遺言執行者に就任予定の方が知っておきたい基礎知識
- 1.遺言執行者になるってどういうこと?
- 2.遺言執行者ってどうやったらなれる?
- (1) 遺言執行者は原則としてだれでもなれる
- (2) 遺言執行者に指定する方法
- (3) 遺言執行者を決めないとどうなる?
- 3.遺言執行者ってどんな仕事?
- (1) 遺言執行者の役割
- (2) 必要なものをそろえる
- (3) 他に遺言書が存在していないかを確認する
- (4) 相続人全員に「遺言執行者に就任したこと」を通知する
- (5) 金融機関に「遺言執行者に就任したこと」を通知する
- (6) 必要な調査の段取りを検討する
- (7) 遺言書を確認してしなければならないことを洗い出す
- (8) 預貯金の解約手続や不動産の名義変更などを進める
- (9) 手続を進めにくい事情が生じた際は、弁護士などの専門家に相談する
- (10) すべての手続が終わったら遺言執行終了事務を行う
- 4.おわりに
1.遺言執行者になるってどういうこと?
最近、終活として遺言書を作成する方が増えています。遺言書を作成せずに亡くなった場合、相続人同士で遺産分割を巡って争いになってしまうことが珍しくありません。ご自身が遺した財産によって親族同士が泥沼の関係になることを避けるために、あらかじめ「だれに何を渡すか」を決めておく遺言書は、大変重要な意味があります。
ご親族が遺言書を作成する際、「遺言執行者になってほしい」と依頼されることがあるかもしれません。その際、ほとんどの方が、「遺言執行者?いったいどんな仕事なんだろう・・・」と感じるかと思います。
今回のコラムでは、「遺言執行者ってそもそも何?」「遺言執行者ってどんな仕事?」といったテーマを、取り上げたいと思います。
2.遺言執行者ってどうやったらなれる?
(1) 遺言執行者は原則としてだれでもなれる
遺言執行者には、未成年者や破産者を除き(民法1009条)、原則として「だれでも」なることができます。例えば、遺言書で自分の財産を(相続人の1人である)Aさんに「相続させる」と書いたうえで、Aさんを遺言執行者にすることもできます。
遺言の執行を公正に進めるために、遺言執行者を相続人以外に指定することが適切な場合もありますが、法律的には、「相続人は遺言執行者になれない」というルールはありません。
(2) 遺言執行者に指定する方法
遺言執行者は、遺言書の中で「だれだれにします!」と指定することができます。
一例として、次のような定め方があります。なお、法律的には、遺言執行者の権限について記載することは必須でなく、遺言執行者が「だれ」であるか特定することができれば足ります。
第*条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。 住 所 ・・・ 職 業 ・・・ 氏 名 ・・・ 生年月日 ・・・ 2 遺言執行者は、この遺言に基づく不動産に関する登記手続並びに預貯金等の金融資産の名義変更、解約、払戻し及び貸金庫の開扉・解約、内容物の引取り等その他この遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有する。 |
遺言をする人は、「この人であれば安心して任せられる」と思った人を、遺言執行者に指定する必要があります。この後説明するように、遺言執行者は、「自分の大切な財産を、自分が亡くなった後に託す人」ですので、「財産管理がいい加減な人」「不正を働くおそれのある人」にその管理を任せることは絶対に避けるべきです。
(1)「この人に任せれば絶対大丈夫」という方がいらっしゃらない場合や、(2)財産関係が複雑な場合(あるいは大きな財産がある場合)、(3)「万全を期しておきたい」と思われる場合は、遺言執行者を弁護士などの専門家に委ねることをおすすめします。
また、遺言執行者は、たとえ遺言で指定されていても、「断る自由」があります(民法1007条1項)。遺言執行者は、「確実に引き受けてもらえる人」に指定しておく必要があります。適当な方がいらっしゃらない場合は、弁護士などの専門家に委ねることをおすすめします。
(3) 遺言執行者を決めないとどうなる?
