弁護士法人 みお綜合法律事務所神戸支店
2022.11.22
離婚・夫婦のトラブル

離婚後の共同親権について弁護士が解説

第1章 はじめに

現在、離婚後の共同親権を認めるべきかどうかで、激しく議論が対立しています。離婚後の共同親権については以前から議論されていましたが、最近になって議論が大きく加速した理由の1つに、国連子どもの権利委員会から“離婚後の共同親権を認めるための法整備を進めるべき”との勧告を受けたことがあります。

今回のコラムでは、離婚後の共同親権を巡って現在どのような議論が進められているのか、そして、離婚後の共同親権にはどのような課題があるのかを取り上げたいと思います。

※このコラムは、2022年11月時点における法制審議会の情報をもとに執筆しています。必ずしも最新の情報を反映したものではないことをご了承ください。

第2章 共同親権に関する法制審議会の議論

共同親権については、離婚制度の見直しの一環として、令和3年から、法務省の法制審議会(家族法制部会)において検討が進められています。このコラムの執筆時点では、「家族法制の見直しに関する中間試案(修正案)」が公表されています。

共同親権に関する中間試案の概要は、次のようなものです。現在、共同親権についての議論は混迷していて、明確な方向性が決まっていない状況です。

1 離婚の際に共同親権の選択を認めるかどうか

中間試案では、「離婚後の父母双方を親権者と定めることができる」(共同親権)規律を設ける案と、そのような規律を設ける案の2つが示されています。後ほど取り上げるように、共同親権には様々な反対意見があり、法制審議会において現状結論が固まっていません。

なお、中間試案によれば、共同親権についての規律を設けるのであれば、単独親権から共同親権(あるいは共同親権から単独親権)への変更について家庭裁判所の判断でできるようにすべきかどうかも、議論の対象として挙げられています。

2 共同親権を選択する際の要件をどうするか

中間試案では、(1)共同親権を原則としたうえで、一定の要件を満たす場合に限って父母間の協議か家庭裁判所の判断で単独親権を認める案と、(2)単独親権を原則としたうえで、一定の要件を満たす場合に限って父母間の協議か家庭裁判所の判断で共同親権を認める案が挙げられています。

また、これらの案のほか、ケースバイケースで共同親権か単独親権かを決定すべきという案も挙げられています。

3 共同親権の場合における親権の行使についてどのような規律を定めるか

(1) 監護者を定めることを必須とするか

監護者については、(1)必ず一方に定めなければならないものとする案と、(2)監護者を一方に定めることも、監護者を定めずに父母双方で身上監護についての親権も行うことができるものとする案が挙げられています。

(2)の案については、さらに、監護者を定めることを原則とすべきか、監護者を定めないことを原則とすべきか、いずれも原則とせずに解釈に委ねるべきかについての議論があります。また、父母双方で身上監護についての親権を行う場合において、「主たる監護者」を定めるべきかどうかという議論もあります。

(2) 監護者が指定されている場合の規律をどうするか

監護者が一方に指定されている場合は、監護者が身上監護についての親権を行うことになります。身上監護についての親権とは、具体的には次のとおりです。

・子に監護や教育をする権利義務(民法820条)

・子の居所を定める権利(民法821条)

・子を懲戒する権利(民法822条)

・子の就職について許可をする権利(民法823条)

身上監護以外の親権については、(1)父母間で事前に協議したうえで行うことを原則とするかどうか、(2)協議を原則とした場合は協議がととのわない場合にどうするか(監護者が親権を行えるものとするか、家庭裁判所に親権を行う者の決定を委ねるか)、(3)監護者が協議なく単独で行えるものとしたうえで、もう1人の親権者への事後の通知のみ義務づけるかなど、様々な議論があります。

また、監護者が子の最善の利益に反するような行動に出た場合に、もう1人の親権者からそれを差し止める制度を導入するかどうかについても、議論があります。

(3) 監護者が指定されていない場合の規律をどうするか

親権については父母が共同で行うことを原則とした場合において、父母間で親権の行使に関する重要な事項について協議がととのわないときは、家庭裁判所が親権を行う者を決定する案が示されています。

(4) 子の居所の決定についての規律をどうするか

子の居所については、監護者が定めることができるという案と、父母の双方が関与するものとする案が示されています。

4 家庭裁判所が監護者を定める際の考慮要素をどうするか

父母の協議によって監護者を定めることができない場合に家庭裁判所が決定することも認める規律とする場合、家庭裁判所がどのような要素を考慮することができるようにするかが問題になります。

