固定資産税を負担するために不足することが見込まれる額を現金で別途相続させるなどの工夫が必要です。

(2) 改築や増築は所有者の承諾がなければできない

配偶者居住権は、あくまでも現在の居住建物への居住継続を保障するものですので、所有者の承諾がなければ、居住建物を改築したり、増築したりすることはできません(民法1032条3項)。例えば、バリアフリー化やリフォーム(雨漏りの修理など、単なる修繕であれば所有者の承諾がなくても可能です)などが必要であれば、被相続人の生前に終わらせておくなどの工夫が必要です。

(3) 所有者の承諾がなければ新たに賃貸したり売却したりすることができない

配偶者居住権は、あくまでも本人が居住建物への居住を続けることを保障するものですので、所有者の承諾がなければ、新たに賃貸したり、売却したりすることができません(民法1032条2項、3項)。

例えば、入院・転居・介護施設への入所などの事情で居住建物が不要になったとしても、所有者の承諾がなければ新たな賃貸や売却によって収益化することはできませんので、その点は留意しておかなければなりません。

(4) 登記をしておかなければならない

配偶者居住権の設定登記をしていなかった場合、万が一所有者が第三者に居住建物を売却してしまった場合、その買主に対して居住建物を明け渡さなければならなくなります(民法1031条2項)。

配偶者居住権を取得した場合は、できる限り早期に、所有者に協力を求めて、配偶者居住権の設定登記の手続を終わらせる必要があります。

4 配偶者居住権の価額はどうやって算定されるか

すでにご説明したように、配偶者居住権の価額が低く抑えられれば、(1)配偶者はその他の遺産を多く取得できることになりますし、(2)相続税の負担も抑えられますので、メリットが大きいです。

配偶者居住権の価額の算定方法は複雑なため、詳細な説明は割愛しますが、基本的な考え方は次のようなものです。

・居住建物の残りの耐用年数;20年

・配偶者居住権の存続期間;特に決めていない

・配偶者の年齢(相続開始時)での平均余命;10年

この場合は、居住建物はあと20年使用できますが、そのうち10年は配偶者が使用することが予想されます

つまり、居住建物の価値の2分の1程度は、配偶者居住権を取得した配偶者が享受することになりますので、配偶者居住権の価額は、居住建物の時価の2分の1に近いものであると考えることができます。

(ただし、配偶者居住権の価額を計算する考え方はより複雑ですので、単純に居住建物の時価の2分の1になるわけではありません。あくまでも、上記の説明は、配偶者居住権の価額の考え方を単純化したものです。)

以上のような考え方から分かるように、一般に、配偶者居住権の存続期間が長ければ長いほど、配偶者居住権の価額は高くなります

5 おわりに

今回のコラムでは、配偶者居住権について取り上げました。まだ始まって間がない制度のために、活用例の情報が少ないのが実情ですが、今後、利用されるケースは増えてくるものと予想されます。

当事務所では、遺言や相続などについてご相談をお受けしております。お困りの際には、お気軽にご相談ください。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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