遺言書を作成する場合でも、遺言執行者を指定しないことはできます。ただ、遺言執行者が指定されていないと、相続人全員で遺言を執行しなければなりません。相続人同士で意見の対立が起きると、「遺言の執行が進められない!」という事態になりかねません。これでは、親族同士の争いを避けるために遺言書を作成した意味がありません。
遺言書を作成する以上、遺言執行者はきちんと定めておくことが適切です。
3.遺言執行者ってどんな仕事?
(1) 遺言執行者の役割
遺言執行者の役割は、その名前のとおり、「遺言」を「執行」することです。では、遺言の執行とは、具体的にはどのような仕事でしょうか。具体的で見ていきましょう。
(2) 必要なものをそろえる
遺言執行者への就任は、遺言書(公正証書遺言であればその正本)を保管している人から連絡を受けることからスタートします。
遺言書が公正証書遺言でない場合は、家庭裁判所への検認の申立てを行っているかどうかを確認しましょう。特に、開封されていない遺言書は、検認の手続を経ずに開封することはできませんで、誤って開封してしまわないように注意が必要です。
まずは、亡くなった方と同居していた(あるいは財産の管理を委ねられていた)相続人の方と連携して、次のような資料を集めましょう。
相続人の所在が分からないなど、この段階から調査が難航するのであれば、すぐに弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
a) 相続関係を確認するための戸籍関係書類一式
検認の申立ての際に必要なものと同様の戸籍関係書類一式を入手して、「相続人がだれか」を確認する必要があります。すでに検認申立てをしている場合は、戸籍関係書類を集めていることが通常ですので、そちらのコピーを利用するとスムーズです。
b) 相続人全員の住所が分かる資料
(3)のとおり、相続人全員への通知が必要になりますので、相続人の住所の確認が必要です。
c) 受遺者(遺贈を受け取る人)の住所が分かる資料
遺言の執行を進めていくうえでは、遺言書に受遺者として指定されている人の住所を確認しておくことが必要です。
※すぐに確認ができない場合は、(3)の通知を先行させるようにしてください。
d) 被相続人(亡くなった方)の財産に関するもの一式
不動産の権利証(登記識別情報)、預貯金通帳・キャッシュカード、銀行印、実印、株券など、被相続人の財産に関するものを取り急ぎ預かってください。
また、これらの預かり品のほかに財産がないか、同居していた親族から聴き取ったり、本人の残したメモを確認するなどして、「それが今どこにあるか」を可能な範囲で把握するようにしてください。
(3) 他に遺言書が存在していないかを確認する
自筆の遺言書の場合は、他に公正証書遺言や法務局に保管された遺言がないかを確認しておくことが必要です。なぜなら、自筆の遺言書よりも後に別の遺言書が作成されている場合には、後者のほうが優先的に適用されるからです。
公正証書遺言については、公証役場において遺言検索システムを利用することで、存否を確認することができます。また、法務局に保管された遺言については、法務局で遺言書保管事実証明書の交付の請求をすることで、存否を確認することができます。
(4) 相続人全員に「遺言執行者に就任したこと」を通知する
できる限り早期に、相続人の全員に、遺言の内容を知らせるとともに、「遺言執行者に就任しました」と通知してください(民法1007条2項)。たとえ、遺言書の中で「相続人甲には一切の財産を相続させない」と書いていたとしても、甲に対しても相続人の1人として通知をする義務がありますので、注意が必要です。
特に、通知書の作り方に決まりはありません。遺言書のコピーと、把握できている相続財産の一覧を付けて、「この度、被相続人※※が令和※年※月※日に逝去し、別紙の遺言書のとおり指定を受けた私が遺言執行者に就任し、任務を開始しました」という内容を通知すれば足ります。できれば、相続関係図も作成して、相続関係を把握しやすくしておくことが望ましいです。事情の聴き取りをしたい相続人には、後日連絡をしたい旨を書き添えておくとよいです。