中間試案では、考慮要素の例として、次のようなものが挙げられています。

(1) 子が生まれてから現在までの生活・監護の状況

※子の連れ去り事例において連れ去り後の事情について考慮することを認めるかどうか議論があります。

(2) 子の発達状況・心情、子の意思

(3) 監護者となろうとする者の適性

(4) 監護者となろうとする者以外の親と子との関係

その他、監護者とならない親と子の交流が子にとって最善の利益になる場合に、その交流に対して監護者となろうとする者が積極的か消極的かを考慮要素に入れてよいかどうかについて、議論があります。

第3章 そもそも親権とは何か

1 親権の意味

共同親権とは何かを考える大前提として、そもそも「親権とは何か」を考えなければなりません。

親権は、「子の利益のために」親に認められた権利であり、義務でもあります(民法820条)。

子どもは、社会的に自立することができるように、周囲に見守られながら自立に必要な能力を養っていかなければなりません。親権者は、子どもが自立に必要な能力を養うことができるように、子どもに対する監護や教育を行うとともに、子どもが成熟するまでの間、後見的な役割も担う「義務」を負います。一方で、親権者は、(裁量の逸脱がない限り)自らの裁量によって、子どもに対してどのような監護・教育をするかなどを決めることができる「権利」を持っています。親権や、このような「義務」や「権利」の総称であると理解することができます。

共同親権の議論は、子どもに対して社会的自立のために必要な能力を養う機会を与え、また、子どもが成熟するまで後見的な役割を担って子どもの利益を守っていくために、離婚後も父母が共同して親権者となることが適当か(あるいは限定的な範囲で共同して親権を認めることが適当か)、それとも、父母の一方のみが親権者となることが適当かという問題に本質があります。

2 身上監護と財産管理

親権の内容は、身上監護についてのものと、財産管理についてのものに大きく分かれます。

身上監護についての親権は、おおむね次のとおりです。

・子に監護や教育をする権利義務(民法820条)

・子の居所を定める権利(民法821条)

・子を懲戒する権利(民法822条)

・子の就職について許可をする権利(民法823条)

一方で、財産管理についての親権は、おおむね次のとおりです。

・財産を管理する権利(民法824条)

・契約などの法律行為を代理する権利(同条)

単純に評価することはできませんが、親権の“子どもが社会的に自立するために必要な能力を養う機会を与える側面”は“身上監護についての親権”と親和的で、“未成熟な子どもが経済的・法律的な不利益を負うことから保護する後見的な側面”は“財産管理についての親権”と親和的であるといえます。

共同親権を認める見解においても、“身上監護についての親権”については監護者を定めて単独で行うことを原則とすべきか、それとも、“身上監護についての親権”についても共同で行うことを原則とすべきか(あるいはケースバイケースにより判断すべきか)で、意見の対立があります。

第4章 離婚後の共同親権に賛成する立場

離婚後の共同親権に賛成する立場からは、父母の離婚の有無にかかわらず、父母の双方が子どもの成長にかかわっていくことが、子どもの利益に資する結果になることが主張されています。

1 父母双方との関係性維持

具体的には、離婚後の単独親権を認めていない現行制度のもとでは、親権者とならなかった親は次第に子どもと疎遠になるケースが多いことが問題点として指摘されています。離婚後の共同親権を認めることで、子どもが(父母の離婚後も)父母双方との関係性を維持することができ、父母双方の愛情を身近に感じながら成長していくことが子どもの利益につながるという立場です。

2 国連子どもの権利委員会の勧告

また、2019年2月1日の国連子どもの権利委員会総括所見第27条(b)においても、子どもの最善の利益のために、離婚後の共同親権(shared custody of children)を認めるための法整備を進めるべきことが勧告されています。世界の動向を見ると、離婚後の共同親権を認める国は増えてきており、そのような状況も、離婚後の共同親権に賛成する立場を後押ししています。

第5章 離婚後の共同親権に反対する立場

一方で、離婚後の共同親権に反対する立場からは、様々な意見が主張されています。

1 DV事案における懸念

第1に、離婚後の共同親権が、DV事案における被害者の保護を阻害する懸念があると指摘されています。離婚後の共同親権を認めた場合、DV事案においても親権を行ううえで父母の協議が必要になり、加害者と被害者の関係を完全に切り離すことができなくなることが問題点として挙げられています。

