遺言執行者の選び方~大切な遺言を確実に実現するために~
- 1.はじめに
- 2.遺言執行者とは
- (1)遺言執行者の役割
- (2)遺言執行者を選ぶ2つの方法
- 3.遺言執行者の具体的な業務
- (1)基本業務
- (2)財産の処分に関する業務
- (3)遺言執行者でなければできない特殊な手続
- 4.遺言執行者になれる人・なれない人
- (1)資格要件
- (2)報酬について
- 5.ご家族が遺言執行者になる場合
- (1)メリット(費用を抑えられる)
- (2)デメリット
- 6.弁護士に遺言執行者を依頼する場合
- (1)メリット
- (2)デメリット(費用がかかる)
- 7.弁護士への依頼を特におすすめするケース
- (1)財産の構成が複雑な場合
- (2)相続人間で紛争が起きるおそれがある場合
- (3)特殊な手続が必要な場合
- (4)相続人ご自身での手続が難しい場合
- 8.おわりに
1.はじめに
「遺言書を書いておけば安心」と思っていらっしゃる方は多いかもしれません。しかし、遺言書を作成しただけでは、その内容が自動的に実現されるわけではありません。遺言書に記載されたとおりに財産を分配し、名義変更などの手続を進めてくれる人、すなわち「遺言執行者」の存在が重要になります。
特にご高齢の方の場合、遺言書を作成した後、ご自身がお元気なうちは問題がなくても、いざ相続が始まったときに「誰がこの遺言を実行してくれるのか」という問題に直面することになります。遺言執行者を適切に選んでおくことは、残されたご家族の負担を大きく軽減し、遺言の内容を確実に実現するための大切な備えです。
本コラムでは、遺言執行者とはどのような存在なのか、具体的にどのような仕事をするのか、そして誰に依頼すればよいのかについて、弁護士の立場からわかりやすくご説明いたします。遺言書の作成をお考えの方は、ぜひ参考になさってください。
2.遺言執行者とは
(1)遺言執行者の役割
遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容を法的に実現する役割を担う人のことです。たとえば、「自宅の不動産は長男に相続させる」という遺言があった場合、実際に不動産の名義変更(登記手続)を行うのが遺言執行者の仕事です。
遺言執行者は、その任務を開始したときは遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。また、相続財産の目録を作成して相続人に交付する義務も負います。このように、遺言執行者は、相続人全員に対して公正な立場で遺言の内容を実現していく重要な役割を担っています。
(2)遺言執行者を選ぶ2つの方法
ア 遺言書で指定する方法
もっとも一般的な方法は、遺言書の中であらかじめ遺言執行者を指定しておくことです。たとえば、遺言書に「遺言執行者として○○を指定する」と記載しておけば、遺言者が亡くなった後、指定された方がそのまま遺言執行者として就任することができます。遺言者が生前にご自身の意思で選べるという点で、この方法がもっとも確実です。
イ 家庭裁判所に選任を申し立てる方法
遺言書に遺言執行者の指定がない場合や、指定された方が就任を辞退した場合には、相続人などの利害関係人が家庭裁判所に対して遺言執行者の選任を申し立てることができます。家庭裁判所は、申立ての内容を踏まえて適任者を選任します。
ただし、この方法では家庭裁判所への申立てに手間と時間がかかるため、できれば遺言書の作成段階で遺言執行者を指定しておくことをおすすめいたします。
3.遺言執行者の具体的な業務
(1)基本業務
遺言執行者に就任すると、まず相続人の調査・確定を行います。戸籍謄本等を収集して法定相続人を特定し、遺言の内容を相続人全員に通知します。あわせて、遺言者の相続財産をすべて調査し、財産目録を作成して相続人に交付しなければなりません。
(2)財産の処分に関する業務
基本業務が完了した後は、遺言書の内容に従って、具体的な財産の処分手続を行います。主な業務としては、預貯金の解約・分配、不動産の名義変更(登記申請)、株式の名義変更、自動車の登録変更、動産の引渡しなどがあります。いずれも、金融機関や法務局などの窓口での手続が必要であり、相応の時間と労力がかかります。
(3)遺言執行者でなければできない特殊な手続
遺言の内容によっては、遺言執行者でなければ行えない特殊な手続もあります。
第一に、遺言による認知です。生前に認知できなかった子がいる場合、遺言で認知することができますが、この届出は遺言執行者が就職の日から10日以内に行わなければなりません。
第二に、推定相続人の廃除やその取消しです。虐待や重大な侮辱などを理由に特定の相続人の相続権を失わせる手続であり、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てます。
第三に、遺贈の履行です。相続人以外の方に財産を譲る場合、その手続は遺言執行者が行います。
4.遺言執行者になれる人・なれない人
(1)資格要件
法律上、未成年者と破産者を除き、誰でも遺言執行者になることができます。つまり、特別な資格は必要ありません。相続人自身が遺言執行者になることも法律上は可能です。
ただし、相続人の一人が遺言執行者を務める場合、他の相続人から「自分に有利に手続を進めているのではないか」という疑いを持たれることがあり、かえってトラブルの原因になりかねませんので注意が必要です。
なお、遺言執行者は、遺言執行者に指定された方が就任を承諾した時点で正式に就任することになります。就任を辞退することも自由です。
(2)報酬について
遺言執行者には報酬を支払うことができます。報酬の額は、遺言書であらかじめ定めておくか、定めがない場合は家庭裁判所が相続財産の状況その他の事情によって決定します。弁護士に依頼する場合は、遺言書の作成段階で報酬額を定めておくのが一般的です。
5.ご家族が遺言執行者になる場合
(1)メリット(費用を抑えられる)