また、相続人のだれかが被相続人の財産の管理(例えば、キャッシュカードと通帳を保管しているなど)をしている場合は、財産の処分(預貯金の引き出しなど)を行わないように「遺言の執行のためにお預かりしたい」と書き添えておくことが適切です。
(5) 金融機関に「遺言執行者に就任したこと」を通知する
預貯金を特定の相続人が取得する場合や、遺贈する場合には、「遺言執行者に就任したこと」や遺言の内容を、金融機関にも通知することが必要です。
なぜなら、預貯金を受け取る権利が移転したことは、金融機関に対して通知をしなければ、主張(対抗)することができないからです。
(6) 必要な調査の段取りを検討する
始めの段階で相続財産の全体像を把握しきれていなければ、調査を進める必要があります。
相続人に事情を確認することで把握できるものは、連絡を取って確認を行います。
調査が難航する場合には、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
基本的な観点としては、相続財産のすべてが財産目録上で一覧化できるように調査を進めていきます。
(4)の通知の時点で財産目録が未完成であれば、完成次第、相続人全員に送付するように手配してください(民法1011条1項)。
(7) 遺言書を確認してしなければならないことを洗い出す
遺言書の内容を丁寧に1つ1つ読み解いて、遺言執行者としてしなければならないことをすべて洗い出します。認知や法人設立など遺贈以外の特別な定めが含まれている場合や、遺言書の意味をきちんと理解することができない場合には、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
(8) 預貯金の解約手続や不動産の名義変更などを進める
遺言書の内容に沿って、預貯金や証券口座などの手続、貸金庫の開扉、不動産の名義変更など、必要な手続を漏れなく進めていきます。
不動産の名義変更は、ご自身で進めることもできますが、できれば司法書士に相談することをおすすめします。配偶者居住権を遺贈によって設定する旨の定めがある場合も、その登記が必要です。
また、預貯金や証券口座などの解約手続については、各金融機関のWebサイトで調べたり、直接窓口で確認するなどして、手続の方法を詳しく確認します。
※遺言書が存在しても、遺言執行者だけではなく、相続人全員の押印を求められることがあります。その場合は、適宜、相続人に連絡を取って進めていくことが必要です。
(9) 手続を進めにくい事情が生じた際は、弁護士などの専門家に相談する
非公開株式や知的財産権などの取扱いの難しい財産がある場合、遺言の内容について相続人と争いが生じた場合、遺留分の主張を受けた場合などは、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
遺言執行者は、遺言の執行をきちんと行う責任を負っていますので、「自分だけでは進められない」と思ったときは、専門家の手に委ねることが適切です。
(10) すべての手続が終わったら遺言執行終了事務を行う
すべての手続が終了した後は、相続人全員や受遺者に、「遺言執行事務が令和※年※月※日をもって終了しました」と通知します。通知書には、遺言執行者として「何をやったか」の一覧を添付するようにしてください。また、手続のために相続財産から支出した費用があれば、領収書のコピーを付けて、不正がないことを相続人らに説明することも必要です。
4.おわりに
今回のコラムでは、遺言執行者について取り上げました。遺言執行者になると、しなければならない手続が様々発生し、すべてを確実にこなすことはなかなか大変です。特に、相続財産が複雑であれば、専門的な知識がないと難航することが珍しくありません。
遺言執行者に就任した後でも、「どうすればよいか分からない!」「大変すぎて自分では限界!」と感じたときには、当事務所にご相談ください。遺言執行者としてしなければならない手続を、弁護士に依頼することができます。必ずしもすべての手続を依頼する必要はなく、一部の手続のみを依頼することもできます。
また、これから遺言書を作成しようとする場合で、「身近に遺言執行者となってもらえる方が見つからない!」というケースも、ぜひ当事務所にご相談ください。遺言書の作成から遺言執行者としての事務まで、サポートさせていただくことが可能です。