2 父母の紛争を再発させる懸念

第2に、離婚後の共同親権を認めた場合、離婚後においても子どもに関することで父母の紛争を再発させる懸念があると指摘されています。子どもに関する父母間での意見の対立は、進学、疾病の治療、転居など、生活上の様々な場面で生じえます。(子どもに関する意見の食い違いが離婚原因となっている場合は特に)離婚後の共同親権を認めることで、父母間の対立を度々生じさせて、子どもの利益を阻害する要因になりうることが問題点として挙げられています。

3 導入の必要性に対する疑問

第3に、父母の双方が子どもの成長にかかわっていくことは、養育費や面会交流の制度のもとでも実現しうるものであり、離婚後の共同親権の制度を認めるべき理由として十分なものではないとの指摘もあります。

第6章 離婚後の共同親権を巡る議論はどのように進んでいくか

1 離婚後の共同親権は最終的に導入されるのか

現在、法制審議会の議論は混迷しており、最終的にどのような結論になるかは見えづらいところがあります。

ただ、国連子どもの権利委員会から勧告を受けた事情や、現在の議論の動向を踏まえると、離婚後の共同親権について一切導入が見送られる可能性よりも、何らかの形で導入の方向に議論が進んでいく形が高いものと思われます。

もっとも、DV事案や父母間で子どもを巡る対立が激しい事案など、離婚後の共同親権を導入することの懸念が大きいケースも想定されるため、離婚後の共同親権について“限定的”に導入する方向からスタートするのではないかと予想されます。

2 どのような場合に離婚後の共同親権を認めるのか

離婚後の共同親権について限定的な導入にとどめるとして、次に問題になるのは、どのような場合に共同親権を認めるかです。

特に、家庭裁判所によって共同親権の適否を判断することを認めるのであれば、どのような基準を満たした場合に共同親権を認めるべきかが問題になります。

方向性としては、子どもの利益にとって共同親権がマイナスになりうる場合は消極的な判断、プラスになりうる場合は積極的な判断が適当ですが、そもそも子どもの利益にとって共同親権がどこまでプラスに作用するかが曖昧な現状の議論では、基準の明確化に大きなハードルがあります。

3 監護者の定め方についてどのような規律を設けるか

さらに、共同親権を認めたうえで、監護者の定め方についてどのような規律を設けるか(あるいは設けないか)も問題になります。監護者は、子どもの身上監護に関わる部分を担いますので、子どもとの関わりにおいて密接な役割を果たします。

共同親権の場合において、父母の双方が監護者としての役割を担うことを許容するのであれば、父母の意見が対立した場合にどのように調整を図るかが問題になります。具体的には、家庭裁判所の判断によって解決する考え方あらかじめ「主たる監護者」を明確にしなければならないものとする考え方などがあります。

離婚後は夫婦が別居することが通常であるため、父母双方が全く同様に監護者としての役割を担うことは、現実的に難しいように思われます。そのような観点からは、共同親権を認めるとしても、監護者をあらかじめ父母の一方に指定するか、あるいは、「主たる監護者」を指定することを義務づけることが適当ではないかと思われます。

もっとも、離婚後の共同親権に賛成する立場からは、父母の一方にしか主体的に子どもの身上監護に関わる機会が与えられないのであれば、共同親権の導入によるメリットを十分に享受できないという反論もありうるところです。

また、監護者をあらかじめ父母の一方に指定するか、あるいは、「主たる監護者」を指定することを義務づけるとして、父母間で合意が形成されない場合に家庭裁判所がどのようにその判断に関与していくか(どのような判断基準によって指定することが適当か)も課題になります。

4 おわりに

離婚後の共同親権を巡る議論は、様々な方向の考え方があり、明確な答えが出るまでにはまだ期間を要するように思われます。この議論は、面会交流についての課題、さらには、親権制度のあり方にもかかわる重要なものです。今後の動向に注目していきたいと思います。

このコラムを書いた人

弁護士石田優一
兵庫県弁護士会所属 68期 登録番号53402
みお神戸支店長、パートナー弁護士。社会保険労務士、登録情報セキュリティスペシャリストの資格を持ち、くらしの身近な相談から、企業法務、IT法務、ベンチャー支援まで、幅広く注力する。弁護士として神戸・兵庫に貢献できることを日々探求している。

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