ご家族が遺言執行者を務める最大のメリットは、専門家への報酬が不要になることです。遺産の額があまり大きくない場合には、費用を節約できるという点は魅力的です。また、故人の財産状況や家族関係をよくご存じであるため、財産調査がスムーズに進む場合もあります。
(2)デメリット
ア 大きな労力と時間がかかる
相続手続は、銀行、法務局、市区町村役場など、複数の機関での手続が必要です。平日の営業時間内に何度も足を運ばなければならないことも多く、お仕事をお持ちの方にとっては大きな負担となります。
【具体例】長男が遺言執行者となったケースでは、銀行や法務局、市役所への手続のために仕事を何日も休まなければなりませんでした。慣れない書類作成にも時間がかかり、すべての手続が完了するまでに半年以上を要しました。
イ 相続人間の感情的対立や公平性への疑念が生じやすい
遺産分割の場面では、相続人同士の感情的な対立が起こりやすいものです。特に、相続人の一人が遺言執行者になった場合、「本当にすべての財産を開示しているのか」「自分に有利に進めているのではないか」といった疑念を持たれることがあります。これがきっかけで、相続人間の関係が悪化してしまうケースも少なくありません。
【具体例】次男が遺言執行者として預貯金を分配したところ、長男から「隠し口座があるのではないか」と疑われ、手続が大幅に停滞してしまいました。
6.弁護士に遺言執行者を依頼する場合
(1)メリット
ア 専門知識による迅速・確実な手続
弁護士は相続手続に精通しており、必要な手続を迅速かつ正確に進めることができます。戸籍の収集から財産調査、各種名義変更手続まで、一連の流れを熟知しているため、手続の漏れや遅延が生じにくいのが大きな強みです。金融機関や法務局とのやり取りにも慣れており、書類の不備による手戻りも少なく済みます。
イ 紛争が生じた場合にも対応できる
遺言の有効性や内容の解釈をめぐって相続人間で争いが生じた場合でも、弁護士であれば法的な判断を行いながら遺言執行を進めることができます。訴訟に発展した場合にも対応が可能です。
ウ 手続の「おまかせ」ができる
弁護士に遺言執行者を依頼すれば、相続人の方は基本的に何もする必要がありません。必要書類に署名をするだけで、あとはすべて弁護士が手続を進めます。相続人の方の負担を大幅に軽減できます。
【具体例】仕事が多忙で平日に時間が取れなかった長男は、弁護士に遺言執行のすべてを委ねました。届いた書類に署名するだけで手続が完了し、「こんなに楽だとは思わなかった」とお話しされていました。
エ 中立・公平な立場での執行
弁護士は第三者として中立的な立場で遺言を執行するため、相続人間の公平性が保たれます。「特定の相続人に肩入れしているのではないか」という疑念が生じにくく、相続人全員が安心して手続を任せることができます。遺言の内容について相続人間で疑問や不満が生じた場合にも、弁護士が客観的な立場から説明することで、円満な解決につながりやすくなります。
(2)デメリット(費用がかかる)
弁護士に依頼する場合、当然ながら報酬が発生します。遺産の額が比較的少ない場合には、費用対効果の面でためらわれることもあるかもしれません。しかし、相続手続の煩雑さやトラブル防止の観点からは、費用以上の価値がある場合も多いといえます。報酬の額は事前に遺言書で定めておくことができますので、遺言書作成の段階で弁護士と十分に相談されることをおすすめいたします。
7.弁護士への依頼を特におすすめするケース
以下のような事情がある場合には、弁護士に遺言執行者を依頼されることを強くおすすめいたします。
(1)財産の構成が複雑な場合
不動産が複数ある場合、株式や投資信託などの多様な金融資産をお持ちの場合、あるいは事業用資産(店舗や工場など)がある場合は、手続が複雑になります。それぞれの資産について異なる窓口での手続が必要であり、法律上の判断も求められるため、専門家による対応が望ましいといえます。
(2)相続人間で紛争が起きるおそれがある場合
遺留分侵害の問題が生じそうな遺言内容の場合、遺言の内容に不満を持つ相続人がいる場合、相続人同士の関係が良好でない場合、あるいは前妻のお子さまと後妻のお子さまがいらっしゃるなど家族関係が複雑な場合は、中立的な第三者である弁護士に遺言執行を任せることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
(3)特殊な手続が必要な場合
遺言による認知や推定相続人の廃除など戸籍に関わる手続が含まれる場合、相続人以外の方への遺贈がある場合、遺言の解釈に専門的な判断が必要な場合には、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
(4)相続人ご自身での手続が難しい場合
相続人の方がご高齢やご病気で手続が困難な場合、遠方や海外にお住まいの場合、お仕事がお忙しく時間的余裕がない場合なども、弁護士に一任されることをおすすめいたします。
8.おわりに
遺言書は、ご自身の大切な財産をどのように残すかを決めるものです。しかし、その内容を確実に実現するためには、信頼できる遺言執行者の存在が欠かせません。せっかく作成した遺言書も、執行する人がいなければ「絵に描いた餅」になりかねないのです。
遺言執行者の選任は、遺言書の作成と同じくらい重要な判断です。ご家族の状況、財産の内容、相続人同士の関係などを総合的に考慮して、もっとも適切な方を選ぶようにしましょう。特に、財産構成が複雑であったり、相続人間で意見の対立が予想されたりする場合には、専門家である弁護士への依頼を積極的にご検討いただければと思います。
「自分の場合はどうすればよいのだろう」とお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。遺言書の作成から遺言執行者の選任まで、お一人おひとりのご事情に合わせたアドバイスをさせていただきます。初回のご相談だけでも、ご自身の状況を整理し、今後の方針を考える良いきっかけになるはずです。大切なご家族のために、今できる備えを始めてみませんか。





